妙齢としごろ)” の例文
旧字:妙齡
『兄よりは、妹のほうがもう妙齢としごろ。これは盛りを過ぎてはいかぬ。虫のつかんうちに、子葉殿も、ひとつ心がけておいてくだされ』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ヘヘヘ。博多中の妙齢としごろの娘の乳房の黒い、赤いを間違いなく存じておりまする者は、この赤猪口兵衛タッタ一人で。ヘヘヘ……」
いかに、大の男が手玉に取られたのが口惜くやしいといって、親、兄、姉をこそ問わずもあれ、妙齢としごろの娘に向って、お商売? はちと思切った。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女が妙齢としごろになれば、いろんな男が訪ねて来るもので、この作家の応接間には、娘を目的めあての若い男が次ぎから次へとやつて来た。
「可哀想に——。無理もねえや。妙齢としごろの女が桐の箪笥ごと晴着をみな焼いちまって、たったよれよれの浴衣一枚になってしまったんだからなァ」
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その何番目かの娘のおらいというは神楽坂路考ろこうといわれた評判の美人であって、妙齢としごろになって御殿奉公から下がると降るほどの縁談が申込まれた。
男と女が話をしてゐれば、それがただちに逢引あひびきですか。又妙齢としごろの女でさへあれば、必ず主有るにきまつてゐるのですか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
嬢さんも最早妙齢としごろゆえ、むこがあったらば取りたいものと、おっかさんは大事がって少しも側を離さないようにして置きましたが、どうも仕方がないもので
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれどまず第一に人の眼にまるのは夜目にも鮮明あざやかに若やいで見える一人で、言わずと知れた妙齢としごろ処女おとめ
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
さうしてこの中の資格は処女に限られ、縁づいたものは籍を除かれ、新しい妙齢としごろのものが代つて入る。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
静かだとはいっても、暮れ切れぬ駒形通り、相当人の往き来があるが、中でも、妙齢としごろの娘たちは、だしぬけに咲き出したような、このやさすがたを見のがそうはずがない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私は父や母の性格をよく知っていますから、知り合いになったこの家に、ジーナとスパセニアという、妙齢としごろの美しい娘がいるということなぞは、絶対にらしてはいません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
しち、七、しずかにしろ、一体貴様が分らぬわ、貴様の姪だが貴様と違って宿中しゅくじゅうでの誉者ほまれもの妙齢としごろになっても白粉おしろいトつつけず、盆正月にもあらゝ木の下駄げた一足新規に買おうでもないあのお辰
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
名は忘れたが、亜米利加で名高い女優に、妙齢としごろの娘を一人持つたのがある。——女優だからといつて、娘を産んではならぬといふ法はない。
妙齢としごろだ。この箸がころんでも笑うものを、と憮然ぶぜんとしつつ、駒下駄が飛んで、はだしの清い、肩も膝もくれないの乱れたおんなの、半ば起きた肩を抱いた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それについて、ふと思い当ったことがあります。聞くところによると、呂布には妙齢としごろの美しい娘がひとりあるそうです」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ようよう妙齢としごろになって来ると、裁縫ぬいはりだけは別として、茶の湯、生花、双六、歌留多、琴、三味線、手踊りのたぐいを自分の手一つで仕込んだ上に、姿が悪うなると言うて
何うぞいとか悪いとか聞いて下さい、唯手前てめえは厭になったらけえれって、何でもいから出て行けって、亀屋のお龜という芸者揚句あげくの、妙齢としごろの、今は娼妓つとめをして居るのを二三度買って
「よう、得心してくれた。そなたも妙齢としごろ。いや後の二妹ふたりを嫁入らせるにも、先ず、そなたから先にまらねばなるまいし」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女商人をんなあきんどは答へた。「商売をも一層手弘てびろくやつてきたいと思ひますし、それに妙齢としごろの娘も二人ございますもんですから。」
背は高いが、小肥こぶとりに肥った肩のやや怒ったのは、妙齢としごろには御難だけれども、この位な年配で、服装みなりが可いと威が備わる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妙齢としごろになっても畑の仕事のひまさえあれば、蝶々を追っかけたり、草花を摘んだりしてニコニコしている有様なので、世話の焼ける事、一通りでなかったが、それを母親のオナリ婆さんが
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつでも娘がいやがる、他人様ひとさまから、斯ういうい聟がありますと申込んでも厭がるもんだから、他人ひとが色々な事を云って困る、妙齢としごろの娘が聟を取るのを厭がるには、何か理由わけがあるんだろう
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一処ひとところ、大池があって、朱塗の船の、さざなみに、浮いたみぎわに、盛装した妙齢としごろの派手な女が、つがい鴛鴦おしどりの宿るように目に留った。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実は此娘これが嫁入の引出物にといふ積りで、はやくからお願ひ致しましたのですが、これも御覧の通りの妙齢としごろになりました。
「なんだね、お前さんたら、まだそんな色気があるのかい。婆惜ばしゃくさんというあんな妙齢としごろの娘を持ッてるくせにさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一処ひとところ大池おおいけがあつて、朱塗しゅぬりの船の、さざなみに、浮いたみぎわに、盛装した妙齢としごろ派手はでな女が、つがい鴛鴦おしどりの宿るやうに目にとまつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
アメリカのペンシルヴアニヤ州のクリヤフイルド市にヘンズレエといふ今歳ことしとつて十九になる妙齢としごろの娘がある。
とよく人にも云わるるとおり、時政はまだ五十もこえないのに、妙齢としごろのむすめ達が三人もあった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そりの合わない……というのも行き過ぎか、合うにも合わないにも妙齢としごろの女なんぞ影も見せたことのない処へ何しに来たろう。——ああ、そうか。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
画家ゑかきの胃の腑が当てにならない事を知つた依頼者は、近頃では妙な事を考へ出した。それは画の催促に出掛ける折、妙齢としごろの娘を一人連れ立つてくといふ事だ。
四年越しのこの艱難かんなん、その実も結ばず花も咲かず、鼠木綿の襟垢えりあかに、女子おなご妙齢としごろをこの流転……、千浪殿、千浪どの、弟に代って重蔵が、こ、この通りお詫びいたしますぞ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙齢としごろで、あの容色きりょうですからね、もうぜんにから、いろいろ縁談もあったそうですけれど、おきまりの長し短しでいた処
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「成る程さうだ、嬢ももう妙齢としごろになつたかな。」どうやら今日まで娘は胡瓜きうりと同じやうに、日に日に大きくなるものだといふ事を忘れてゐたらしい口風くちぶりだつた。
嫁ぐ妙齢としごろもはや過ぎかける片鴛鴦かたおしどりの独り身を、旅人の眼に不審いぶかられながら、むなしく旅に朽ちんとはして——いったい彼女は、この秋を、どこに武蔵の見た月を見ているのだろうか。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙齢としごろの娘でも見えようものなら、白昼といえども、それは崩れた土塀から影をあらわしたと、人を驚かすであろう。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あなた、宅の娘ももう妙齢としごろになりました事ですから、誰かいいむこでもありましたらと存じますが……」
「貂蝉、風邪をひくといけないぞよ。……さ、おだまり、涙をお拭き。おまえも妙齢としごろとなったから、月を見ても花を見ても、泣きたくなるものとみえる。おまえくらいな妙齢は、羨ましいものだなあ」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他人様の大切な娘を……妙齢としごろ十七八だって。(お月様いくつ)のほかに、年紀としばかりで唄になるのはその頃の娘なんだ。謡をうたうひまに拝んでるがい。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、それまで出口に衝立つゝたつてゐた妙齢としごろの美しい娘が、一寸会釈をしてこの説教家を呼びとめた。
そこへ、妙齢としごろの小間使が、楚々そそたる風情ふぜいで、茶を汲んで来た。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……眉は鮮麗あざやかに、目はぱっちりとはりを持って、口許くちもとりんとした……ややきついが、妙齢としごろのふっくりとした、濃い生際はえぎわ白粉おしろいの際立たぬ、色白な娘のその顔。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして絵の具は高いが、箪笥たんすやすいさうだから、結婚するなら今のうちだと教へる。親といふものは、娘の結婚を「妙齢としごろ」よりも、箪笥の値段でめるものだといふ事をよく知つてゐるから。
「——妙齢としごろだからな、もはや彼女あれも」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙齢としごろなが見得もなし。世帯崩しに、はらはらとお急ぎなされ、それ、御家の格子をすっと入って、その時じゃ——その時覚えました、あれなる出窓じゃ——
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
相手は妙齢としごろ縹緻きりやうよしといふでは無し、また別に色つぽい談話はなしをするのでもなしするから、そんなに肩が擦れ合はないでもよかりさうなものだが、そこは男と女だけにまた格別なものと見える。
「なんとあの妙齢としごろを」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼家あすこも無事なればよろしゅうござりますが、妙齢としごろの娘、ちと器量が過ぎますので、心配なものでござります。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、損をしても構いません。妙齢としごろの娘か、年増の別嬪べっぴんだと、かえってこっちから願いたいよ。」
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目顔で知らせ合っただけなのなんぞ——その容色きりょうでしかも妙齢としごろ、自分でも美しいのを信じただけ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)