麹町こうじまち)” の例文
ユウ子ちゃんは、すぐにその紙をもって、電車に乗って麹町こうじまちの明智たんていじむしょをたずね、小林しょうねんにそうだんしました。
赤いカブトムシ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さて是から文七とお久を夫婦に致し、主人が暖簾を分けて、麹町こうじまち六丁目へ文七元結の店を開いたというお芽出度めでたいお話でございます。
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
麹町こうじまちの番町に住んでいる、或る船の機関長の家庭うちもらわれて来てから一年ばかり経つと、何となく、あたりまえの児と違って来た。
人の顔 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは私の叔父の家で、その当時、麹町こうじまちの一番町に住んでいたが、叔父は秋のはじめからのわずらいで、歳末三十日の夜に世を去った。
正月の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
兵庫の家は麹町こうじまち五番町にあり、実の母親と、くみという妻と、千之助という男の子がいた。叔父はそのくみという妻を嫌っていた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大沼次右衛門は西丸御広敷添番衆を勤め高百俵を給せられ麹町こうじまち三丁目に住した。但しその遺稿を見るに五番町に住していたこともある。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
麹町こうじまちからあれを千駄木まで引いてくるのに、手間が五円ほどかかったなどと言う。あの植木屋はだいぶ金持ちらしいなどとも言う。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尤も、荘田夫人は普通の奥さん方とは違いますから、突然尋ねて行かれても、屹度きっとってれるでしょう。御宅は、麹町こうじまちの五番町です。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
『晩に、麹町こうじまちから吉田忠左衛門殿、林町の毛利小平太、ほかに堀部、杉野などが、寄ることになっているが、ちょっと、顔が出せるか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが町角へ消えてから小半刻こはんときもたったか。麹町こうじまち三番町、百五十石小普請こぶしん入りの旗本土屋多門つちやたもん方の表門を、ドンドンと乱打する者がある。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
麹町こうじまちの宅に着くや、父は一室ひとまに僕をんで、『早速さっそくだがお前とく相談したいことが有るのだ。お前これから法律を学ぶ気はないかね。』
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
麹町こうじまちの吉本さんの家で、例の応接間の大きなテエブルの前で、捨吉は自分の前に腰掛けながら話す四つか五つばかりも年長としうえな青木を見た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今更おつつみなさる必要は無からう、と私は思ふ。いや、つい私は申上げんでをつたが、東京の麹町こうじまちの者で、はざま貫一と申して、弁護士です。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そしてその原稿を抱いて、朝はや麹町こうじまちの方にいるある仲介者の家を訪ねたのは、町にすっかり春の装いが出来たころであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この計画は後に変更され、麹町こうじまちの屋敷はたしか百坪ぐらいだったと思うが、しかしその後にも、大きい住宅に対する嫌悪の感情は続いていた。
藤村の個性 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
一例としては、或時あるとき麹町こうじまちの曲淵の本邸の庭にのぞんだ座敷に、甲子の友達が集っているところを、何も知らずに澤が通りかかった事があった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私の母は、やがて麹町こうじまち三番町さんばんちょうの実弟、坪内つぼうち家の邸内に移ることになった。私はそこで、十五歳まで、母とともに生活した。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
麹町こうじまち有楽町ゆうらくちょうの保険協会の地下室の楽堂で、大正九年に開催したのがはじめで、震災の年まで三回つづいた。私は文壇の人におもにおいでを願った。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
麹町こうじまち九段——中坂なかざかは、武蔵鐙むさしあぶみ江戸砂子えどすなご惣鹿子そうかのこ等によれば、いや、そんな事はどうでもいい。このあたりこそ、明治時代文芸発程の名地である。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「進ちゃん、けさのみやこ新聞、読んだ?」と姉さんは言う。なんの事やら、わからない。麹町こうじまちでは都新聞をとっていない。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
夜は深々しんしんと更けて、麹町こうじまち六番町のウイラード・シムソンのやしきのあたりは、まるで山奥のように静まり返っています。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
で、浜松にいた頃取っておいた新聞の切抜きを出して、英語は神田の正則せいそくに、数学は研数けんすう学館に、漢文は麹町こうじまち二松学舎にしょうがくしゃにといった風に学校を選んだ。
麹町こうじまちのあらゆる大邸宅が嘘のように消え失せて余燼よじんをたてており、上品な父と娘がたった一つの赤皮のトランクをはさんで濠端の緑草の上に坐っている。
堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「だって、葬式道具の受取にゃ、久世大和守家中としてあるじゃござんせんか! 久世の屋敷なら麹町こうじまちですぜ!」
深川ふかがわ、浅草、日本橋にほんばし京橋きょうばしの全部と、麹町こうじまち、神田、下谷したやのほとんど全部、本郷ほんごう小石川こいしかわ赤坂あかさかしばの一部分(つまり東京の商工業区域のほとんどすっかり)
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
僕はり革につかまったまま、夕明りの中に電燈をともした麹町こうじまちの家々を眺め、今更のように「人さまざま」と云う言葉を思い出さずにはいられなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
内のお嬢さんは麹町こうじまちの高等女学校へ通って居らしって、英語は勿論佛蘭西フランス語もお出来になるし、外国の文学だの音楽だのをたしなんで居らっしゃるようだから
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
時雄は種々いろいろに煩悶した後、細君の姉の家——軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処そこから麹町こうじまちの某女塾じょじゅくに通学させることにした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
南は芝、西は麹町こうじまち、東は霊岸島、北は神田。百六十余町から出す山車、山鉾が四十六。ほかに、附祭つけまつりといって、踊屋台、練物ねりもの曳物ひきもの数さえつばらに知れぬほど。
その話のうちに、さっき馬吉少年の急を告げた報告が、交番から麹町こうじまち署へ、麹町署から警視庁へと伝達され、十数名の警官が時を移さず駆けつけてくれました。
九つの鍵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
□松井静代さんはこの程から麹町こうじまち三番町の萬源と云ふお料理屋の帳場におすはりになりました。伯父さまのお家だそうです。二月号には何かおかき下さる筈です。
父は玄喜げんき、子は玄悦げんえつで、麹町こうじまち三軒家さんげんやの同じ家に住んでいた。照は玄喜のむすめで、玄悦の妹ではあるまいか。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あたしの本当の亭主じゃなくて、その前にちょっと世話になっていた麹町こうじまちの殿様半次という男なのよ。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ともかくも、私は生れるとすぐ堀の跡とりにさせられた。その頃、堀の家は麹町こうじまち平河町にあった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
自分が十九歳の夏休みに父に伴われて上京し麹町こうじまちの宿屋に二月ばかり泊っていた時の事である。
やもり物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
麹町こうじまち四丁目千馬ちば三郎兵衛の借宅に、間喜兵衛、同じく重次郎、新六なぞといっしょに同宿していた中田理平次が、夜逃げ同様に出奔しゅっぽんしたという知せが同志の間に伝わった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
お父さんは麹町こうじまち三番町の自宅の隣に、俊夫君のために小さい実験室を建ててやりました。
紅色ダイヤ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
一週間ばかり私が、伊香保いかほの温泉へいっている間に、六十くらいの下男げなん風の老爺ろうやが来て、麹町こうじまちのおやしきから来たものだが、若旦那わかだんな様が折り入ってお眼にかかりたいといっていられる。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
鶴見はこうして、東京麹町こうじまち隼町はやぶさちょうで生れたことになっている。府内は大小区に分けられていたかと思うが麹町隼町に変りはない。幕府でお鷹匠たかじょうを住まわせて置いた町だといわれている。
しかるに麹町こうじまち土手三番町、観世宗家の伯父にあたる、同姓信行の屋敷まで来た時、彼の労は酬いられた。嫡子銀之丞が家に伝わる、少納言の鼓を信州追分で、紛失したというのであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『アハハハ、何だか知らないが、兎に角われも/\といったような感じでぞろ/\出て来るよ。牛込の人達ばかりでなく、近くの麹町こうじまち辺からも、又遠く小石川や雑司ヶ谷ぞうしがやあたりからもね。』
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
これは『麹町こうじまち火事』と称した大火で、麹町から愛宕下まで焼けたのである。そこで上屋敷にいた者も一時は君侯はじめ中屋敷の方に住まって、私の家へも親類の丹波などというのが来ていた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
銀座の方へ廻ると言って電車に乗った芳本と別れて、耕吉は風呂敷包を右に左に持替えて、麹町こうじまちの通りを四谷見附まで歩いた。秋晴の好天気で、街にはもう御大典の装飾ができかかっていた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
「僕のところは麹町こうじまち三丁目三番地だ。明日あした出せば元日に着く」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
麹町こうじまち三年町の伊太利大使館へ行ってみた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
麹町こうじまち永田町、逓信次官官邸。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
名探偵明智小五郎の事務所は、一年ほどまえから千代田ちよだ区にあたらしくたった麹町こうじまちアパートという高級アパートに、移っていました。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
湖山は星巌の帰国した後芝山内の或学寮に寄寓していたのであるがあたかもこの八月中に麹町こうじまち平川天神の祠畔しはんに家を借りて移り住んだ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
元園町もとぞのちょうに接近した麹町こうじまち三丁目に、杵屋きねや路久ろくという長唄の師匠が住んでいた。その娘のお花さんというのが評判の美人であった。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
捨吉の上京を促した吉本さんは名高い雑誌の主筆で、同時に高輪の浅見先生の先の奥さんが基礎をのこした麹町こうじまちの方の学校をも経営していた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)