木札きふだ)” の例文
その跫音は、「舎監居間しゃかんいま」と書いた木札きふだを、釘で打ちつけてあるわしの室の入口の前で停るが早いか、そう、声をかけたのだった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あんな面倒臭い事をするよりせめて木札きふだでも懸けたらよさそうなもんですがねえ。ほんとうにどこまでも気の知れない人ですよ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
流しの木札きふだの積んであるそばに銅貨がばらばらに投出したままになっているのは大方隠居の払った湯銭ゆせんであろう。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すみ黒々くろ/″\かれた『多田院御用ただのゐんごよう』の木札きふだててられると、船頭せんどうはまたふねかへさないわけにかなかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
左右さいう見定みさだめて、なべ片手かたてらうとすると、青森行あをもりゆき——二等室とうしつと、れいあをしろいたふだほかに、踏壇ふみだん附着くつゝいたわきに、一まい思懸おもひがけない真新まあたらし木札きふだかゝつてる……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道ばたに数本の小さなもみかえでとが植えられてあったが、その一番手前の小さな楓の木に、ついこの間のこと、「売物モミ二本、カエデ三本」という真新しい木札きふだがぶらさげられた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
幼児をさなご御主おんあるじよ、われをもたすたまへ。」このかた、かた、いふ木札きふだおとが、きよかねごとく、ねがはくは、あなたの御許おんもとまでもとゞくやうに。頑是無ぐわんぜなものたちの御主おんあるじよ、われをもたすたまへ。
春見は人が来てはならんと、助右衞門の死骸を蔵へ運び、葛籠つゞらの中へ入れ、のりらんようにこもで巻き、すっぱり旅荷のようにこしらえ、木札きふだを附け、い加減の名前を書き、井生森に向い。
などとその小屋にはいちいち木札きふだがうってあって、各所かくしょものものしいありさま、すでに明日あすとせまってきた大講会広前だいこうえひろまえ試合しあいのしたくやなにかに活気かっきだっていたが、いま、天下大半たいはんのあるじ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千穂子は気がけたような恰好で、縁側えんがわに腰をかけた。表口へ出る往来いの広場に、石材が山のように積んである。千葉県北葛飾郡八木郷村村有石材置場と云う大きい新しい木札きふだが立てられた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
右の一行が、木津屋の暖簾のれんの中へ入ってしまい、そのあとから男が二人、黒塗りの長持のような大きな箱を担ぎ込むところまで見ておりましたが、その箱の一方は、将棋しょうぎの駒の形をした木札きふだがあって
すこおもいけれど、かうしてあるけば途中とちう威張ゐばれて安全あんぜんだといふので、下男げなんいさつてあるした。るほどあふひもんと『多田院御用ただのゐんごよう』の木札きふだは、人々ひと/″\皆々みな/\みちゆづらせた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私は新開町しんかいまち借家しゃくや門口かどぐちによく何々商会だの何々事務所なぞという木札きふだのれいれいしく下げてあるのを見ると、何という事もなく新時代のかかる企業に対して不安の念を起すと共に
あたしの申上まをしあげること合点がてんなさりたくば、まづ、ひとつかういふこと御承知ごしようちねがひたい。しろ頭巾づきんあたまつゝんで、かた木札きふだをかた、かた、いはせるやつめで御座ござるぞ。かほいまどんなだからぬ。
いたつて愚鈍おろかにしてわすれつぽい……托鉢たくはつに出て人におまへさんの名はと聞かれても、自分の名さへ忘れるとふのだから、釈迦如来しやかによらい槃特はんどくの名を木札きふだに書き、これを首にけて托鉢たくはつに出したと
(和)茗荷 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
道の両側をごらんなさい。ずらと木札きふだに四季の造花を
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやに文字もんじあいだをくッ付けて模様のように太く書いてある名題なだい木札きふだ中央まんなかにして、その左右には恐しく顔のちいさい、眼のおおきい、指先の太い人物が、夜具をかついだようなおおきい着物を着て
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いやに文字もんじあひだをくツ付けて模様もやうのやうに太く書いてある名題なだい木札きふだ中央まんなかにして、その左右にはおそろしく顔のちひさい、眼のおほきい、指先ゆびさきの太い人物が、夜具やぐをかついだやうなおほきい着物を着て
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)