手前てまえ)” の例文
龜「手前てまえは新参者の癖に、殿様のお気に入りを鼻に懸け、大手を振って歩きやアがる、一体いってえ貴様は気に入らねえ奴だ、この畜生め」
丁度あの木村さんの前ンとこなんで。手前てまえは初めは何だと思いました。棒を背後うしろかくしてましたから、遠くで見たんじゃ、ほら、分りませんや。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「いや若様わかさま、雷がまいりましたせつ手前てまえ一身いっしんにおんわざわいをちょうだいいたします。どうかご安心あんしんをねがいとうぞんじます」
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「いいや、それはなりません。おかみさんは、たしかっておいでなされたはず。もう一手前てまえと一しょに、白壁町しろかべちょうのおたくへ、おもどりなすってくださりませ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
途端とたん血相けっそうを変えた二人が、両方から一緒に飛びかかって、——が、其の場はほとけ手前てまえもあるからと、居合せた者が仲へ入ってやっと引分けている内に
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひさりで良人おっとかおわせるのもまりがわるいが、それよりも一そうはずかしいのはかみさまの手前てまえでした。
「ははあ、まだ御若いな、御若い内はとかく間違いが起りたがる。手前てまえのような老爺おやじになっては、——」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宗匠はそこですずみの会や虫の会を開いて町の茶人だちと、趣向を競った話や、京都で多勢の数寄者すきものの中で手前てまえを見せた時のことなどを、座興的に話して、世間のお茶人たちと
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女中の語りおわる時、両刀を帯びた異様の男が五百らの座敷に闖入ちんにゅうして「手前てまえたちも博奕ばくちの仲間だろう、金を持っているなら、そこへ出してしまえ」といいつつ、とうを抜いて威嚇した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
自然の色を夢の手前てまえまでぼかして、ありのままの宇宙を一段、かすみの国へ押し流す。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手前てまえじゃ、まあ、持物もちものと言ったようなものの、言わばね、織さん、何んですわえ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これはお役人、ただいまこの者が申すとおり、手前てまえはその、茨右近でござる」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
『そこが、少々、世間と手前てまえとちがうのでございます。手前は、証文に使われている雇人で、証文を自由にする主人ではございません。それ故に、人様へ金を貸せる身分になれたのでございます』
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしや来たらお浪をよこしてわしに知らせろ、そうしてわしの来る間手前てめえは路地口の処へ出て掛合っていろ、手前てまえは此の長屋の行事でございますが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いやしずかに。——ただいまみゃくちからたようじゃと申上もうしあげたが、じつ方々かたがた手前てまえをかねたまでのこと。心臓しんぞうも、かすかにぬくみをたもっているだけのことじゃ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これが現世げんせでの出来事できごとだったら、そのときなにをしたかれませぬが、さすがに神様かみさま手前てまえ今更いまさらみだしたところをられるのがはずかしうございますから、わたくしは一しょう懸命けんめいになって
「火薬船だというが、はたして本当かどうか、なぜもっとはっきりしらべてこなかったんだ。竹見の奴が、脱船だっせんしたい一心で、火薬船などと手前てまえをつくろう手もないではないからのう」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
武士の娘と云う事を聞いたが、時世ときよとて芸者の勤め、皆な斯様に成り果てた者も多かろうと存じて………手前てまえ妹と知らず
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ええ、もう辛抱しんぼうがなりませぬ。手前てまえと一しょにもう一春信はるのぶさんのおたくまで、とっととおいでなさりませ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
長「いや、お父さまは何と仰しゃるか知らんが、どうも此の長助にはだ腑に落ちない事がある權六手前てまえが毀したと云う何ぞたしかな証拠が有るか」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
捜してかたきを討たにゃならぬ、手前てまえ一人に換えられないから云わなけれア殺してしまう、それとも殺させたといえば助けて遣るが、云わないか此の野郎
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
じゃア手前てまえ荷物をあらためさしてるまいものでもないが、つゝみほどいて中の荷物が相違致すと余儀なく手前の首を切らなければならん、武士の荷物を撿め
武「しからん奴だ、あわてゝ詰らん事をいうな、これ、手前てまえの荷物を失ったと云うのか、これ、く似た物も有る物だから気をつけて口をきけ、ほかのことゝは違うぞ」
圖「何だ手前てまえは、何をする、斯様なるけしからん事をして何と心得て居る、何だ此の女をはずかしめんとするのか、捨置き難い奴だが今日こんにちは信心参りの事だから許す、け/\」
女が刃物三昧ざんまいしても彼奴あいつにはかなわないし、何うしようかと考えたら、ふいと気がついたんだよ、此の間ね旦那が鉄砲を出して小鳥をうつ時手前てまえもやって見ろッてんでね
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ことにゃア女の事だから、此の兄の死水しにみず手前てまえが取るのが当前あたりまえだのに、何の因果で此様こんな悪婦あくとうが出来たろう、お父様やじさまも正直なお方、私も是までさのみ悪い事をした覚えはないのに
花「是は手前てまえが刀を抜いてちょん/\切合ったというあとで丁度其の側を通り掛って此の刀を拾うたが、ちっとも抜けない、此の抜けない脇差をどうして抜いて切合ったかそれを聴こう」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
手前てまえにそう見顕みあらわされて誠に困ったが、金をるから急いで足利在あしかゞざいまで引いてくれ
かめ「何を云やアがる、手前てまえの厄介になるものか、利いた風なことを云うな」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大悪だいあくのものが改心すればかえって善人になると云うから屹度善人になってくれ、しか手前てまえが善人になると云っても借金があって法が付くまい、こゝに廿両あるからこれで借金の目鼻を付けた上で
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
手前てまえうちになければ外の鰻屋から買って来ていて焼いて出せ、望みだと云うと、侍でおっかねえもんだから大黒屋の番頭がそれから奥へ通した、若衆は縁側へ廻れというから縁側へ廻ると
恒「酔ってるかア知らねえが、あんまりだ、手前てまえの腕が曲るから毀してみろ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
官の手を待たずして此の文治郎が立所たちどころ打殺うちころすが、われは親兄弟もあるだろうが、これ手前てまえ親達おやたちは左様な悪人に産み付けはせまい、どうか良い心掛けにしたい、善人にしたいと丹誠たんせいして育てたろうが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かめ「手前てまえから先へ出てけ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)