従兄いとこ)” の例文
旧字:從兄
小田切三也おだぎりさんやの娘真弓まゆみと、その従兄いとこ荒井千代之助あらいちよのすけは、突き詰めた恋心に、身分も場所柄も、人の見る目も考えては居なかったのです。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
……従兄いとこの秋作の意見では、こんな機会にすこし世間を見て置くほうがいいだろうというので、あてなしに旅行をしていたんですの。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
平中納言教盛、修理大夫経盛の兄弟と、小松新三位中将資盛と、少将有盛、従兄いとこの左馬頭行盛の三人も、手を取り合って海に沈んだ。
そして、お祖母さんの方は他家よそに雇われてゆき、子供の方は、父の従兄いとこと恋人と一緒になってる家へ、引取られて世話されてるんだ。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
半蔵の従兄いとこに当たる栄吉にその後見をさせ、旧本陣時代からの番頭格清助にも手伝わせたら、青山の家がやれないことはあるまい
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それが自分のまた従兄いとこにあたる、土岐蔵人頼春であるとは、夢にも小次郎には思われなかった。あまりに変わり果てているからである。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その頃、若殿様は大そう笙を御好みで、遠縁の従兄いとこに御当りなさる中御門なかみかど少納言しょうなごんに、御弟子入おでしいりをなすっていらっしゃいました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは老ハルスカイン氏の死んだ兄の息子たちで、レミヤの従兄いとこに当るイグノラン兄弟……すなわち私たち二人で御座いました。
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
きくさんと云ふ知つた女の人と、その子のおまささん、私の従兄いとこ二人、兄、番頭、そのほかの人は忘れましたが何でも十何輌と云ふ車でした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「そのつもりでしたのよ。私たちを保護してくれることになっている、園田の従兄いとこの黒須さんね。あの人がどうも不安なのよ。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まっ赤なアネモネの花の従兄いとこ、きみかげそうやかたくりの花のともだち、このうずのしゅげの花をきらいなものはありません。
おきなぐさ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
初めは浅い所でペチャペチャやってたが、分家の武村の良一という年上の従兄いとこが恐れる私をいきなり丈のたたぬ流れのまん中に突きやった。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
同じ、義家将軍を祖父として、源義朝よしともは、いうまでもなく、彼女の従兄いとこにあたるが、その義朝こそは、平相国清盛へいしょうこくきよもりの憎悪そのものであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六七歳のころ、始めて従兄いとこから英語の手ほどきを教えられた時に、最初に出会ったセンテンスは、たしか「さるが手を持つ」というのであった。
そして、毎日従兄いとこと一緒に、浜へつれて行つてもらつて、漁夫れふしたちの網をひくのを見たり、沖の方に、一ぱいにうかぶ帆舟をながめたりしました。
さがしもの (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
従兄いとこうちのついむこうなので、両方のものが出入ではいりのたびに、顔を合わせさえすれば挨拶あいさつをし合うぐらいの間柄あいだがらであったから。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、偶然にも、アデライーダ・イワーノヴナの従兄いとこで、ピョートル・アレクサンドロヴィッチ・ミウーソフという人がパリから帰って来た。
あなた様も、あんなお従兄いとこさんをお持ちで、何かと力になってくださることでしょうから、おしあわせでございますよ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その外に、関西電車の社長浜田丈吉が本人の従兄いとこに当ってい、これが唯一ゆいいつの誇るに足る親戚でもあれば庇護者ひごしゃでもある。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十一日に貯金の全部百二十円を銀行から引出し、同店員で従兄いとこに当る若者あて遺書いしょしたため、己がデスクの抽斗ひきだしに入れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
セーニャに聴いたら従兄いとこだといったが、イフェミヤが一寸紅くなってセーニャを睨んだので察すると許嫁いいなずけの間らしい。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ある時、祖母の従兄いとこだというおじいさんが伊勢から訪ねてきたことがありました。おじいさんはもう九十歳だといいました。祖母は八十ばかりでした。
Kが母に送る金を管理してくれている一人の従兄いとこから、一月おきにきちんきちんと受けている知らせは、これまでのいつよりも安堵あんどできるものだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
ここに私の従兄いとこに当る男が住んでおり、女中頭の子供が白痴はくちであった。私よりも五ツぐらい年上であったと思う。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
コックの春吉は、実は殺された春江の従兄いとこにあたる男だが、その関係を隠してカフェ・ネオンにやとわれていた。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もと従兄いとこが世話になっていた家で、主人公は従兄と一緒に矢張り同じ大学を卒業して目下満鉄に勤めている。
恩師 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
大将もいろいろな形式で従兄いとこであり、夫人の兄であり、親友であった大納言の法会を盛んにする志を見せ
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
伊原友三郎は妻の従兄いとこに当るし、そうでなくとも、妻の手を借りなくてはどうしようもないと思ったのだ。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その神官のせがれすなわち宗太郎の従兄いとこに水戸学風の学者があって、宗太郎はその従兄を先生にして勉強したから中々エライ、その上に増田ますだの家は年来堅固なる家風で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
昨年の春私を訪ねてきて一泊して行った従兄いとこのKは、十二月に東京で死んで骨になって郷里に帰った。
父の出郷 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
父様とうさんのアイチャンキャラ侯は、たつたひとりぽつちのニナール姫が、さびしいだらうと、従兄いとこに当るジウラ王子を蒙古から呼びよせ、そのお相手になさつたのです。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
こは武男が従兄いとこに当たる千々岩安彦ちぢわやすひことて、当時参謀本部の下僚におれど、腕ききの聞こえある男なり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
かよは、あるきながら、まだ都会とかいのことをかんがえていました。これから二、三ねん勉強べんきょうにいく、そして、朝晩あさばんいっしょにらさなければならぬ従兄いとこや、従妹いとこのことを——。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは妻の従兄いとこに当る海軍々人から来た手紙でした。別に大して怪しむべき文句は書いてないんです。誰に見せてもこれで直ちにどうこう云えることは少しもありません。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
玉に従兄いとこがあってえつ司李しほうかんをしていた。玉はその従兄の所へいって長い間帰らなかったところで、たまたま土寇どこうが乱を起して、附近の村むらは、大半家を焼かれて野になった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
A嬢は昨夜ひとりでA夫人と従兄いとこを停車場へ迎えにいったというじゃアありませんか。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
一方従兄いとこのユースタスは子供達の思い思いのはしゃぎ方のまだ上手うわてを行って、いろいろ変ったふざけ方をして見せたので、子供達も、とてもその真似は出来ないと諦めてしまった位で
ず安心して、せんの名を呼ぶがいゝと、これから名をも改め、おえいと呼び、多助とは従兄いとこ同士の事ゆえ、行末は、めあわせるの心得で、二月の末から五月の頃まで中よく日を送りました。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
突然私の実家から手紙で、従兄いとこが死んだことを知らして来た、書中しょちゅうにある死んだ日や刻限が、恰度ちょうど私がけた夏菊のしおれた時に符合するので、いまだに自分は不思議の感にえぬのである。
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
と親類内の従兄いとことかで、これも関係のあった、——少年の名をお綾が云うと……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ミネと同じ年の小梅さんという女は夫にめかけが出来たのが不満で離婚した。ミネの仲よしのツルエという女は許婚いいなずけだった従兄いとこの夫がいやでたまらず、とび出した。嫁のおきてにそむいた三人の女。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
木之助は従兄いとこの松次郎と組になって村をでかけた。松次郎は太夫さんなので、背中に旭日あさひつるの絵が大きくいてある黒い着物をき、小倉こくらはかまをはき、烏帽子えぼしをかむり、手に鼓を持っていた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
タゴオルがいたる所で歓迎されてゐるのは喜ばしい。『ギタンヂヤリ』の詩人は私の叔父でも従兄いとこでも無いが、詩人の尊敬せられるのは、軍人や政治家の持てるのとちがつて、見てゐて気持がい。
しかも、年若い者の心を観察したことのある人は了解するであろうが、あの槍騎兵そうきへい、将校、ばか者、従兄いとこのテオデュールは彼の精神に何らの陰影をも残さなかった。少しの陰影をも残さなかった。
郎女様の亡くなられたお従兄いとこも、嘸お嬉しいであらう。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
太郎「おまへはとら従兄いとこなのかへ」
わが従兄いとこ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
周助さんも、手代の文治も、従兄いとこ仲吉なかきちさんも、皆んななりたい口で——、へッへッ、でも持参がなきゃあ、主人は承知しません。
するとその頃から月々の雑誌に、従兄いとこの名前が見えるやうになつた。信子は結婚後忘れたやうに、俊吉との文通を絶つてゐた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いま紹介したひとたちのほかに、剛子の従兄いとこの秋作氏がすっかりこちらへ背中をみせ、窓のそばで新聞を読んでいる。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)