もと)” の例文
煩悩ぼんのうの火は鉄もかす。ましてや以前は糸屋の若旦那とか。出家沙門しゅっけしゃもんとなったのも、もとは女からで、色の道と借金づまりの世間のがれ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
リューマチ性の熱がもとで六週間もポルダー邸を混乱させ、ポルダーの仕事を中止させ、ポルダーの寝室でほとんど死ぬほどに苦しんだ。
「その兵二郎が行かずに、茶の木稲荷へ臆病者で通っている太之助が行ったのが間違いのもとで、エテ物はやはり出たそうですよ」
從來不健康で有つた人ならば、不健康は一切の不妙の事のもとで有るから、自らあらたにして健康體にならねばならぬと思ふのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
御前を遠ざけてしまわれましたので、そう云うことが自然殿下のお耳へ這入り、御気色を損ずるもとになったのでござりましょう。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おせい様のような女は間違いのもとになりやすいのだ。ことに、おせい様の見ている前途の光は、明け方の色ではない。薄暮の浮光ふこうである。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
尚お都合のいことに同窓がべて凡人だ。成金の赤羽君にしても、欧州戦争という間違がもとで成功したのである。自分はもう仕方がない。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やがて更年期の心神変調がもととなつて精神異状の徴候があらはれ、昭和七年アダリン自殺を計り、幸ひ薬毒からは免れて一旦健康を恢復かいふくしたが
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
と云うのは、引揚げ後内火艇に繋がれて航行の途中、今度は宗谷海峡で、引網の切断がもとから沈没してしまったのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
恥ずかしいがもとの道化でございますよ、お偉い長老様、恥ずかしいがもとなのでございます。小心翼々たればこそ、やんちゃもするのでございます。
また二人ふたり内祝言ないしうげんはチッバルトどのゝ大厄日だいやくじつ非業ひごふ最期さいごもととなって新婿にいむこどのには當市たうしかまひのうへとなり、ヂュリエットどのゝ悲歎ひたんたね
武家に育つて、こんな氣風に慣れぬことから起つた京子の惱みが、其の不治の病にかゝもとであるといふ噂もあつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
この報知しらせを持って、お延は三吉の家へ飛んで来た。不図した災難がもとで、お鶴は発熱するように成ったのであった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
矢張りあの煙草好も胸を悪くするもとだつたらう——それを話し乍ら幾はどことなく顔を伏せるやうな風があつた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
それがもとというわけでもないでしょうが、井田さんはその後間もなくぶらぶら病いで床について、その年の十月にとうとういけなくなってしまいました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが危ぶないので大事になるもとだと、かめよもその時は気が立ってゐたのでづけづけとしたことを云った。
(新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
最初開業当時に、場内の見張人として手伝に行つて居たのがもとで、それから本物の丁稚にされたのであつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
不安のもとになったのは、これだった。この考えが浮んだ時、奇怪な不安の翳が、心を掠めたのである。
セトナ皇子(仮題) (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼の快活も憂欝も退屈も幻滅も、みんな女がもとだ。生活が厭になった——それも女のせいだ。新しい生活の曙光が射した、理想が見出された——そこにも女がいる。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
少し柄がいいので、手元の苦しいところを思い切って契約してみると、二月三月もかせいでいるうちに、風邪かぜもとで怪しいせきをするようになり、寝汗をかいたりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と八重が今いいだしたことのもとをはっきり我心に感じながら、そして何とかいわねばと思うのだが、こうした場所で、しかもこうまではっきりした言葉で聞かれると
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
表面はあくまで素知らぬ顔で通しているのも階級的な差別にもとづくと思われるのはつらいがりっぱな態度であるなどと、母親は薫にばかり好感の持たれる自分を認め
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかしそれが失敗のもとだった。そんなことをやったおかげで子供の姿勢はみじめにもくずれて、扉はたちまち半分がた開いてしまった。牛乳瓶はここを先途せんどとこぼれ出た。
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「それがいかんのだね。それが過ちのもとというものだ。これはとんだことになっちまったもんだ」
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
常々この蒸溜人こしては大のかつぎやであつたから、この折もすつかり腰掛に尻を落ちつけてゐる人間を戸外そとへ追ひだすのは、何か禍ひを招くもとになると考へたからであつた。
この女中が後に信之の身を滅ぼすもとになりましたが、細君に持ちかねて居るところへ、細君よりも、はるかに世間的知識に富んで居る女があらわれたのですから、やがて
暴風雨の夜 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
私の快活と、私の敏捷、それに私の文明社会に対する多少の批判力から来る落ち着きは、陸上競技聯盟でも職場の自動車店でも、大勢の人々から好かれるもとになりました。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
それがもとで亡くなられたと、山でえらい評判が、京へも聞えておりますが、貴殿の、御子息に、間違いなしとしたなら、詮議もせにゃならず、始末も、せにゃならず、それで
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
使者つかひが帰つて、その通り話すと、車の庄の長者は『白鳥を射殺しておきながら、けしからん言分いひぶんぢや』と怒つて了つたのぢや。それがもとで、たうとういくさになつたのぢや。いいか。
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
これらがつまり縁起譚として、何か其の當時あることのもと、或は古くから傳はつて居ることの變つて來ることを現はしてゐるのであつて、これが縁起譚的歴史的思想であります。
支那歴史的思想の起源 (旧字旧仮名) / 内藤湖南(著)
すると、この家の主婦は悲しい悲しい目にあったことがもとで、十五年このかた、ああして寝たッきりであるという返事。しかし、彼にはどうもそれが真実ほんとうだとは思われなかった。
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
もう帰国すれば用がなくなるというんでそこらへ投げ出して置いたのが誤りのもとらしい。
僕だつて、子供のお相手をする柄でもないし、たまに遠足に引つ張つてくと、それがもとで死ぬ子供ができるし、自分で責任は負はないにしても、寝覚めがわるくつてしやうがない。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
現世の執着の一つであるあなたの愛によって、わたくしを妨げず、そしてもとより備わって居るその世界の月の光を曇らせまいと心がける処に、はっきりとその道は開かれるのです。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
刹那せつな永劫えいごうに廻転する。なぜかなれば普遍の生命は流動しているからである。もろもろの感覚によって起される執著がもととなり種子たねとなって幻想の渾沌こんとんを構成する。渾沌は渦動する。
「わたくしが、あなたさまのお煩いのもとになったとおおせなさりますか——ほ、ほほ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
随って、廣介の身体のどこかの隅に、少しでも源三郎と違った部分があったなら、立所に彼の仮面ははがれ、それがもとになって、遂には彼の陰謀がすっかり曝露ばくろしないものでもないのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
右兵衛佐うひょうえのすけ殿(斯波義敏しばよしとし)の御曹子おんぞうしで、そののち長禄の三年に、義政公の御輔導役伊勢いせ殿(貞親さだちか)の、奥方の縁故にかされての邪曲よこしまなお計らいがもとで父君が廃黜はいちゅつき目にお遇いなされた折り
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「話してやろう。——おまえは殺生谷の伝説を知っているだろう、椙原家の先祖が此処ここへ入墾した当時、百幾十人かの土人を殺してあの底無し沼へ投込んだと云う。……事件のもとはあれなのだ」
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちょうど同じ日に一足後れて、お夏さんをめとろうという、山の井医学士の親類が、どんな品行だか、内聞ないぎき、というので、お夏さんの歌の師匠の、根岸の鴨川かもがわの処へ出向いたのが間違のもとです……
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「定めし深い仔細しさいあっての事であろう。何がもとでの刄傷じゃ」
七年以前にふとした風邪がもとでポックリ亡くなりました。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もとし無き災いはなしこの道や心そろはざれば皆くつがへる
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
戦争と流血のもととなしたのです。
あらそひのもとも我なりしと
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
決して愚か者でない玄蕃が、あたら自ら、指南番の栄位を棒に振ったのも、盲目的な中年の恋がもと、千浪に意地を賭けたがためだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何ぞほかに自滅のもとと思い当たるような筋合いはありませんかね。かしらはこの家とは別して近しく出入していたようだが。」
お針友達で懇意こんいになって、互いに往来ゆききまでしているうち、お春が、お雪の許嫁、酒屋の倅の長吉に心を寄せるようになったのが間違いのもとでした。
救護所で発した高代という言葉は、まさしく不意の明るみがもとで、鵜飼の腸綿ひゃくひろから放たれたものに相違ございません。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あの交際とか申すのが、矢張り身の破滅のもとでございました。或晩のことその交際とかで夜を更かして酒の勢でつい彼処へ差しかゝったのでございました
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)