無分別むふんべつ)” の例文
少年はずこの店にはいり、空気銃を一つとり上げて全然無分別むふんべつまとねらう。射撃屋の店には誰もいない。少年の姿は膝の上まで。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だが何より例の一件をノズドゥリョフに漏らしたことが口惜くやしかった。まるで赤ん坊か馬鹿者のように無分別むふんべつなことをやったものである。
受け出し長庵方に差置さしおいて折々通ひたのしまば此上もなき安心成りと思ふも若氣わかげ無分別むふんべつまよふ心の置所おきどころつゆの命と氣も付かず不※ふと惡心あくしんや發しけんひそかにたなの有金の内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私はそれを胸一つに納めて、少し早目に福寿院の境内に参り、二人の顔のそろったところで、よく話をして無分別むふんべつな夜逃げなどを留めようと思ったのでございます。
のろふのぢゃ? せいてんこのつが相合あひあうて出來できをば、つい無分別むふんべつてうでな? 馬鹿ばかな、馬鹿ばかな! 姿すがたを、こひを、分別ふんべつはづかしむる振舞ふるまひといふものぢゃ。
「ほんとに、おかわいそうでございますよ、まだお若いのに、なんという無分別むふんべつでございましょう」
彼自身の無分別むふんべつの結果である、めた力を、彼女が彼の行動に及ぼしてゐるとしたら、どうだらう。
世を果敢はかなんで居るうちは、我々の自由であるが、一度ひとたび心を入交いれかへて、かかところへ来るなどといふ、無分別むふんべつさへ出さぬに於ては、神仏しんぶつおはします、父君ちちぎみ母君ははぎみおはします洛陽らくようの貴公子
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
実を云うと自分は相当の地位をったものの子である。込み入った事情があって、こらえ切れずに生家うちを飛び出したようなものの、あながち親に対する不平や面当つらあてばかりの無分別むふんべつじゃない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又私はその引負ひきおひの為に、主人から告訴致されまして、きてをりますれば、その筋の手に掛りますので、如何いかにとも致方いたしかたが御座いませんゆゑ、無分別むふんべつとは知りつつも、つい突迫つきつめまして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
父樣とつさまにも勘藏かんざうにも乳母ばあやにはべつしてのこといろ/\と苦勞くらうをかけまして今更いまさらおもへばはづかしいやらおどくやら幼心をさなごゝろのあとさきずにほどのない無分別むふんべつさりながらきぬいのちかやことたすかりしを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ことに妻子をいた渡り者を見ると一層その思ひを深うした。そして、次にはぐ自分の無分別むふんべつを顧慮しなければならなかつた。此の土地を今離れることは全く軽卒であると気が附くのであつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「おかあちゃん、……おかあちゃん。」と、しょうちゃんがいったときに、女中じょちゅうは、そのげたうちわをげて、いまさら、自分じぶん無分別むふんべつをば、ふかこころじながら、これをしょうちゃんにわたしますと
遠方の母 (新字新仮名) / 小川未明(著)
主人しゅじんは、まあまあとことばしずかにふたりをせいした。秋のゆくというさびしいこのごろ、無分別むふんべつな若ものと気ちがいとのあらそいである。主人はおぼえずぶるいをした。花前はなまえ平然へいぜんたるもので
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
無分別むふんべつで、あさはかで、つきつめてゐるでせう。
春の詩集 (新字旧仮名) / 河井酔茗(著)
ふぐ汁や鯛もあるのに無分別むふんべつ
河豚のこと (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
牙彫げぼり基督キリスト、(紫壇の十字架上に腕をひろげつつ)無分別むふんべつな事をしてはいけない。ふだん云つて聞かせる通り、自殺などをしたものは波群葦増はらゐその門にはひられないからね。
長崎小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
無分別むふんべつで出て来たお君。生れ土地から尾上山おべやまの外へ出たことのないお君。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日はディープデンの夢を見る代りに、正しい事をしようと望んでゐるものが、どうして、チヤァルズ一世が時々したやうに、あんなに不正な無分別むふんべつな行動をとれるのかしらと思つてゐたのよ。
あまりの無分別むふんべつひとふところでもねらうやうにならば、はぢが一だいにとゞまらず、おもしといふとも身代しんだいは二のつぎ親兄弟おやけうだいはぢするな、貴樣きさまにいふとも甲斐かひけれど尋常なみ/\ならば山村やまむら若旦那わかだんなとて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いやおさっし申しあげます、いかにもそりゃ……まことにおのどくな、しかし糟谷さんあまり無分別むふんべつなことをやってしまってはりかえしがつきませんよ、奥さんはよほど興奮こうふんしていらっしゃるから
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ふぐ汁やたいもあるのに無分別むふんべつ
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
竜之助思うよう、やっぱり、これは無分別むふんべつな若い者共じゃ。