もた)” の例文
そのなかには独逸ドイツの古典的な曲目もあったが、これまで噂ばかりで稀にしか聴けなかった多くの仏蘭西系統の作品がもたらされていた。
器楽的幻覚 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
けれども決してそれが何の結果をももたらさなかつたのではありません。かう云ふ結果がありました。かういふことも。かういふことも
碧梧桐君と余とが毎朝代り合って山手のいちご畑に苺を摘みに行ってそれを病床にもたらすことなども欠くべからざる日課の一つであった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
したがって百代子の年寄二人からもたらした返事もここに述べるのは蛇足だそくに過ぎない。要するに僕は千代子の捕虜になったのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
発見後せいぜい十八ヶ月の今日、既にこれがアメリカの発見そのものよりも遙かに大規模な結果をもたらすだろうことを思わせる。
いやところが、この意外にも奇妙な決定を裏書する報告が、それから二時間程後にH駅所属の線路工手に依ってもたらされました。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
何と云ふ妙な幸福を父の死がもたらした事であらう! 私はもう偉大なるものゝの影が伝ふる感動の中に、心から酔ひ浸つてゐたのだ。……
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
その次の日、小さな紙人形を写生してしまふた頃丁度午後の三時頃であつたらう、隣のうちの電話は一つの快報をもたらして来た。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
我見しに、諸〻の聖なる心(かの高き處をわけて飛ばんために造られし)のもたらす大いなる悦びかの顏に降注ふりそゝぎたり 八八—九〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
諸君は軽率に真理を疑っていいのであろうか? なぜならば、それは諸君の生涯に様々な不運をもたらすに相違ないからである。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
まるで阿片アヘン中毒者のように、それがどんな結果をもたらそうと、知ったことではなかったのだ。ただ、それに溺れ切れれば幸福であったのだ。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あの雑器と呼ばれる器の背後には、長き年月と多くの汗と、限りなき繰返しとがもたらす技術の完成があり、自由の獲得がある。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
これは昔加藤清正が朝鮮征伐の時同国からその種子をもたらしたもので、それがその後安芸の国広島の城地に野生の姿で生えていたそうだが
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
孫兵次のもたらしたことは重大な情報といわなければならない。諸将は聞き耳たてた。秀吉の眼も急にらんとして輝きをおびた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしソロモン王が外国から致した商品中に猴ありて、三年に一度タルシシュの船が金銀、象牙ぞうげ、猴、孔雀くじゃくもたらすと見ゆ。
っており、ある時にはある特定物の効用を言い表わし、またある時にはその物の所有がもたらす所の他の財貨を購買する力を
雲はけ、草はしぼみ、水はれ、人はあえぐ時、一座の劇は宛然さながら褥熱じょくねつに対する氷の如く、十万の市民に、一ざい、清涼の気をもたらして剰余あまりあつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これら二つの真理の第一が他の幾何学上の真理と同じく建築の骨組に、石材の切り方に、家屋の建設に、貴い結果をもたらすことも可能である。
異性の双方において活躍していた媚態の自己消滅によってもたらされた「倦怠、絶望、嫌悪」の情を意味しているに相違ない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
其れを言葉にして云へば自身だけの謙遜になる。反語でなしに作者は云はうとした動機と、もたらす結果の相違を初めから予期して居た歌である。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
然るにその運動のもたらした結果はと云ふと反つて女子を孤立せしめ、女性にエツセンシヤルである幸福の泉を彼女から奪つてしまつたのである。
婦人解放の悲劇 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
これが為に若し今後の芸術上の作品に真に信実な感情の光と曾て見なかつた新らしい思想の芽生とをもたらす事が出来たら
わが敬愛する人々に (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私は早くから日夕其姿に接して、強く脳底に焼き付けられた此等の印象をもたらして、秩父の山や谷に分け入ったのである。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
お豊を探すべく八方に飛んだ人がまだなんとも報告をもたらさないうちに、またしても人を驚かす報告が一つ持ちきたされた。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三人はなお語った。話は遂に一小段落を告げた。田中は今夜親友に相談して、明日か明後日までに確乎かっこたる返事をもたらそうと言って、一先ひとまず帰った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
もし富士山の位置を、北アルプスに移し換えて、その痩削そうさく的の山容を改めたらば、あるいはどういう雪の結果をもたらしたか、あらかじめ知り難いのである。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
……諏訪ノ原が落ちたのは八月二十三日で、その知らせが浜松へ着くと間もなく、戦場から戻った荷駄が、兵たちの音信を留守城の家族にもたらした。
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
唐津藩にもたらし賜はらば藩公の御喜びあるべく、此文のいつはりならざる旨も亦明らかなるべしと思ひはかりてなせし事なり。歌のつたなきを笑ひ給ふ事なかれ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのうへ、彼女が愉快らしく振舞へば振舞ふだけますます沈黙に落ちてゆく真弓の今晩の様子が、光代には一種の征服感に似た気持をもたらすのであつた。
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
一つ宿に寝、同じ月を浴び、市から市をてくり廻っているうち、二十年の歳月がめっきり老をもたらしてしまった。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
少なくも探偵小説が、従来の小説の概念に革命をもたらしつつあるということを私たちは注意しなければならぬ。
とつぎ行く処女おとめよ。お前の喜びの涙に祝福あれ。この月桂樹は僧正によって祭壇から特にお前にもたらされたものだ。僧正の好意と共に受けおさめるがいい」
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
蕗屋の下宿の家宅捜索の結果は、何物をももたらさなかったのだ。併し、兇器のことをいえば、斎藤とても同じではないか。では一体誰れを疑ったらいいのだ。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
してかれは一くわだてたことその目的もくてきたつするまではまぬひとであるから、大佐たいさふたゝ此世このよあらはれてときにはかなら絶大ぜつだい功績こうせきもたらしてことうたがひもない
折角出難でがたいチベットから出て来て世界に紹介すべき大功の事を冥土めいどもたらしたからといって何の益があるか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
折節十月三十日頃なりしかと覚ゆ、の有名なる報効義会員二人にて、剛力をともない、郡司氏ぐんじしの厚意をもたらし来訪せられし時の如き、前日は風力猛烈なりしため
かような事実を知っておくことが、古典研究の上にどんな効果をもたらすかということを、もう時間が参りましたけれども、少しばかり述べてみたいと思います。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
うぐいす時鳥ほととぎすの卵を育てゝえすというが、その事は彼等の世界には、何等の悲劇ももたらさないのだろうか。
彼のもたらす首尾についての集りではなかったのか。むしろその態度には、彼の帰着なぞは歯牙しがにもかけぬ無関心さが読みとれた。並んだ背中がそれを語っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
かえって説く、米国総領事タオンセント・ハリスは、神奈川条約の明文に従い、米国大統領の国書をもたらし、和親貿易条約のためその全権使節として日本に来れり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
これを読みながら不幸を私にもたらしたのは聖者が美しい富士と肉体的にも融け合って、天地はただ白い質のしねしねした立方体だけに感じられたというところだった。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
獄舎の鉄窓てっそうをもれる月光のもとに、絞首台の幻影をきわけながらペンを走らす犯罪日誌は、本人にとっていささかの悦びをももたらさないであろう。然るに自分はどうだ。
鼻に基く殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
が、文名のもたらし来る収入はというといくばくもなかったので、感嘆も満足もただの一時いっときであった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかしこの報酬の手間どることは、必然的に、この人民の風習に重大な変化をもたらしたのである。
自意識過剰かじょうで、あんな君、逃避的とうひてきな態度ばかりっていたら、力ある文化の芽は新鮮な若葉をももたらさず、来るべき新時代の雄渾ゆうこんな精神の輝やかしき象徴たり得ずして
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
引き続いて幾個いくつかの早打が、千代田の門を潜ったが、そのもたらせた報知というはいずれも正雪の自殺したことで、それに関しては最早一点の疑いの余地さえ存しなかった。
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
愕然としてゐる新撰組にとつて、続いて、第二、第三の警報が町役人の手に依つてもたらされた。
文士の前にある戦塲は、一局部の原野にあらず、広大なる原野なり、彼は事業をもたらし帰らんとして戦塲に赴かず、必死を期し、原頭の露となるを覚悟して家をいづるなり。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
時あって是よりニライをおとずれたという語が、後世にもくり返されていたごとく、セヂがニルヤの使者によって、人界にもたらされるという信仰は、なお久しい間続いていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼旗をてっし、此望台をこぼち、今自然もうれうる秋暮の物悲しきが上に憂愁不安の気雲の如くおおうて居る斯千歳村に、雲霽れてうら/\と日のひかりす復活の春をもたらすを得ば
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)