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ふりがな文庫
“
凭
(
もた
)” の例文
啓吉は黙ったまま井戸端へまわったが、ポンプを押すのもかったるくて、ポンプに
凭
(
もた
)
れたままさっきの蟋蟀のことを思い浮べていた。
泣虫小僧
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
哲郎は起って女と並んだ時、
爪立
(
つまだ
)
ちを
止
(
や
)
めた女の体がもったりと
凭
(
もた
)
れて来た。哲郎はその女の体を支えながらボール箱に手をやった。
青い紐
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
左にだらだら坂を上ると段々畑が現れて、鍬の柄に
凭
(
もた
)
れながらこっちを見ている人達の姿が目に入る、これは其処へ通う路であった。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
が、大井はやはり退屈らしく、後頭部を椅子の背に
凭
(
もた
)
せて、時々無遠慮に鼻を鳴らしていたが、やがて急に思いついたという調子で
路上
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「あんた怒ったの」と、松山が云い、その肥えた躯で深喜に
凭
(
もた
)
れかかろうとした。深喜は躯をそらし、ふところから紙入れを出した。
花も刀も
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
▼ もっと見る
奥には——いや
炉部屋
(
ろべや
)
の側の竹窓がある小さい部屋には、その道三秀龍が、窓べりに
凭
(
もた
)
れて、往来のほうを見まもっているのだった。
新書太閤記:01 第一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
窓を開けると、水のやうな月夜、遠く祭のどよみを聽いて、低い生垣に
凭
(
もた
)
れるやうに、シヨンボリ立つて居る女と顏を合せました。
銭形平次捕物控:308 秋祭りの夜
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
よろよろと幕に
凭
(
もた
)
れかかったと思うと、ちょうど幕に呑まれたように、ハムレットの姿がふっと舞台から見えなくなってしまった。
ハムレット
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
Bはさう大して上等の普請ではなかつたけれども、兎に角新しく気持よく建てられた二階の欄干にその身を
凭
(
もた
)
せ得たことを喜んだ。
山間の旅舎
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
広間の長椅子に
凭
(
もた
)
れて其の
辺
(
へん
)
に置いてある上海や
香港
(
ホンコン
)
やマニラあたりの英字新聞を物珍らしく拾ひ読みした後、早く寝てしまつた。
海洋の旅
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
さうして濕つぽい夜更けの風の吹いて來る暗い
濠端
(
ほりばた
)
の客の少い電車の中に互ひの肩と肩とを
凭
(
もた
)
せ合つて引つ返して來るのであつた。
崖の下
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
灯を点けることも忘れ
窓掛
(
カーテン
)
を引くことも忘れて、
凝乎
(
じっ
)
と私は椅子に
凭
(
もた
)
れていたが、「旦那様、お食事のお仕度が整いましてございます」
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
が同時にまた、思出の多いここの
頼母
(
たのも
)
しさを感じて、葛木は
背後
(
うしろ
)
に活路を求めるのを忘れつつ、橋の欄干に、ひた、とその
背
(
せな
)
を
凭
(
もた
)
せた。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
瀬川は机の上の手紙を慌ててかくし、
抽斗
(
ひきだし
)
の中へ
蔵
(
しま
)
い込むと、それから机に背を
凭
(
もた
)
らせて寄りかかりながら「まあ、お座り」と言った。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
繻子
(
しゅす
)
の模様も
対
(
つい
)
とは思うが、
日除
(
ひよけ
)
の
白蔽
(
しろおい
)
に、卸す腰も、
凭
(
もた
)
れる背も、ただ心安しと気を楽に落ちつけるばかりで、目の保養にはならぬ。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
嵐の前の宵、客のない暗い二階の欄干に
凭
(
もた
)
れて沖を見ていた。昼間から怪しかった雲足はいよいよ早くなって、北へ北へと飛ぶ。
嵐
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
彼は娘の死体を抱き起して、大トランクに
凭
(
もた
)
せかけ、手際よく髪を
結
(
ゆ
)
い始めた。髪の道具もちゃんとトランクの中に用意してあったのだ。
恐怖王
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
二人は、裏畑の中の材木小屋に入つて、積み重ねた角材に
凭
(
もた
)
れ乍ら、雨に
濕
(
しめ
)
つた新しい木の香を嗅いで、小一時間許りも
密々
(
ひそ/\
)
語つてゐた。
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
私は、彼女の体を抱き起して、壁に
凭
(
もた
)
せかけた。それからこんどは、首を拾いあげた。その首を彼女の肩のうえに
嵌
(
は
)
めてやった。
地球要塞
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
夜具代りにした二三枚のケットに
凭
(
もた
)
れて、書見にふけっているように装いながら実は考えごとに
耽
(
ふけ
)
っていたと思われるのである。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
背中を貸すだけではなく、やや疲れたと見た時分には、草にふしたその腹を提供して、そこに
凭
(
もた
)
れて眠ることをさえ許すの風であります。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
お雪は剥くものを剥いてしまうと、それを
目笊
(
めざる
)
に入れて、水口にいる女中の方へ渡した。そして柱に
背
(
せなか
)
を
凭
(
もた
)
せて、そこにしゃがんでいた。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
こゝにわれ鍋の鍋に
凭
(
もた
)
れて熱をうくる如く互に凭れて坐しゐたる
二人
(
ふたり
)
の者を見き、その頭より足にいたるまで
瘡斑點
(
かさまだら
)
をなせり 七三—七五
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
かの女は、
潜
(
くぐ
)
り門に近い洋館のポーチに
片肘
(
かたひじ
)
を
凭
(
もた
)
せて、そのままむす子にかかわる問題を
反芻
(
はんすう
)
する切ない楽しみに浸り込んだ。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
「他あやん、そんな暖簾に
凭
(
もた
)
れて麩噛んだみたいな顔せんと、もっと元気出しなはれ。おまはんまで寝こんでしもたら、どんならんぜェ。」
わが町
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
若い
中
(
うち
)
は色気から兎角了簡の狂いますもので、血気
未
(
いま
)
だ定まらず、これを
戒
(
いまし
)
むる色に
在
(
あ
)
りと申しますが、
頗
(
すこぶ
)
る
別嬪
(
べっぴん
)
が膝に
凭
(
もた
)
れて
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
唯机に
凭
(
もた
)
れているばかりであるけれども、
油然
(
ゆうぜん
)
として楽しいのはやはり心一つに遊ぶからである、というような、そういう心の遊びである。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
幾度
(
いくど
)
か二人はつんのめりそうになった。両腕を互の首根っ子に廻わして、お互にまた引きずったり、
凭
(
もた
)
れかかったりしていた。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
男はそんな事に気も付かない
体
(
てい
)
で、椅子の背に横すじかいに
凭
(
もた
)
れかかったまま女の出て行ったあとをじいーっと見詰めているようであった。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
彼は、壁一面に貼りつけた満洲の地図と大きな地球儀を備へた離れの居間にうづくまつて、酒がまはると脇息に
凭
(
もた
)
れて
仮寝
(
うたゝね
)
をするだけだつた。
サクラの花びら
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
... そして、いつ帰ったか戸締りを破って這入って、籐椅子に
凭
(
もた
)
れたまゝ狭心症で死んでいた——ふうん」ともう一度感嘆して、「よし直ぐ行く」
青服の男
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
四十あまりの大番頭が端近の火鉢に
凭
(
もた
)
れて店番しているのを見て、三次は、ははあ、これが昨日瓦屋へ談じ込んで行った白鼠だな、と思った。
早耳三次捕物聞書:02 うし紅珊瑚
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
朝からの気疲れがおしげの身体を包んだ、新吉なんか怖かないやと思つてゐるうちに、そこに
凭
(
もた
)
れてほんの暫くまどろんだ。
一の酉
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
あたしの愛しい方! おつむをあたしにお
凭
(
もた
)
せなさいまし! 何だつてあなたは、そんな不吉なことをお考へになるのです?
ディカーニカ近郷夜話 後篇:03 怖ろしき復讐
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
そういう時、ぼくは
独
(
ひと
)
り、甲板の
手摺
(
てすり
)
に
凭
(
もた
)
れ、
泡
(
あわ
)
だった
浪
(
なみ
)
を、みつめているのが、何よりの快感でした。あなたとは、もう遊べませんでした。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
彼は軽く桛杖に
凭
(
もた
)
れながら、じっとその場所に立っていて、今にも跳びかかろうとする蛇のように相手の男を見守っていた。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
西中島
(
にしなかじま
)
の大川に臨む
旅籠屋
(
はたごや
)
半田屋九兵衛
(
はんだやくへえ
)
の奥二階。
欄干
(
てすり
)
に
凭
(
もた
)
れて朝日川の水の流れを眺めている若侍の一人が口を切った。
備前天一坊
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
加藤夫人はこれを
扉
(
ドア
)
まで送つてもとの椅子へ戻るまでに、中将は此処で始めて溜息を
吐
(
つ
)
き、椅子の背へ
凭
(
もた
)
れて眼を閉ぢる。
癖
(新字旧仮名)
/
喜多村緑郎
(著)
埃の舞ひこむ窓口に軍治は机を置き、長持に
凭
(
もた
)
れて足を投げ出し、弱い眼つきで垂れ迫る感じの低い天井を眺めたりした。
鳥羽家の子供
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
二階座敷の欄干に
凭
(
もた
)
れて、川の中を
往來
(
ゆきき
)
する小舟を見たり、小旗の立つた
蠣舟
(
かきぶね
)
に出入りする人を數へたりして、竹丸は物珍らしい半日を送つた。
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
イングラム孃は本をとり上げると椅子に
凭
(
もた
)
れかゝつた。で、その話は、
斷
(
き
)
れてしまつた。私は殆んど半時間位の間、彼女の方をじつと見てゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
彼は独り自分の
臥榻
(
ねいす
)
の上に
凭
(
もた
)
れて、
黄金色
(
きんいろ
)
の長髪の間にはなはだ高い眉がしらをやや
皺
(
しわ
)
めて、
旧游
(
きゅうゆう
)
の地ビルマ、ビルマの夏の夜を偲んでいたのだ。
鴨の喜劇
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
それは吉田がもうすっかり咳をするのに疲れてしまって頭を枕へ
凭
(
もた
)
らせていると、それでもやはり小さい咳が出て来る
のんきな患者
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
そして、
卓子
(
テーブル
)
を隔てた前方には、前の幕合から引き続き坐り込んでいる、
支倉
(
はぜくら
)
検事と熊城捜査局長が椅子に
凭
(
もた
)
れていた。
オフェリヤ殺し
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
それから汽車に乗っている間、窓の枠に頭を
凭
(
もた
)
して、
乗客
(
ひと
)
の顔の見えない方ばかりに眼をやって
静
(
じっ
)
と思いに耽っていた。
別れたる妻に送る手紙
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
卒然
(
いきなり
)
手を
執
(
と
)
って引寄せると、お糸さんは
引寄
(
ひきよせ
)
られる儘に、私の着ている夜着の上に
凭
(
もた
)
れ懸って、「
如何
(
どう
)
するのさ?」と
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
チヤーチルを
宿屋
(
ホテル
)
に送り込んだ
紹介人
(
ひきあひにん
)
は、帰りに本屋の店を覗いてみた。本屋は椅子に
凭
(
もた
)
れて籠のカナリヤを逃がしたやうな、浮かぬ顔をしてゐた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
突堤の先端に立っている
警羅
(
けいら
)
の塔の入口から、長靴を
履
(
は
)
いた二本の足が突き出ていた。参木は一人になるとベンチに
凭
(
もた
)
れながら
古里
(
ふるさと
)
の母のことを考えた。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
或る日、トムさんが畠に出て、一鍬土を耕して、じつと鍬の柄に
凭
(
もた
)
れ、ぽかんと口をあけて空想にふけりました。
小熊秀雄全集-14:童話集
(新字旧仮名)
/
小熊秀雄
(著)
と番人も僕達の仲間入りをして欄干に
凭
(
もた
)
れた。いくら金閣でも朝から此処に坐り続けていたら退屈するのだろう。
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
凭
漢検1級
部首:⼏
8画
“凭”を含む語句
凭掛
凭懸
倚凭
寄凭
背凭
凭竹
凭出
凭背
打凭
腕凭椅子