五位鷺ごいさぎ)” の例文
そよそよと流れて来る夜深よふけの風には青くさいしいの花と野草のにおいが含まれ、松のそびえた堀向ほりむこうの空から突然五位鷺ごいさぎのような鳥の声が聞えた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しりもも膝頭ひざがしらが一時に飛び上がった。自分は五位鷺ごいさぎのように布団の上に立った。そうして、四囲あたりを見廻した。そうして泣き出した。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥野が帰ったあとで、秋山は又もや机にむかって、あしたの吟味の調べ物をしていると、屋根の上を五位鷺ごいさぎが鳴いて通った。
真鬼偽鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「仙波さん、相変らずはぐらかすねえ。そりゃア、五位鷺ごいさぎの抜け羽でしょう。あなたには、それが天狗の羽根に見えますか」
折々ひときわ鋭く五位鷺ごいさぎのような喉を振り絞って余韻もながく叫びあげる声が朧夜の霞を破って凄惨この上もなかった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
その夜空を、しきりと、五位鷺ごいさぎいて行った。幾ぶんか雨気をふくんだ風である。山のほうは降っているらしい。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぎい、ちよん、ぎい、ちよんと、どての草に蟋蟀きりぎりすの紛れて鳴くのが、やがて分れて、大川にただの音のみ、ぎい、と響く。ぎよ、ぎよツと鳴くのは五位鷺ごいさぎだらう。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かも小鴨こがも山鳩やまばとうさぎさぎ五位鷺ごいさぎ鴛鴦おしどりなぞは五日目ないし六日目を食べ頃としますがそのうちで鳩は腐敗の遅い鳥ですから七、八日目位になっても構いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そういう夜、五位鷺ごいさぎがよく静かに鳴きながら空を渡った。月のいい晩には窓からその影が見えさえした。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
ふくろうおどかされた五位鷺ごいさぎだと牧瀬はいつた。歳子の襲はれさうになる恋愛的な気持ちを防ぐ本能が、かの女にぶる/\と身慄みぶるひをさして、その気持ちを振り落さした。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
平次は曲者くせものを引起すと、その身体の泥などを払ってやっております。五位鷺ごいさぎ秀吉ひできちというやくざ者、賭博打ばくちうちの兇状持ですが、大した悪い事をする人間とは思われません。
彼は家の外に出てくるまの姿を待った。冷えて降りだしそうな暗い空に五位鷺ごいさぎが叫んでとおりすぎる。そうして待ちびていると、ふと彼は遠いたよりない子供の心に陥落されていた。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
かれはそう叫ぶと、対手あいてにきこえたかどうかと思った。和泉の人はそれと同時に何か五位鷺ごいさぎのような奇声を立てたが、意味は分らなくとも、明らかに相射ちをうなずき合ったものだった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
片側町かたかはまちなる坂町さかまち軒並のきなみとざして、何処いづこ隙洩すきも火影ひかげも見えず、旧砲兵営の外柵がいさく生茂おひしげ群松むらまつ颯々さつさつの響をして、その下道したみち小暗をぐらき空に五位鷺ごいさぎ魂切たまきる声消えて、夜色愁ふるが如く
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それが百万回以上も積重つみかさねられて、ここに色々の村の文学が出来た。ほたる蝙蝠こうもりは言うに及ばず、がんでもからすでも五位鷺ごいさぎでも、彼等にびかけられる多くの鳥は、大抵は皆夕の空の旅人であった。
水気の少い野の住居は、一甕ひとかめの水も琵琶びわ洞庭どうていである。太平洋大西洋である。書斎しょさいから見ると、甕の水に青空が落ちて、其処に水中の天がある。時々は白雲しらくもが浮く。空を飛ぶ五位鷺ごいさぎの影もぎる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
本所ほんじょ茅場町かやばちょうの先生の家は、もう町はずれの寂しいところであった。庭さきのかきの外にはひろい蓮沼はすぬまがあって、夏ごろはかわずやかましいように鳴いていた。五位鷺ごいさぎ葭切よしきりのなく声などもよく聞いた。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
近くに古沼でもあるとみえて、ギャーッと五位鷺ごいさぎの啼く声がした。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あれでございますか? あれは五位鷺ごいさぎでございますよ。」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五位鷺ごいさぎがんなどが飛びながらおりおり鳴くのも
疑問と空想 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
五位鷺ごいさぎがギャアと夕空を鳴いて過ぎた。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「さあね、五位鷺ごいさぎぢやないかな。」
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
五位鷺ごいさぎが鳴いて夜は暁に近づいた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
五位鷺ごいさぎが、頭上で啼いた。
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
翼しをれし五位鷺ごいさぎ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
鐘の音が消えた空に、五位鷺ごいさぎが、つばさをった。——深夜の感じは、刻々、明け方ぢかい空気に変ってくる。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我国では、先ずぬえ五位鷺ごいさぎを怪鳥の部に編入し、支那では鵂※きゅうしを怪鳥としている。鵂※は鷹に似てよく人語をなし、好んで小児の脳をくらうなどと伝えられている。
妖怪漫談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれども一面の水だから、せっかく水を抜いた足を、また無惨むざんにも水の中へ落さなくっちゃならない。片足を揚げると、五位鷺ごいさぎのようにそのままで立っていたくなる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鉄砲疵てっぽうきずのございます猿だの、貴僧あなた、足を折った五位鷺ごいさぎ種々いろいろなものがゆあみに参りますからその足跡あしあとがけの路が出来ますくらい、きっとそれが利いたのでございましょう。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
 一、夜ややふけて、よその笑ひ声もたえる頃、月はまだ出でぬに歩む路明らかならず、白髭あたり森影黒く交番所の燈のちらつくも静なるおもむきを添ふる折ふし五位鷺ごいさぎなどの鳴きたる。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きじ、山鳥、兎、さぎ五位鷺ごいさぎ鴛鴦おし、熊、猿、白鳥、七面鳥、にわとり
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
雨気を含んだ暗い夜で、低い空の闇を破って啼いていく五位鷺ごいさぎの声がどこやらで聞こえた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いや夜あるきにはれている、雨も小留こやみに、月も少しあかければみちすがら五位鷺ごいさぎの声も一興、と孔雀くじゃくの尾の机にありなしは知らぬ事、時鳥ほととぎすといわぬが見つけものの才子が、提灯ちょうちんは借らず
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人の数より、はるかに、五位鷺ごいさぎのほうが多かった。灰色の害鳥の群れが、わが物顔に、田をめ、を盗んで、人間は鷺以下の者としか見えないほど、文化の光がなかったのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蚊の声、虫の声、古寺の闇はいよいよ深くなって屋根の上を五位鷺ごいさぎが鳴いて通った。
五位鷺ごいさぎ飛んで星移り、当時は何某なにがしの家の土蔵になったが、切っても払っても妄執もうしゅう消失きえうせず、金網戸からまざまざと青竹が見透かさるる。近所で(お竹蔵たけぐら。)と呼んでおそれをなす白壁が、町の表。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その笠の列も、空を飛ぶ五位鷺ごいさぎの影も、田水に映っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どっちです、白鷺しらさぎかね、五位鷺ごいさぎかね。」
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠くに犬え、近く五位鷺ごいさぎく。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれは五位鷺ごいさぎでしょうな。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五位鷺ごいさぎ
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)