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御病氣
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ごびやうき
團十郎の
澁味が
加つたと、
下町の
女だちが
評判した、
御病氣で
面痩せては、あだにさへも
見えなすつた
先生の
肩へ、……あゝ
噛りついた。
延べしは
重々此方が
惡けれど
母上とらへて
何言居つたかお
耳に
入れまいと
思へばこそ
樣々の
苦勞もするなれさらでもの
御病氣にいとゞ
重さを
『それは
大儀だツた。どうだな
能登守殿の
御病氣は。』と、
但馬守は
容を
正して
問うた。
無理にお
勸申したは此忠兵衞ゆゑ夫がため
御病氣起らば
大變なりと
先取敢ず長三郎の部屋へ至りて
障子の
外まで來りし時に中にては
魔るゝやら
寢言やらサアお出なさい有難うと
判然言しが其跡は何を
はやるほど
猶落附てお
友達の
誰さま
御病氣ときく
格別に
中の
好き
人ではあり
是非お
見舞申したく
存じますがと
許容を
あら、しつとりしてるわ、
夜露が
酷いんだよ。
直にそんなものに
腰を
掛けて、あなた
冷いでせう。
眞とに
養生深い
方が、
其に
御病氣擧句だといふし、
惡いわねえ。
云つて
居るぞ
夕方は
別して
風が
寒し
其うへに
風でも
引かば
芳之助に
對しても
濟むまいぞやといふ
詞の
尾に
附いてお
高おそる/\
顏をあげ
御病氣といふことを
葉もまだ
落ちない。
形は
何處か、
影も
見えない。
豫て
氣短なのは
知つて
居る。
特に
御病氣。
何かのお
慰に
成らうものを、
早く、と
思ふが
見當らない。
蓑蟲戀しく
途に
迷つた。
あの
親切な
優しい
方を
斯う
言ふては
惡いけれど
若旦那さへ
無かつたらお
孃さまも
御病氣になるほどの
心配は
遊ばすまいに、
左樣いへば
植村樣が
無かつたら
天下泰平に
治まつたものを
主從の
間に
氣の
毒などゝの
御懸念ある
筈なし、お
前さまのおん
身に
御病氣その
外何事ありても、
夫はみな
小生が
罪なり、
御兩親さまのお
位牌さては
小生が
亡兩親に
對して
雪三何の
申譯なければ
さることなれど
御病氣にでも
萬一ならば
取かへしのなるべきならず
主は
誰人えぞ
知らねど
此戀なんとしても
叶へ
參らせたし
孃さまほどの
御身ならば
世界に
苦もなく
憂ひもなく
御心安くあるべき
筈を