伽噺とぎばなし)” の例文
ちょいとのぞいてみると、いわく「世界お伽噺とぎばなし法螺ほら博士物語」、曰く「カミ先生奇譚集きたんしゅう」、曰く「特許局編纂へんさん——永久運動発明記録全」
活動写真はまだよい。ところがお伽噺とぎばなしや歴史の本などを見て、昔の英雄などについてやはり同様に簡単な質問をかけられる事がある。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まるでお伽噺とぎばなしにあるばかな漁師に黄金きんの魚が手にはいったように、わたくしと出会わしてくだすったことをほんとに感謝いたします。
私が他の人達とちがつた運命に生れることなど決してありません。そんな運命が私に來ると想像するのはお伽噺とぎばなしです——白晝夢ですわ。
更紗の小布団の横にみのえもころがって、子供に顔をいじられながら何かお伽噺とぎばなしをしてやった。古風な猿蟹合戦、または浦島太郎。
未開な風景 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そうしていると、いつともなく日が暮れて、頭の上の小さな窓の外の、黒天鵞絨くろびろうどの空に、お伽噺とぎばなしの様な星がまたたいていたりした。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二十世紀の現代に眼を閉じさして民衆を昔し昔しのお伽噺とぎばなしにつれてゆこうとする時、唯物史觀は儼然げんぜんたる事實を示す必要があるのである。
唯物史観と文学 (旧字旧仮名) / 平林初之輔(著)
山に人格を認めるのは、素朴な幼稚な心に限ることであろうが、そういうお伽噺とぎばなしめいた心持ちをさえ刺戟するほどにあの山は表情が多い。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ええ、あの古いお伽噺とぎばなしです。かちかち山の話です。おや、あなたは笑つてゐますね。あれは恐ろしい話ですよ。夫は妻の肉を食つたのです。
教訓談 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
例えば子供の時分に同じお伽噺とぎばなしを何遍でも聞かされたおかげで年取って後までも覚えておられるが、桃太郎でも猿蟹合戦でも
随筆難 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そしてそれはやはり尊重しなければならないのだろうから。それでもお伽噺とぎばなしなんかにはよくあるではないか。雀が燕の訪問を歓迎する話が。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
*7 カシチェイ ロシアのお伽噺とぎばなしに登場する痩せた吝ん坊で、不死身の老人ということになっている。痩せ男や吝嗇漢の渾名あだなに使われる。
母が私にして聞かすお伽噺とぎばなしの中にも歌はよく引合にでました。そのうちには七つ八つの子供が歌を読み合って問答するような話もありました。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼らは、宗教と物語とをいかにもふしぎに混ぜあわせ、そのなした業は、事実と作り話とを結び、歴史とお伽噺とぎばなしとを結ぶ輪となっているのだ。
「お伽噺とぎばなしに、そんなはなしがあるが、あのふねは、そんなものじゃない。毎年まいねんのように、このみなとむかしからやってくるふねなのじゃ。」
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それがしきりとわたしに白孔雀しろくじゃくひなを買えとすすめるのですから、わたしはお伽噺とぎばなしみたようなその夜の空気がへんに気に入ってしまったのです。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
われわれが知っているものを取ってこれをたとえるならば、お伽噺とぎばなしのごとく、『アラビア夜話』に似たものとなるであろう。
『いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、夢の島絵の島お伽噺とぎばなしの島、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい』
世に優れたる詩人の空想ほど確実性を持つものはございません、科学などはそれに比べると全くお伽噺とぎばなしのようなものです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
敷金しききんだけでも六十円はかかる。最初その相談が三郎からあった時に、私にはそれがお伽噺とぎばなしのようにしか思われなかった。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「泣かなくてもいいじゃないか。馬鹿だね。どれどれ。」と祖母は帯の間から老眼鏡を取り出し、末弟のお伽噺とぎばなしを小さい声を出して読みはじめた。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
……面白いな……まるでお伽噺とぎばなしか何ぞのように、小さな美しい悪魔が、大きな醜い悪魔をやっつけて、只の人間になるまで去勢してしまっている。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして私もまた、処女だったので、ただそれだけの理由で私を彼の妻にするといったような馬鹿気たお伽噺とぎばなしを、馬鹿な私の父に約束したのだった。
多分ナオミは、その子供らしい考で、間取りの工合など実用的でなくっても、お伽噺とぎばなしの挿絵のような、一風変った様式に好奇心を感じたのでしょう。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
独逸ドイツから帰って来てからの漣は出山の釈迦しゃかが成覚したように小説家たる過去を忘れてお伽噺とぎばなし小波さざなみとなってしまった。
およそ以上のような会話は、何を下らぬお伽噺とぎばなしの国の王子と王女の問答みたいなものを書いて! と、姉上貴女はお思いになられるかも知れません。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それはあたかもお伽噺とぎばなしを聞いた子供が、本当にあったことだと信じていながらも、ふとした気まぐれにそれを嘘だと思ってみるような心持ちであった。
駒込の富士から神田明神、深川八幡の境内、鉄砲洲てっぽうずの稲荷、目黒行人坂ぎょうにんざかなどが、その主なる場所であった、がそれも、今ではお伽噺とぎばなしになってしまった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「いくらサンタ・クロースだって、まさかあの細い煙突から、はいったなんてことはないでしょう……こいつは、ただのお伽噺とぎばなしではないんですからね」
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そして諸君はまもなくここへ、ここのこの野原へむかしのお伽噺とぎばなしよりもっと立派なポラーノの広場をつくるだろう。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あなたとこの秋にお目にかかること、そして私たちにとってはお伽噺とぎばなし幔幕まんまくで包まれている輝かしいあなたの国を知ることをよろこばしくもくろみながら
たとへば、印度いんどの三明王めうわうへんじて通俗つうぞくの三入道にふだうとなり、鳥嘴てうし迦樓羅王かろらわうへんじてお伽噺とぎばなし烏天狗からすてんぐとなつた。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
あたかも彼女の知っている唯一のお伽噺とぎばなしかなんぞのように繰りかえし繰りかえし私に話して聞かせたのだった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかし、今や、わが中野秀人は、お伽噺とぎばなしの中の王女をめとって国際恋愛の範を垂れようとしているのではないか。これだけは誰にも出来るという芸当ではない。
いわば、それまで厭わしさに充ちていた現実の一部が、ここではっきりと、魅力あるお伽噺とぎばなしに変えられた。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さもないと、すべてが一ぺんのお伽噺とぎばなしのようにえて、さっぱり値打ねうちがないものになりそうでございます。
「蜂屋君はつまらない事を言ってしまいました、これは私の国に起った、お伽噺とぎばなしのような事件で、決して諸君の退屈しのぎになるような面白い事柄では無いのです」
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「うそだろう、河の底から、そんなに無数の金時計が出るなんて、どう考えても、お伽噺とぎばなしじゃないか」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま少時しばしねえさんのひざまくら假寐かりねむすんだあいちやんのゆめいてほどけばうつくしいはな數々かず/\色鮮いろあざやかにうるはしきをみなして、この一ぺんのお伽噺とぎばなし出來できあがつたのです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「私はセエラ・クルウ。あなたのお名前、ほんとに綺麗ね。まるでお伽噺とぎばなしの名みたいに聞えるわ。」
好む。真理は人間に属しない、それはいわば出来上って、そのあらゆる完全性において、天から来る。そして人間は自分自身の作品、作り事とお伽噺とぎばなしのほか愛しない。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
まるで手品のようだ、少し暇になったらお伽噺とぎばなしを書くぜ。題にいわくさ、魔術の栓またの名はアルセーヌ大失敗の巻……アハハハハ羽が生えて飛んでいったんだよ……。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
明かるい本町通りに出ると、書店に入って、病床にいる末子のために、絵の美しいお伽噺とぎばなしの本を数冊買った。果物屋で、千博の好きなバナナと林檎とをすこし買った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ほとんど人民一般の脳髄へ染み込んでいます。それは書物の上で知って居るのでなくてお伽噺とぎばなしの上で知って居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
もちろんこれはお伽噺とぎばなしであって、いくらアフリカでも、そんなべらぼうな動物がいるはずはない。
異魚 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
風の精か、匂いの姿か、お伽噺とぎばなしの夢かというような人がですね。その人が何をするとお思いです。
トリスタン (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
「まるでお伽噺とぎばなしに出てくる神様みたいなことを言ったんだね」と画家の友人は私に言うのだった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
いつか心持に余裕のできた時にお伽噺とぎばなしにでも書きなおそうなどと思っているが、それも今まで忘れていたのだった。球だけ取りはずして、よく江川の玉乗りの真似などして
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
信一郎の乗っている自動車の運転手は、の時代遅れの交通機関を見ると、丁度お伽噺とぎばなしの中で、かめに対したうさぎのように、いかにも相手を馬鹿ばかにし切ったような態度を示した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして、今誰も居ないのを幸にお伽噺とぎばなしの中などに出て来る小鬼の様な恰好をして、広間や納戸や勝手などへ出て来て、ぴよんぴよんと飛び跳ねながら進んで居る様に思はれた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)