十月とつき)” の例文
「うむ、月輪殿も、きょうはだいぶお長座ながいことだ」そこへ、奥から一人の僧が、まだ生後やっと十月とつきぐらいな嬰児あかごを抱えてきて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と心配をして居るうちに、十月とつき経っても産気附かず、十二ヶつき目に生れましたのが、たまのような男の、続いてあとから女の児が生れました。
「あんた、もう忘れてなさる?………あれは三月の今日やってんわ。あんなことがあれへなんだら、今月がちょうど十月とつきやのんに、………」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
隠いた時分から数えますと十月とつきぐらい。………そうとすればはらませた者は、この村の青年かも知れませんが……ヘヘヘ……
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寄つてお出でよと甘へる声も蛇くふ雉子きぎすと恐ろしくなりぬ、さりとも胎内十月とつきの同じ事して、母の乳房にすがりし頃は手打々々てうちてうちあわわの可愛げに
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこで、祖父おじいさんはの赤児を拾って帰って、燈火あかりの下でよくると、生れてから十月とつき位にもなろうかと思われる男の児で、色の白い可愛い児であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と何気なく笑ったけれども、その言伝ことづては心にしみた。お針屋に十月とつきいて肋膜になったときもサイは帰らず、この二月には、夜業をつづけて二十円も国へ送った。
三月の第四日曜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それでね、六人とられてしもうて、いま五人だけですがね、ほんにね、お産のくるしみと、十月とつきなやみと、死んで行くものの介抱と、お葬式の涙ばかりで暮すぞね。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、それぎりでとうとう十月とつきほどして返して来た時、余り拗過くどすぎて我慢にも読通よみとおす気になれない、やはり外道の喜ぶもので江戸ッ子の読むもんじゃアないといった。
よりによって生れる十月とつきほど前、落語家はなしかの父が九州巡業に出かけて、一月あまり家をあけていたことがあり、普通に日を繰ってみて、その留守中につくった子ではないかと
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
十月とつきですつて。」と驚いた調子で云つて「仏蘭西フランスの女はそんなに長くはかゝりません。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
なくなられたその日までも庭の掃除そうじはしたという老父がいなくなってまだ十月とつきにもならないのに、もうこのとおり家のまわりが汚なくなったかしらなどと、考えながら、予も庭へまわる。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あたれる歳次さいじ治承じしょう元年ひのととり、月の並びは十月とつき二月ふたつき、日の数、三百五十余カ日、吉日良辰りょうしんを選んで、かけまくも、かたじけなく、霊顕は日本一なる熊野ゆや三所権現、飛竜大薩埵ひりゅうだいさった教令きょうりょうのご神前に
十月とつきほどして還ってきていとも饒舌じょうぜつに霊界の事情を語っていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
十月とつきも添はでわかれたる
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
十月とつきも添はで別れたる
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
十分に手当を致し其ののちとうとう縁切えんきりとの事になりましたが、あた十月とつきにすみの産落しましたのが山三郎、それから致して此のおすみには
場所も薔薇ばらの花のさかんな中へ取って、朱塗しゅぬりらちも結ってある、日給は一日三円、十月とつきの約束でどうだという。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
号して八十万、実数四十万の大軍が、蜀境の剣門関へ押し寄せたのは、わずか十月とつきの後で、洛陽の上下は呆気あっけにとられたほど迅速かつ驚くべき大兵のうごきだった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何時いつまでも何時いつまでも人形にんげう紙雛好あねさまとを相手あいてにして飯事まゝごとばかりしてたらばさぞかしうれしきことならんを、ゑゝや/\、大人おとなるはやなこと何故なぜこのやうにとしをばる、七月なゝつき十月とつき
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「それはどの国の女でも同じです。十月とつきで生むのが。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
右の通り御轉任ごてんにんにて八代將軍吉宗公と申上奉つる時に三十三歳なり寶永はうえい四年紀州家きしうけ御相續より十月とつき目にて將軍に任じ給ふ御運ごうん目出度めでたき君にぞありけるこれよつて江戸町々は申すにおよばず東は津輕つがるそとはま西は鎭西ちんぜい薩摩潟さつまがたまでみな萬歳ばんざい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
当る十月とつきわしが生れたてえ話でごぜえます、縄で腹ア縛られたからお繩とけたらかんべえと云って附けたでごぜえますが、是でも生れた時にゃア此様こんな婆アじゃアごぜえません
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何時までも何時までも人形と紙雛あねさまとをあひ手にして飯事まゝごとばかりして居たらば嘸かし嬉しき事ならんを、ゑゝ厭や厭や、大人に成るは厭やな事、何故このやうに年をば取る、最う七月なゝつき十月とつき
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いただいておきねえ。うん坊の小世帯なら、十月とつきや一年は暮らせるだろうが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取結とりむすばせける夫より夫婦なかむつましく暮しけるが幾程いくほどもなく妻は懷妊くわいにんなし嘉傳次はほか家業なりはひもなき事なれば手跡しゆせきの指南なしかたは膏藥かうやくなどねりうりける月日早くも押移おしうつ十月とつき滿みちて頃は寶永二年いぬ三月十五日のこく安産あんざんし玉の如き男子出生しゆつしやうしける嘉傳次夫婦がよろこび大方ならずほどなく七夜しちやにも成りければ名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
浪々中ろう/\ちゅうお花は十月とつきの日を重ね、産落うみおとしたは女の子、母のお花は産後の悩みによって間もなく歿ぼっせしため、跡に残りし荒木左膳が老体ながらも御主君ごしゅくんのおたねと大事にかけて養育なせしが
何時までも何時までも人形と紙雛あねさまとをあひ手にして飯事ままことばかりしてゐたらばさぞかし嬉しき事ならんを、ゑゑ厭や厭や、大人に成るは厭やな事、何故なぜこのやうに年をば取る、もう七月ななつき十月とつき
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
十月とつきをふるの間
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)