案外あんがい)” の例文
とかく我々が思わぬことを聞いたり見たりすると、一時案外あんがいの驚きに打たれて、その人が故意こいに我をあざむけりと判断することがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
訊問じんもんすると、案外あんがいにも老人ろうじんのことを、借金しゃっきん取立とりたてがきびしくへんくつだが、面白おもしろいところのある人物じんぶつだといつたし、また借金しゃっきんのことで
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
敦子あつこさまはそうって、わたくしひざをすりせました。わたくし何事なにごとかしらと、えりただしましたが、案外あんがいそれはつまらないことでございました。——
人の力でどうにもならないのは、皮肉ひにく運命うんめいで、その運命をえて案外あんがいにくるわすものは、これまた人力の自由にならぬ時間というものである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この新しい生活はなかなかわたしには苦しかったが、しかしこれまでの浮浪人ふろうにんの生活とても似つかない労働ろうどうの生活が案外あんがい早くからだにれた。
みんなは、老人ろうじん海岸かいがんへひきずってきました。そして、みんなをあざむいたことをなじりました。すると、老人ろうじんは、案外あんがい平気へいきかおをしていいました。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
あてどもなく、足の向くままに歩いていると、にぎやかな新橋の交叉点こうさてんに出た。浜の公園から新橋までは案外あんがい近かった。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
国王はケメトスがまだ十五六歳の若者であるのを見て、案外あんがいな気がされました。しかしその技をためしてみられると、初めて舌をいて驚かれました。
彗星の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
内部ないぶ案外あんがい綺麗きれいでありますから、ちょっとこゝで住居じゆうきよしてもよいとおもふほどであります。道理どうりときには乞食こじきなどが、この石室せきしつんだりしてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
二人とも案外あんがい見られる服装をしてやって来た。この界隈かいわいの人の間には共通の負けん気があった。いざというときは町の小商人にヒケはとらないという性根しょうねであった。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
卓子掛てーぶるかけ椅子いす緋色ひいろづくめな部屋へやには数人すうにんのRこく男女だんじよがゐて、わたし仲間なかま案外あんがいにもきわめて小数せうすうであつた。そのおうくは夫人帯同ふじんたいどうであつたことも、わたしには意外いがいであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
通商貿易つうしょうぼうえき利益りえきなど最初より期するところに非ざりしに、おいおい日本の様子ようすを見れば案外あんがいひらけたる国にして生糸きいとその他の物産ぶっさんとぼしからず、したがって案外にも外国品を需用じゅようするの力あるにぞ
と、いひますと、ひめ案外あんがいかほをしてこたしぶつてゐましたが、おもつて
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
案外あんがい勝負に強いのかも知れぬ。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
案外あんがいに多き気もせらる
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぎに案外あんがいおおいのはわか男女だんじょ祈願きがん……つまりいた同志どうし是非ぜひわしてほしいとったような祈願きがんでございます。
やりかけているとは思うが、そのできそうもないことが案外あんがい成功せいこうすることは、これまでもないことではなかったのだから。ささ、おれたちにキッスをおし
「そうだ、これなら大丈夫だいじょうぶ。ねえさるさん、お前は猿智慧さるぢえといって、たいそう利巧りこうだそうだが、案外あんがい馬鹿ばかだなあ。今私が大蛇おろち退治たいじてあげるから、見ていなさいよ」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
平常の鍛錬たんれんが成ればたまたま大々的の煩悶はんもんおそい来る時にあたっても解決が案外あんがい容易よういに出来る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おそろしいかおをしているが、案外あんがいこころのやさしいかみなりは、ふといしゃがれたこえをだして
ぴかぴかする夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
案外あんがいにさばけた挨拶あいさつをして、笑顔えがおせてくれましたので、わたくしたいへんにこころおちつき、天狗てんぐさんというものは割合わりあいにやさしいところもあるものだとさとりました。
時計とけいが二つあったときよりも、一つになったときのほうが、むらのまとまりがつかなくなったのです。こうのほうも、案外あんがいおつのほうが自分じぶんたちにしたがってこないのをると、こまってしまったのです。
時計のない村 (新字新仮名) / 小川未明(著)
先生せんせいは、案外あんがいカナリヤの痛々いたいたしいきずても平気へいきでした。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)