山川さんせん)” の例文
天地と云い山川さんせんと云い日月じつげつと云い星辰せいしんと云うも皆自己の異名いみょうに過ぎぬ。自己をいて他に研究すべき事項は誰人たれびとにも見出みいだし得ぬ訳だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
立山の地獄谷はまた世に響いたもので、ここにその恐るべき山川さんせん大叫喚の声を聞くのは、さすがに一個婦人の身に何でもない事ではない。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三方みかたはらをあとにしながら下に月光の山川さんせんを見、あたりに銀鱗ぎんりんの雲を見ながら、鞍馬くらま竹童ちくどうわしの上からさけぶのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ケダシ士君子しくんし万巻ばんかんヲ読破スルモマタすべかラク廟堂ニ登リ山川さんせんまじわり海内かいだい名流ニ結ブベシ。然ル後気局ききょく見解自然ニ濶大かつだいス、良友ノ琢磨たくまハ自然ニ精進せいしんス。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
孝陵の山川さんせんは、其のふるきに因りて改むるなかれ、天下の臣民は、哭臨こくりんする三日にして、皆服をき、嫁娶かしゅを妨ぐるなかれ。諸王は国中になげきて、京師に至るなかれ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかれども何物かいためる心をせんや、友人は転地と旅行とを勧む、しかれども山川さんせん今は余の敵なり、哲理的の冷眼を以て死を学び思考を転ぜんとするも得ず
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
山川さんせん相繆あひまとヒ、鬱乎うつこトシテ蒼々そうそうタリ、此レ孟徳ガ周郎ニくるしメラレシトコロニアラズヤ……
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これ山川さんせん風土ふうど氣候等きこうとう地理的關係ちりてきくわんけいしからしむるところであつて、すべてのものはじんまりとしてり、したがつて化物ばけものみな小規模せうきもである。希臘ぎりしやかみみな人間にんげんはづかにおばけはあるが、こわくないおばけである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
巌谷いはや紹介せうかいで入社したのが江見水蔭えみすゐいんです、この人は杉浦氏すぎうらし称好塾せうこうじゆくける巌谷いはや莫逆ばくぎやくで、素志そしふのが、万巻ばんくわんの書を読まずんば、すべから千里せんりの道をくべしと、つねこのんで山川さんせん跋渉ばつせふ
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もしこのまま手をつかねて倭軍わぐん蹂躙じゅうりんに任せていたとすれば、美しい八道の山川さんせんも見る見る一望の焼野の原と変化するほかはなかったであろう。けれども天は幸にもまだ朝鮮を見捨てなかった。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山川さんせん草木うたたあ荒涼
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
假初かりそめならぬ三えんおなじ乳房ちぶさりしなり山川さんせんとほへだたりし故郷こきやうりしさへひがしかたあしけそけし御恩ごおん斯々此々かく/\しか/″\はゝにてはおくりもあえぬに和女そなたわすれてなるまいぞとものがたりかされをさごゝろ最初そも/\よりむねきざみしおしゆうことましてやつゞ不仕合ふしあはせかたもなき浮草うきくさ孤子みなしご流浪るらうちからたのむは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「師はありませぬ。幼少から父無二斎について十手術を、後には、諸国の先輩をみな師として訪ね、天下の山川さんせんもみな師と存じて遍歴しておりまする」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち都市山川さんせん寺院の如き非情のものを捉へ来りてこれに人物を配するが如きていを取れるものあるいは群集一団体の人間を主となしかへつて個人を次となせるが如きものあり。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
地形は昔に変らないんだよ、山川さんせん開けて気象とみに雄大なるこの濃尾の天地は、信長や、秀吉のうまれた時と大して変らねえのに、人間というやつが腑抜けになって、英雄豪傑の種切れだ。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
魏の大軍はまさに山川さんせんを埋めている観がある。しかし彼は遠く来た兵馬であり、この炎暑にも疲労して、やがてかえって、自らの数に苦しむときが来るだろう。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうべをあげて山川さんせんを見
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふたりの振分ふりわけまで自分のかたに持ってやって、もくもくとあるき、もくもくとあたりの山をながめ、時には立ちどまって、地理山川さんせんをふところがみにうつしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とまれ古くから山伏類似のそんな不動行者もあって諸国の山川さんせん跋渉ばっしょうしていたにはちがいあるまい。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俄然がぜん、口をひらいて、それらの花器や茶入れの渡って来るところのみんという国がらについて、その風俗、気候、山川さんせん、地域の広さなどを、見て来たように得々とくとくと語り出した。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
君らは蜀の山川さんせんがいかなる嶮岨けんそか知らないとみえる。いったい蜀を過小評価していることが、魏の患いというべきだ。帝にはよくご存じあるはずである。なんでさような軽挙を
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耳をすまして、対岸から流れてくる石工や人夫の掛け声、種々さまざまな物音をつつんだ音響、また築城の進みようなど注意しておればわかる。山川さんせんみな兵となって働いているような活気だ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山川さんせん峨々ががとして樹林深く、道はひどくけわしかった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)