有体ありてい)” の例文
旧字:有體
有体ありていに言えば、少年の岸本に取っては、父というものはただただ恐いもの、頑固がんこなもの、窮屈でたまらないものとしか思われなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
有体ありていに云うと、己はまだ充分に催眠術にかゝっては居なかった。強いて彼の女に反抗したければ、必ずしも反抗出来ない事はなかった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
有体ありていにいうと、私は紅葉の著作には世間が騒ぐほどに感服していなかった。その生活や態度や人物にもあきたらなく思う事が多かった。
有体ありていにいうと、お延と結婚する前の津田は一人の女を愛していた。そうしてその女を愛させるように仕向けたものは吉川夫人であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
検査官は彼れの首筋を捕えて柔かに引起し今更彼是れ云うても無益だ有体ありていに白状しろ白状するに越した事は無いとさとしました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
如何様いかように陳じてものがれん処であるぞ、兎や角陳ずると厳しい処の責めにわんければならんぞ、よく考えて、とてのがれん道と心得て有体ありていに申せ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
売僧まいす、その袖の首は、何としたものじゃ、僧侶の身にあるまじき曲事くせごと有体ありていに申せばよし、いつわり申すとためにならぬぞ」
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あのとき守宮を釘からはずすか有体ありていにいうかしたら、こんなことにはならなかった……守宮の祟りとはいいながら、煎じつめたところあっしの罪。
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「主人と言えば、親にもまさる大切なご恩人、然るにあの素浪人共の手先となって、毒蛇など仕掛けるとは何事じゃ。かくさず有体ありていに申し立てろ」
私は正直な煙客翁が、有体ありていな返事をしはしないかと、内心やしていました。しかし王氏を失望させるのは、さすがに翁も気の毒だったのでしょう。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こうして何もかも有体ありていに報告いたしましたうえで、国家のためと思って黙っていていただきたいと、口止料というようなものを持ってまいっているのです。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「お前が古井戸の中へ女を抛り込んだ事はいかに隠そうとしても無駄な事なのだ。早く有体ありていに云ってしまえ」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そのあいだに使いの者の主観や感情の混入するなく、ありのまま、有体ありていの報告が、最上とされている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こうなれば何もかも有体ありていに申し上げますが、わたくしは決して悪事を働いた覚えはございません」
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もうこうなっちゃあ智慧も何も、有ったところで役に立たねえ、有体ありていに白状すりゃこんなもんだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
作平さん、お前はうらみだぜ、そうでなくッてさえ、今日はおきまりのお客様が無けりゃいが、と朝から父親おやじの精進日ぐらいな気がしているから、有体ありていの処腹のうちじゃお題目だ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その二人が何をするか見ようと思つて跡をつけて見た事を有体ありていに話した後で附け足した。
有体ありていに言ふと、坪内君の最初の作『書生気質』は傑作でも何でも無い。(中略)であるから坪内君の『書生気質』を読んでも一向驚かず、平たく言ふと、文学士なんてものは小説を
言文一致 (新字旧仮名) / 水野葉舟(著)
ですから有体ありていにいえば、少年はわざと負けてかえるつもりで家を出てきているのです。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「イヤ。根拠と云われると困るのですが……有体ありていに白状しますと、私の意見というのはタッタ今、あなたのお話を聞いているうちに、私の第六感が感じた判断に過ぎないのですからね」
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それとてもたいてい紋切形もんきりがたの悽文句で、この寺は裕福だと聞いて来たのに、これんばかりの端金はしたがねでは承知ができねえ、もっと隠してあるだろう、有体ありていにいってしまわねえと為めにならねえ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかしながら有体ありていに言えば、私の貧弱なる知識では、この説の前半の当否を、批判することが出来ぬのである。何となれば私はアッシリヤに関しては、毫末ごうまつの知識だに有していぬからである。
獅子舞雑考 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
有体ありていにいえば、妾は幼時の男装を恥じて以来、天の女性に賜わりし特色をもていささかなりとも世に尽さん考えなりしに、はからずも殺風景の事件にくみしたればこそ、かかる誤認をも招きたるならめ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
何らか特別の手落ちがなくてはこうなるはずはないと問い掛けられて、奥の人たちは今さら隠すわけにも行かず、実はこれこれでと右の婆さんの一条を話し、薬は二日休んだと有体ありていに申しました。
……其方共儀そのほうどもぎ一途いちずニ御為ヲ存ジ可訴出うったえいずべく候ワバ、疑敷うたがわしく心附候おもむき虚実きょじつ不拘かかわらず見聞けんぶんおよビ候とおり有体ありてい訴出うったえいずベキ所、上モナクおそれ多キ儀ヲ、厚ク相聞あいきこエ候様取拵申立とりこしらえもうしたて候儀ハ、すべテ公儀ヲはばかラザル致方
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
有体ありていにいうと、坪内君の最初の作『書生気質』は傑作でも何でもない。愚作であると公言しても坪内君は決して腹を立てまい。
有体ありてい見透みすかした叔父の腹の中を、お延に云わせると、彼はけっして彼女に大切な夫としての津田を好いていなかったのである。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
有体ありていに言えば、エホバの神とはあの三十代で十字架にかかったという基督よりももっと老年としよりで、年の頃およそ五十ぐらいで
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
伴「なにー、博賭ばくちに勝ったと、馬鹿ア云え、てめえの様なケチな一文賭博をする奴が古金こきん授受とりやりをするかえ、有体ありていに申上げろ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
有体ありていに白状すべきかどうか、さんざ迷ったすえ、とりあえず、こんな具合に当り触りのないことを言ってみる。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
有体ありていに云うと、私は私の交際下手と語学の才の乏しいのに愛憎あいそを尽かして、そんな機会は一生めぐって来ないものとあきらめを附け、たまに外人団のオペラを見るとか
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
有体ありていに言えば今のお絹は、男が欲しくて欲しくてたまらないのであります。
「白らばっくれるな。さっき南京玉を見たときに、てめえはどうして顔の色を変えた。さあ、有体ありていに申し立てろ。手前なんで甚右衛門を殺した。ほかにも同類があるだろう、みんな云ってしまえ」
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
考えるまでもない、手取てっとり早く有体ありていに見れば、正にこれ、往来どめ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アハハハ。これは又お義理の固いこと……有体ありていな事を
城太郎は、有体ありていに首を振る。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有体ありていに云えば、客を迎えるというより偶然客に出喰でっくわしたというのが、この時の彼女の態度を評するには適当な言葉であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奉「しからば何故に殺したのじゃ、其の方の為になる得意先の夫婦を殺すとは、何か仔細がなければ相成らん、有体ありていに申せ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今後は有体ありていに、実意になし、送り状も御見せ下さるほど万事親切に御取り計らい下さらば、一同安心いたすべきこと。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
有体ありていにいうと『其面影』も『平凡』も惰力的労作であった。勿論、何事にも真剣にならずにいられない性質だから、筆をれば前後を忘れるほどに熱中した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「仕方がない。屋敷へ帰って有体ありていに申し上げるよりほかはあるまい」
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
押えていては痛くって/\喋ることが出来ません、こうなった以上はげも隠れも致しませぬ、有体ありていに申すから其の手を放して下さい、あゝ痛い
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
有体ありていに白状すれば私は善人でもあり悪人でも——悪人と云うのは自分ながら少々ひどいようだが、まず善悪とも多少まじった人間なる一種の代物しろもの
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、私の思うままを有体ありていにいうと、純文芸は鴎外の本領ではない。劇作家または小説家としては縦令たとい第二流を下らないでも第一流の巨匠でなかった事をあえて直言する。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
う丑松は推量した。今夜の法話が左様さう若い人の心を動かすとも受取れない。有体ありていに言へば、住職の説教はもうふるい、旧い遣方で、明治生れの人間の耳にはいつそ異様に響くのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
有体ありていなるおのれを忘れつくして純客観に眼をつくる時、始めてわれは画中の人物として、自然の景物と美しき調和をたもつ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかうで有るか無いか知れんものに疑念を掛けては済まんけれども、大切のことゆえ有体ありていに云ってくれ、其のほう御舎弟様を大切に思うなれば云ってくれ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、有体ありていにいうと沼南は度量海の如き大人格でも、清濁あわむ大腹中でもなかった。それよりはむしろ小悪微罪に触れるさえ忍び得られないで独りをいさぎようする潔癖家であった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と言われて、原はさびしそうに笑っていた。有体ありていに言えば、原は金沢の方をめて了ったけれども、都会へ出て来て未だこれという目的めあてが無い。この度の出京はそれとなく職業を捜す為でもある。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こんな時にどうすれば詩的な立脚地りっきゃくちに帰れるかと云えば、おのれの感じ、そのものを、おのが前にえつけて、その感じから一歩退しりぞいて有体ありていに落ちついて
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)