そこも燐や、硫黄や、塩酸加里などの影響を受けて、すべてが色褪せ、机の板は、もく目ともく目の間が腐蝕し、灰色に黝ずんでいた。
波のあいだになにやら黝いものが見えますゆえ、なんであろうと舷を寄せ、仔細にこれを眺めますれば、それは生れたばかりの鯨の子。
キラキラ光る無数の水泡が、音符のように立ち上っていって、濃碧のどこかに動いている紅い映えが、しだいに薄れ黝ずんでゆく。
……やがて、その生垣の路が、一軒の釣具屋の灯に切られ、橋を渡ると、夜目にも黝く小高い丘が、山鹿の別荘のあるという松林である。
下宿の窓のすぐ下には、黝い青木の葉が、埃を被って重なり合っていた。乾いたことのない地面からは、土の匂いが鼻に通った。