よろず)” の例文
旧字:
入要の物に替えければよろずの物豊かに極めたる富人として一生観音に仕えたが己れ一代の後はその金餅失せて子に伝わらなんだという。
姜維きょういは、謹んで命をうけ、童子二名に、よろずの供え物や祭具を運ばせ、孔明は沐浴もくよくして後、内に入って、清掃を取り、だんをしつらえた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叔父は人間社会の事に大抵通じているせいか、よろずたかくくる癖に、こういう自然界の現象におそわれるとじき驚ろく性質たちなのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きらびやかな店もできてよろず、何となく今の世のさまにともなっているが、士族屋敷の方はその反対で、いたるところ
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
されどこの人は一景色ひとけしきことなり、よろずに学問のにほひある、洒落しゃらくのけはひなき人なれども青年の学生なればいとよしかし
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
従ってその反対なもの即ちすべての陰気、骨だらけの女やよろず河魚類、すし、吸物すいもの、さしみ、あらい、からした心、日本服など頗る閉口するのである。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
心は、『このくじに逢う人は運甚だ悪し』と来た、『待人来らず、望み遂げ難し、売買うりかい利なし、元服嫁とり聟とり旅立ちよろず悪し、女色の惑い深く慎むべし』
妾の坂崎氏を訪うや、女史と相見て旧知の感あり、ついに姉妹の約をなし生涯相助けんことを誓いつつ、よろず秘密をいとい善悪ともに互いに相語らうを常とせり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「それはじめにことばあり、よろずの物これによりてつくらる」とヨハネ伝のはじめに録されたるごとく、世界を支える善、悪の法則を犯せば必ず罰がなくてはなるまい。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それから多くの人が貰いに来るようになって、よろずの病は皆この水を汲んで洗えば必ずよくなるといいました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
我が朝の貫之つらゆきもその古今集の序に於て「やまと歌は人の心をたねとしてよろずこととぞなれりける」と説き
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
よろず屋と、二軒の茶店が、角店として、旅人を送り迎えしていた(右角が、鍵屋であったという説もある。今そこには、新らしい数馬茶店というのが出来ている)
寛永武道鑑 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
よろず御注進の髪結が煙草を呑散した揚句、それとなく匂わせて笑って帰りました時には、今まで気を許していらしった奥様も考えて、薄気味悪く思うようになりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下関しものせきで鮮度の高いやつ腸抜わたぬきにして、飛行便で送ってくるから、これならよろずまちがいないはずだ。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「ここによろずの神のおとないは、狭蠅さばえなす皆き」は火山鳴動の物すごい心持ちの形容にふさわしい。
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その罪穢、その腐敗は、まさに言語に絶し、よろず災厄わざわいは、すべてここにきざすのである。地上の人類が、もう少し這間の事情に通ぜぬ限り、文化の発達は到底遅々たるを免れない。
太初はじめことばあり。言は神とともにあり。言は神なりき。この言は太初に神とともに在り。よろずの物これにりて成り、成りたる物に一つとしてこれによらで成りたるはなし。之に生命いのちあり。
その功によりて月宮殿げっきゅうでんより、霊杵れいきょ霊臼れいきゅうとを賜はり、そをもてよろずの薬をきて、今はゆたかに世を送れるが。この翁がもとにゆかば、大概おおかた獣類けもの疾病やまいは、癒えずといふことなしとかや。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
これに対してイエス様は答えて言われた、「実にエリヤはまず来たりて、よろずのことを復興する(「改む」とあるは回復するという字。壊れたものをもとどおりに直すことであります)
一 下部しもべあまた召使めしつかうともよろずの事自から辛労を忍て勤ること女の作法也。舅姑の為に衣を縫ひ食を調へ、夫に仕て衣を畳みしきものを掃き、子を育てけがれを洗ひ、常に家の内に居てみだりに外へいづべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
浪子が死せしと聞きしその時は、未亡人もさすがによき心地ここちはせざりしが、そのたまたま贈りし生花の一も二もなく突き返されしにて、よろずの感情はさらりと消えて、ただ苦味にがみのみ残りしなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
福岡へ移ってから間もなく、御米はまたいものをたしむ人となった。一度流産すると癖になると聞いたので、御米はよろずに注意して、つつましやかに振舞っていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よろず直しという名の料理屋でめしでも食べたら多少は持ち直しはしないかと思ってみることもある。
物のことわりあるべきすべ、よろずおしえごとをしも、何の道くれの道といふことは、異国あだしくに沙汰さたなり。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
胸間常の人より長く、腰しまりて肉置ししおきたくましからず、尻はゆたかに、物ごし衣装つきよく、姿の位そなはり、心立こころだておとなしく、女に定まりし芸すぐれてよろずいやしからず
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
よろずの道にさし出で、人も許さぬ公儀才覚立てして差してもなき事をも事あり顔にもてなし
また食事の折々は暖かき料理をこしらえては妾にすすめるなどよろずに親切なりけるが、約二週間を経て中の島監獄へ送られしのちも国事犯者を以て遇せられ、その待遇長崎の厳酷げんこくなりし比に非ず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
嫜の方の朝夕ちょうせきの見舞をかくべからず。嫜の方のつとむべきわざおこたるべからず。若し嫜のおおせあらばつつしみおこなひてそむくべからず。よろずのこと舅姑に問ふて其教にまかすべし。嫜若し我をにくみそしりたまふともいかりうらむること勿れ。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
得、身も無事に還ってきたが、これはまったく奇蹟か天佑というほかはない。獲るところは少なく、危険は実に甚だしかった。この後、予に短所があれば、舌にきぬを着せず、よろず、諫めてもらいたい
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉野山 (大和やまと) よろず文反古ふみほうぐ、歿後三年刊行
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あたかも仏教に梵教の諸天を入れたごとく、キリスト教に欧州在来の諸神を尊者化して入れたので、ついに年中尊者の忌日を絶やさず、よろずの事物に守護の尊者を欠くなきに至った。
ふすまえてあった。壁もあらたに塗ったばかりであった。よろず居心よく整っていた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)