たなごゝろ)” の例文
彼等各〻と爪をもておのが胸を裂きたなごゝろをもておのが身を打てり、その叫びいと高ければ我は恐れて詩人によりそひき 四九—五一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
平岡はくちむすんだなり、容易に返事をしなかつた。代助は苦痛のどころがなくて、両手のたなごゝろを、あかれる程んだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これは即ち好運を牽き出し得べき線は、之を牽く者のたなごゝろを流血淋漓たらしめ、否運を牽き出すべき線は、滑膩油澤かつじいうたくなる柔軟のものであるといふ事實である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
暖かく柔かな光子のたなごゝろは、とても振り放す事の出来ない魔力を持って居るように軽く私のかいなを捕えて、薄気味の悪い部屋の方へずる/\と引っ張って行き
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『あゝ。明朝あすのあさまでつのですか。』と武村兵曹たけむらへいそうくちをむくつかせたが、たちまちポンとたなごゝろたゝいて
網代あじろの笠に夕日ゆふひうて立ち去る瀧口入道が後姿うしろすがた頭陀づだの袋に麻衣あさごろも、鐵鉢をたなごゝろさゝげて、八つ目のわらんづ踏みにじる、形は枯木こぼくの如くなれども、いきある間は血もあり涙もあり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
鏡子は何時いつの間にかゆかに足が附いて居て、額にあつた氷は膝の上のたなごゝろに載つて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
柱には大己貴命おほあなむちのみこと少彦名命すくなひこなのみことたなごゝろへ載せてる像が浮彫になつて居り、それを巻いて温泉を讃美した古代の歌が万葉仮名で彫つてある。往昔そのむかし大己貴命と少彦名命とが此所で久し振りに逢はれたげな。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
が、おなしたさきれた、とおもふとしぼつてづるのやうななみだとゝもに、ほろり、とさいちた。たなごゝろわするゝばかりこゝろめて握占にぎりしめたときはなうづまくやうに製作せいさくきよういた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『天下の奇蹟だね。』とくちばしを容れて、古洋服の楠野君は横になつた。横になつて、砂についた片肱かたひぢの、たなごゝろの上に頭を載せて、寄せくる浪の穗頭を、ズット斜に見渡すと、其起伏の樣が又一段と面白い。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
わたし日本にほん今日こんにち經濟界けいざいかい金解禁きんかいきん出來できたからとつて、たなごゝろかへごと景氣けいきやうとはかんがへぬ。しかしながらいませつわたしこゝ説明せつめいして半面はんめん事實じじつかたるものとからうとおもふのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
たなごゝろを指すやうなのを聞いて、驚いたのは立合ひの衆でした。
かしこにこれのしきりに胸をうつをみよ、また彼のなげきつゝそのたなごゝろをもて頬の床となすを見よ 一〇六—一〇八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それを見た上人はさめ/″\と泣いて、必ず我を導き給えと、男に向ってたなごゝろを合わせた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はゝゝ、大丈夫だいじやうぶ心配しんぱいいとふに、——おうら所在ありかも、すくみちも、すべてたなごゝろうちる。吾輩わがはいつかんでる。えうたゞつかんだひら時間じかんことだ。——いまひらけ、とつてもうは不可いかん。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大佐たいさはポンとたなごゝろたゝいた。
左右のたなごゝろにてたる尊き勝利のしるしとして彼を天の一におくは、げにふさはしき事なりき 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
次のボルジヤの民の呻吟うめく聲、あらき氣息いき、またたなごゝろにて身をうつ音きこえぬ 一〇三—一〇五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)