そっ)” の例文
で、そっと離れたところから突ッ込んで、横寄せに、そろりと寄せて、這奴しゃつが夢中で泳ぐ処を、すいときあげると、つるりと懸かった。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と止せばいのに早四郎はお竹の寝床の中で息をこらして居りました。しばらつとそっ抜足ぬきあしをして廊下をみしり/\と来る者があります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
縄張外に立てられた土方部屋を、夜中にそっと抜け出して手拭をかぶりつつ、作事小屋の方へ忍んで行くのもその人であります。
と、とっさに感じとると同時に、ただちに源十郎指揮をくだして、一同寝巻ねまきの裾をからげ、おのおの大刀をぶちこんでそっと庭におり立った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その時分にはおれの外に誰も甲板へ出ていないが、ひょっとして見付かるとけないから、目立たぬように、二、三人ずつそっとやって来たまえ。
夢見の悪さがつづくので、江戸へ見舞に帰るとしても、そんな事で私を手放すような虎松では御座いませんから、私はそっと抜け出して来たので御座います。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
エ天に登りて仕返しをと思えど、天の門番リズワンの大力あるをおそれ、蛇を説いて自分を呑んで天に往きそっと吐き出さしめ、エヴァを迷わしアダムを堕した。
「おい今日は俺がおごるよ。」と庄吉は其日お茶の時にそっと惣吉に云った。「何でもきな物を云えよ。」
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
客の少女はそっと室内を見廻した。そして何か思い当ることでも有るらしく今まで少し心配そうな顔が急に爽々さえ/″\して満面の笑味えみを隠し得なかったか、ちょッとあらたまって
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
奥様が御気色ごきしょくの悪い日には旦那様はそっと御部屋へ行って、恐々おずおず御傍へ寄りながら
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
余は兎に角も秀子の様子を見届けねば成らぬと思いお浦の姿の見えなくなるを待って、多分秀子が潜んで居るだろうと思う盆栽室へ、そっと行った、茲でも矢っ張り容易ならぬ事に出会でっくわした。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
号外が最う刷れてるんだが、海軍省が沈黙しているから出す事が出来んでり焦りしている。尤も今日は多分夕方までには発表するだろうと思うが、近所まで用達しに来たから内々ないないそっらしに来た。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「そんなけちじゃアありませんや。おのぞみなら、どれ、附けて上げましょう。」と婦人おんなは切の端に銀流をまぶして、滝太郎の手をそっと取った。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
再び役人の来るべき時を予想して待っていると役人は来ないで、障子の外に人の気配がしたかと思うと、そっとそこを開いて
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
其の時は私がそっと友さんをほかに呼んで置いてお前に逢わせ、口直しを拵えて置くからねえ、私も責められて困るからよ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それで彼女は、村人から顔を見られたり物をいわれたりするのが恐ろしいものだから、夜中にそっとわが家へ帰った。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「しッ! お妙! 自身番へ——自身番へ! 裏から、そっと出るんだぞ——音がしねえように、跣足はだしで行けよ——」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それを倒れていた小虎がそっと取った。抜くや、突然いきなり、お鉄の横腹へ突立てた。お鉄の悲鳴は唯一声であった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
道人すなわちひそかにその由を夫に告げ、啌と思うなら物はためし、汝の妻にその最も好む食物を煮調ととのわしめ、そっと塩若干をその中に投じ、彼がのがれ得ぬよう固く家をとざ
これも何か思い当る処あるらしく、客なる少女の顔をじっと見て、又たそっと傍の寝床を見ると、少年は両腕うでまくり出したまま能く眠っている、其手を静に臥被ふとんの内に入れてやった。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
奥様の御話に、その晩の夢というのは、こう林檎畠りんごばたけのような処で旦那様が静かに御歩きなすっていらっしゃると、そっと影のように御傍へ寄った者があって、何か耳語みみこすりをして申上げたそうです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
帰りがけにそっと小僧を物影に呼び、誰にも知らさずに此の電報を打って呉れと頼み、後々までも無言で居る様にとて口留めの金を一磅呉れた、其の翌朝、草花を配達して田舎ホテルへ行った所
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
と言ってお雪は深くうなずきましたが、しずかに枕をむこうへ返して、しばらくはものも言わないでおりましたが、またそっと小宮山の方へ向き直り
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは駒井の邸へそっと行きたいからであろうと見て取ったお絹は、わざと話を長くして、意見のような、教誡のような、お為ごかしのようなことを言って
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と云う廻りの声を合図に、松蔭大藏は裏手の花壇の方からそっ抜足ぬきあしをいたし、此方こちらへまいるに出会いました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
栴檀せんだんの木稲荷の絵馬売の老婆に託して、源之丞が射場通いの途中、そっと手渡して貰ったのであった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それから約半時間経って、ガルールが、船燈を手にしてそっと梯子を降りて来た。
栄三郎のほうはそっと坤竜をろうとしてその身辺に危害なきを期しているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夫人「何うぞそっと差し出して、誰にも云わぬ様に願います」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その舌のもつれたような、便たよりのない声を、蚊のうなる中に聞きながら、私がうとうとしかけました時でした。そっと一人がゆすぶり起して
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と又騒動が大きくなりましたから、流石さすがの渡邊も弱って何うする事も出来ません。打棄うっちゃってそっと逃げるなどというは武家の法にないから、困却を致して居りました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
気になるのでそっと立木の間を縫って、近寄って見ると、意外にもそれは例の旅商人であった。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
前にはたわむれにってみた片はずしのまげを、この正月から正式に結うことになりました。いつぞやの晩には恥かしそうにそっと引掛けた打掛を、晴れて身にまとうようになりました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
折れたか、と吃驚びっくりして、拾い直して、そっと机に乗せた時、いささか、蝦蟆口がまぐちの、これで復讎ふくしゅうが出来たらしく、おおいに男性の意気を発して
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは竜之助がお銀様の熟睡を見すまして、そっと抜け出でたからであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伴藏は変に思いまして、旦那は人がよいものだから悪い女に掛り、だまされては困ると、そっと抜け出て、萩原のうちの戸の側へ行って家の様子を見ると、座敷に蚊帳かやを吊り、とこの上に比翼※ひよくござを敷き
この事を母のお幸から、そっと娘お綾の耳に入れた。そうして。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
電話でも、(あの張子を、そっとうしろ向きにするか、針で目をつぶして出ておくれ、今度こそは、きっと頼んだよ。母さんの頼みだよ。)
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小「なに金は入らねえが、旦那え、どうか裏口からそっと出して下せえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こいつがされては百年目、ひょいと立って退すさったげな、うむと呼吸いきを詰めていて、しばらくして、そっと嗅ぐと、ぷんと——貴辺あなた
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そわつきながらそっと雨戸を明け
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、いいいい、地蔵様の前へ、男が二人でそっかつぐと、お道さんが、笠を伏せて、その上に帯を解いて、畳んで枕にさせました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ほら、ひらきも少しいていますわ。——先生ね、あなたね、少し離れた処で、そっと様子を見ていて下さい。……後生ですから。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宗吉は、お千さんの、湯にだけはそっと行っても、床屋へはけもせず、呼ぶのも慎むべき境遇をうなずきながら、お妾に剃刀を借りて戻る。……
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……そのまま忍寄って、そっとその幕をひきなぐりに絞ると、隣室の障子には硝子が嵌めこみになっていたので、一面に映るように透いて見えた。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先月の末、やみの晩でな、例のごとく密行したが、かねて目印の付いてる部じゃで、そっと裏口へ廻ると、木戸が開いていたから、庭へ入った。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、細目にそっとあけると、左は喜兵衛の伝ったかた、右は空室あきま燈影ひかげもない。そこからかくに折れ曲って、向うへ渡る長廊下。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お止し、そっとあんなものを貼って置いて、それを見たものに、肺病か何か当の病人から譲渡ゆずりわたして、荷を下そうなんのって、よくあるこった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夢中になった渠等かれらそばで、駅員が一名、そっと寄って、中にもめ組の横腹のあたり唐突だしぬけに、がんからん、がんからん、がんからん。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ツイと横を向きながら、おかしく、流盻ながしめそっくと、今度は、短冊の方からあごでしゃくる。顎ではない、舌である。細く長いその舌である。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)