引起ひきおこ)” の例文
この不埓者ふらちものめといって、その肩の処をつらまえて引起ひきおこして、目のめてるのを尚おグン/″\ゆたぶってやったことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
『はい、はい、どんなことでも/\。』と、こたへたが、それけても氣遣きづかはしきは海底戰鬪艇かいていせんとうてい工事こうじの、吾等われらかゝ騷動さわぎ引起ひきおこしたために、いたさまたげられたのではあるまいかと
座頭ざとうむくと起直おきなほつて、はらて、道端みちばたにあつて往来わうらいさまたげなりと、二三十にんばかりにてもうごかしがたき大石だいせきかどをかけ、えいやつといふて引起ひきおこし、よりたかくさしげ、谷底たにそこ投落なげおとす。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
するともなく大久保おほくぼ自動車じどうしやりつけてまゐつたんでございますの。いきなりづか/\とあがみまして、いもうと引起ひきおこして、まあなんとかとかつて、またしてしまひまして……。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
行者はいかりたるいろもなく、なにともいはず衣服きるものぬぎてかたへの水楊かはやなぎにかけ、赤裸あかはだかになりて水をかんまゐりする方をふしをがみ、武士の手をとりて引起ひきおこしければなにのくもなくおきあがり
きっと円い竹の皮のかさかむえりに番号をつけた柿色かきいろ筒袖つつそでを着、二人ずつ鎖で腰をつながれた懲役人が、制服佩剣はいけんの獄吏に指揮されつつ吹倒された板塀をば引起ひきおこし修繕しているのを見たものです。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
第六囘だいろくくわいいたりてはじめて、殺人さつじん大罪だいざいなるかいなかの疑問ぎもん飮食店いんしよくてん談柄だんぺいより引起ひきおこし、つい一刹那いつせつなうかいださしめて、この大學生だいがくせいなんあだもなき高利貸こうりかし虐殺ぎやくさつするにいたる。だいくわいその綿密めんみつなる記事きじなり。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
かれ天性てんせいやさしいのと、ひと親切しんせつなのと、禮儀れいぎるのと、品行ひんかう方正はうせいなのと、着古きぶるしたフロツクコート、病人びやうにんらしい樣子やうす家庭かてい不遇ふぐう是等これらみなすべ人々ひと/″\あたゝか同情どうじやう引起ひきおこさしめたのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
かく引起ひきおこして介抱すると、男にはだ息がかよっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
元結もとゆいは切れたから、髪のずるりとけたのが、手のこうまつはると、宙につるされるやうになつて、お辻は半身はんしん、胸もあらはに、引起ひきおこされたが、両手を畳に裏返して、呼吸いきのあるものとは見えない。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その㒵色かほいろはつねならねど病人とも見えず、いざとて手をとり引起ひきおこさんとするに手をのばさず、かゝえおこさんとすれどもおきず、なほちからのかぎりおこさんとすれどもおもき事大石の如くにてうごかさ
かれ天性てんせいやさしいのと、ひと親切しんせつなのと、礼儀れいぎのあるのと、品行ひんこう方正ほうせいなのと、着古きぶるしたフロックコート、病人びょうにんらしい様子ようす家庭かてい不遇ふぐう、これらはみなすべ人々ひとびとあたたか同情どうじょう引起ひきおこさしめたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)