千種ちぐさ)” の例文
そのうえ、はるか伯耆ほうき船上山せんじょうせん行宮あんぐうからも、千種ちぐさノ中将忠顕ただあきが、山陰中国の大兵を組織して、丹波ざかいから洛中をうかがっていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公武一和の説を抱いて供奉ぐぶの列の中にあった岩倉、千種ちぐさ富小路とみのこうじの三人の公卿くげが近く差し控えを命ぜられ、つづいて蟄居ちっきょを命ぜられ
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先刻さっきから隅の安楽椅子いすもたれて、黙って一座の「殺人論」を聴き入って居る名記者、千種ちぐさ十次郎の方へ鉾先が向けられました。
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
無理やりに父の隣に坐らされた千種ちぐさは、広い食堂の一隅に設けられた婦人連の席へ、僅かに晴れがましい微笑を投げてゐた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ところへ、千種ちぐさはぎ/\の股引もゝひきで、ひよいとかへつてたのはあにじやひと元太郎もとたらうで。これをると是非ぜひはず、だまつてフイと消失きえうせるがごとしまつた。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「さく花は千種ちぐさながらにうれおもみ、本腐もとくだちゆくわが盛かな」という和歌を添えてつくづくにねがいあげた。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
田原と三田は、北の新地に近い金ぷらや千種ちぐさの二階で、又新しく井元の死をいたみながら酒を飮んでゐた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
千種ちぐさ股引ももひきすきのない商人風で固めた上に、羽織とも、合羽かっぱともつかないあつしのつつっぽを着込んで雪駄せったばき——やがて風呂敷をかかえ込んで、お絹に案内され
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは千種ちぐさの花野であり、葛の葉の怨みからいつても、秋の野であり、秋の暮の出來ごとであるのを、どうして、菜の花と關聯して考へるのかといふと、日向雨ひなたあめの仲だちがある。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「はっ。義理がたい殿ゆえ、千種ちぐさどのをさしおいてはというご遠慮があり、さりとて、大事は火急、遠廻しな手順はとっておられぬと」
千種ちぐさ君、しばらく此処ここへ掛けたまえ、平常ふだんあまり人が来ないから、掃除は行届かないが、その代りこの辺なら決して話を人に聞かれる心配は無い」
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
二十八日には千種ちぐさ家のけらいを殺して、その右の腕を千種家の邸に、左の腕を岩倉家の邸に投げ込むものがある。攘夷の血祭りだなんて言って、そりゃ乱脈なものさ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小松原には、昼顔の花が一面に咲いて、なぎさの浪の千種ちぐさの貝にひるがえるのが、彩色した胡蝶ちょうちょうの群がる風情。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、その代り、目下先生の膝下に於て、その寵愛を一身に集めてをられる令嬢千種ちぐささんのご臨席を乞ひました。ついでながら先生のご家庭の近況をご報告申上げておきます。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
さく花は千種ちぐさながらにうれを重み、もとくだちゆくわがさかりかな
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
友軍の千種ちぐさ、足利にもおくれを取るなとの武者気質かたぎから、死傷のかずなど物ともしない猛攻をくり返し、敵に息つくひまも与えなかった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜中の十二時——電気時計の針は音もなくあくる日の最初の時を指すと、社会部長の千種ちぐさ十次郎は、最後の原稿をまとめにして、ポンと統一部の助手の机にほうりました。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
義貞は、自己の陣地を、粟田口から十禅寺ノ辻の辺に占め、楠木勢は、祇園林ぎおんばやしへ下がって潜み、最勝寺の森には千種ちぐさ、名和。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「整理部の新年会だから整理部長の留守はわかって居るが、社会部次長の千種ちぐさ何処どこへ行ったんだ、宵のうちから姿を隠すなんざ、あの男には例の無いことじゃないか」
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
千種ちぐさ腿引ももひきだの、緋羅紗ひらしゃの煙草入れだの、すしはこう食うのがオツだのと、つうすいに、別れきれないで、古い文化をたちまちに復興させている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはそうと、先刻さっきの話の切りを付けましょう、千種ちぐささんはうじゃな——」
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
進駐の千種ちぐさ、赤松、足利の三大将は、協議のすえ、各〻の任を分担して、すぐそれぞれの陣所を、他方面へ移して行った。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関東新報の社会部長で、名記者と言われた千種ちぐさ十次郎は、好んでんな伝法な口をきく、部下の早坂勇——一名足の勇——をたしなめるように、霞門の方から入って来る狭い道を指しました。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
入道は、一室から沁々しみじみと、眼を千種ちぐさの秋にやっていた。園内によもぎを多く植えてあるので、そこの室を蓬壺ほうこんでいた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足の勇には大先輩、関東新報社の社会部長、千種ちぐさ十次郎という名記者です。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
仕切帳でも包んであるのか、小風呂敷を腰から前へ結んで、矢立に、道中差、千種ちぐさ股引ももひきを見せて、尻端折しりはしょりをしている、若い商人あきんどていの旅人だった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名記者、千種ちぐさ十次郎は、こうニコやかに話し始めました。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しかし、その卯木には、一方、千種ちぐさ殿の弟も恋して、側室にほしいと、やっ気な運動をしておるが、これは兄の千種忠顕どのから、あきらめさせる。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と社会部長の千種ちぐさ十次郎が怒鳴ると
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
どうせ今夜の客は、新田と千種ちぐさだし、楠木とても、宮はわが腹心の一人としておられたので、ならば、同席させてもと、思いつかれたものらしかった。
「いや彼の証判などはいらん。わしは大塔ノ宮御直々ごじきじきに宿所をいただく。そうだ、ひとまず千種ちぐさ殿のおん許まで行こう。二条の千種殿のとこまでまいれ」
桂川かつらがわ加茂川かもがわ、二水の景を一ていにとり入れて、鳥の音もかすかに、千種ちぐさの姿もつつましく、あるがままな自然を楽しむのみならば、四季、いつということもない。
み草が目的なら、もっと暖かくなって人出がにぎわう頃にもなれば千種ちぐさも萌えているし花も咲いていよう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤穂城に近い千種ちぐさ川で川狩が催された時である。舟中の宴の座興ざきょうに、内匠守長矩たくみのかみながのりがふと云い出した。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六月七日の合戦には、早くも、千種ちぐさ忠顕と坊門ノ少将雅忠まさただらが、きらら坂や、ただすノ辻で、討死した。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しらみしぼりの半手拭はんてぬぐい月代さかやきに掛けて、つぎの当った千種ちぐさ股引ももひき穿き、背中へ鉄砲ざるをかついだ男が
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かみへすすむほど、川幅も狭くなって、岸の両側から青芒あおすすき千種ちぐさの穂が垂れ、万吉のさおにあやつられる舟の影が、薄暮の空を映したなめらかな川面を、水馬みずすましのようにすべってゆく。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、一簾いちれんの蔭からさし招くものがあった。たれかとみれば、これも近ごろ勲功の臣として、内裏でも、また外でも、かくれない羽振りの人、千種ちぐさとうノ中将忠顕ただあきだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千種ちぐさ、四条、中院ノ定平ら、あらましは、清忠説を支持してやまなかった。——正成の言を「なるほど」と、素直に聞いたらしい人々もなくはなかったが、しいて発言はしていない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつてこの山のひじりが、眼にふれた千種ちぐさの薬を百首の歌にみ入れた『天台採薬歌てんだいさいやっか』という冊子さっしが中堂に所蔵されていたと聞いたことがあるので、ぜひ一覧したいものと思うていたが
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われらは摂河泉せっかせんの糧道を断ち、また、新田殿や千種ちぐさ殿は、京の山々にって、ときには出て戦い、折には引き、洛内の敵に、安き眠りも与えぬなら、やがて足利勢も、もがき出しましょう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勢いは風よりく、秋の千種ちぐさに見送られて、兵の眉もさわやかだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千種ちぐさ殿まで、例の軍状の御加判を願いにてまいりました」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「や、千種ちぐさどのか」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千種ちぐさどの」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)