意地いじ)” の例文
かねて燻製には意地いじのはったる博士は、卓子テーブルの上に載っている残りのノクトミカ・レラティビアの肉を一片又一片と口の中にほうり込む。
それを人間にんげんどうしが、たがいに意地いじわるをして、つよいものが、よわいものをいじめて、かってにらくをしようとしたのだよ。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この人は、百姓総代として町人気質かたぎの旦那衆に対抗して来た意地いじずくからも、伝馬所の元締役その他の人選については、ひどく頭を悩ましていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、こうなるとかれもまた、意地いじでも見物けんぶつをあッと驚嘆きょうたんさせてやらなければしゃくである。第一、この水独楽みずごまがまわらないというわけはない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからの新吉しんきちはどうなったかはわかりませんが、世の中には鍛冶屋かじやのおやじや曲馬団きょくばだん団長だんちょうのようなわからずやの意地いじわるの人間がいるかわりに
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
たとえんであろうと、ひきずってもれてかねばならぬという、つよ意地いじ手伝てつだって、荒々あらあらしくかたをかけた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その顔を一目ひとめ御覧になったらすぐおわかりになります。わたしは今まで意地いじからも定子はわたし一人ひとりの子でわたし一人のものとするつもりでいました。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
うと、それをしたらしました。王子おうじのぼってたが、うえには可愛かわいいラプンツェルのかわりに、魔女まじょが、意地いじのわるい、こわらしいで、にらんでました。
けれども、少年がらんぼうで、意地いじわるく、生き物にたいしてはざんこくで、人びとにたいしてはよくないことばかりするので、それを何よりも心配していました。
去年は江戸でくらしたから今年は京でくらそうというような事で、意地いじ公事くじなしに愛を分っている。
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
負け嫌いの意地いじぱりがこんな処に現われるので、心からの頭の低い如才ない人では決してなかった。
意地いじわるき同僚が、君、どう、着色写真でもって、君のブライドに送らんかと戯れ候も一興に候。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかし一たん見まいと決心したからには意地いじが出て振り向くのがはずかしく、また振り向くと向かないのとで僕の美術家たりるやいなやの分かれ目のような気がして来た。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
思っているに相違そういない。二人の間であるものを、そんなに意地いじを張らないでもよいであろうに
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
やがて奥から、色の白い、眼の細い、意地いじの悪そうな女中じょちゅうが、手に大きいさらを持って出て来たが、その時もまだ二人は、どうしたものかと思案しあんにくれて土間どまにつったっていた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
おとうさんははちかつぎをしてのち、だんだんうんわるくなって、貧乏びんぼうになりました。たくさんいた家来けらいたちも、奥方おくがた意地いじわるいことをするので、げていってしまいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
斯うして、荒れやすい土を耕し、意地いじの悪い冬枯と戦うにも只、昔からの伝習だの、自分の小さい経験などを頼む事ほかしない。此処いらの純農民は、随分と貧しい生活をして居る。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それにおはずかしいことには、ってうまれたけずぎらいの気性きしょう内実ないじつよわいくせに、無理むりにも意地いじとうそうとしてるのでございますから、つまりは自分じぶん自分じぶんけずるようなもの
関東に往きますと関西にあまり多くないものがある。関東には良いものがだいぶたくさんあります。関西よりも良いものがあると思います。関東人は意地いじということをしきりに申します。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
みんなは意地いじっぱりになってなおやりつづけました。
天狗笑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
空中くうちゅうの声はなおも意地いじわるく
いや、そんな意地いじよりも名誉心めいよしんよりも、まんいち自分がやぶれでもした時には、いやでもおうでも、咲耶子さくやこの身を徳川家とくがわけの手にわたさなければならない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、意地いじぎたない、これらのすずめたちは、またときがたつと、のありそうなところへおりていきました。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
倉地の生きてる間に死んでなるものか……それは死よりも強い誘惑だった。意地いじにかけても、肉体のすべての機関がめちゃめちゃになっても、それでも生きていて見せる。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わたくしは、わざと意地いじわるく二人の邪魔になるように歩いていった。若き男女は、わたくしの悪意を間もなく見破って、横にさけるであろうと、わたくしは予想していた。
第四次元の男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この老先生がかねて孟子を攻撃して四書の中でもこれだけは決してわがに入れないと高言していることを僕は知っていたゆえ、意地いじわるくここへ論難の口火をつけたのである。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
みいな自腹ア切ッて編んであげたのに、なアん沙汰さたなしであの不器量な意地いじわるの威張った浪子はんをお嫁にもらったり、ほんまにひどい人だわ、ひどいわひどいわひどいわひどいわ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
もし見物人の中に、あの鍛冶屋の意地いじわるおやじがいたら、どんな顔をするだろう。そう思うと新吉はまた一人でおかしくなり、ますます元気づいて、それでますます芸が面白おもしろくなりました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
いままでの、意地いじ興味きょうみなど超越ちょうえつして、ある運命うんめいとものすごい殺気さっきをはらみかけた番外ばんがいばん試合じあいは、こうしてまさにその火蓋ひぶたを切られようとしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飽くまで意地いじの強い目はしのきく性質を思うままに増長さして、ぐんぐんと世の中をわき目もふらず押し通して二十五になった今、こんな時にふと過去を振り返って見ると
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
赤ん坊は女中部屋じょちゅうべやに運ばれたまま、祖母のひざには一度も乗らなかった。意地いじの弱い葉子の父だけは孫のかわいさからそっと赤ん坊を葉子の乳母うばの家に引き取るようにしてやった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
倉地の心さえつかめばあとは自分の意地いじ一つだ。そうだ。念が届かなければ……念が届かなければ……届かなければあらゆるものに用がなくなるのだ。そうしたら美しく死のうねえ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
葉子はその時不思議ななつかしさをもって内田の生涯しょうがいを思いやった。あの偏頗へんぱ頑固がんこ意地いじっぱりな内田の心の奥の奥に小さく潜んでいる澄みとおった魂が始めて見えるような心持ちがした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)