かささぎ)” の例文
肥後守は侘助椿のほかにも、肩の羽の真つ白なかささぎや、虎の毛皮や、いろんな珍しい物をあちらから持ち帰つたやうにうはさせられてゐる。
侘助椿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
白楊ポプラは、梢に、狼の頭のように突っ立ったかささぎの古巣をつけ、空にかかっている雲、蜘蛛くもの巣よりも細い雲を、掃いているかのよう。
燈に丁字頭ちょうじがしらが立つと銭を儲けるとて拝し、かささぎさわげば行人至るとて餌をやり、蜘蛛が集まれば百事よろこぶとてこれを放つ、ずいは宝なり、信なり。
次第に山に近く、右は切っ立ての岩壁に、直下のアルヴ Arve の渓も深く、タンネの林にかささぎの飛ぶのも山らしい。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
白砂だから濡れても白い。……かささぎの橋とも、白瑪瑙しろめのうの欄干とも、風のすさまじく、真水と潮の戦う中に、夢見たような、——これは可恐おそろしい誘惑でした。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鳩は、かささぎの巣を借りて、いつのまにか鵲を追って巣を自分の物にしてしまう。亡父ちちの遺志を思い出して、袁兄弟も、後には鳩に化けないこともない。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愉快なかささぎのようにしゃべりながら、父の手に自分の手を重ねたり、父の腕にさわったりして、話してることをよく聞かせようとした。ジャンナン氏は黙っていた。
ヂューヂャは土地を貸したり、街道の小料理屋を経営したり、タールや蜂蜜から、家畜、かささぎまで商って、もう千八百ほど蓄め込んだ。それは町の銀行に預けてある。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
趣向嘘なれば趣も絲瓜も有之不申、蓋しそれはつまらぬ嘘なるからにつまらぬにて、上手な嘘は面白く候。例へば「かささぎのわたせる橋におく霜の白きを見れば夜ぞ更けにける」
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
烏やかささぎが下りて来ると、彼等は身をちぢめて後脚あとあしで地上に強く弾みを掛け、ポンと一つ跳ね上る有様は、さながら一団の雪が舞い上ったようで、烏や鵲はびっくりして逃げ出す。
兎と猫 (新字新仮名) / 魯迅(著)
支那の『墨子ぼくし』という本にも、公輸という発明家が、竹で作ったかささぎを墨子に示して、この玩具おもちゃは空へ放つと三日も飛びまわります、と自慢したところが、墨子は、にがい顔をして
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これは七宝に山鵲さんじゃくの飛んでいる図であった(山鵲という鳥はちょっとかささぎに似て、羽毛に文系があり、白冠で、赤いくちばし、尾が白くて長い。渡り鳥の一種で、姿の上品な趣のある鳥です)
乾いた手拭で身体をふきながら、彼は、すぐ眼の前の、梨の木の枝に、かささぎが一羽止って、こちらを見ているのに気がついた。嘴の黒い、胸の白い、両翼の紫色をした朝鮮がらすであった。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
今朝けさかささぎが鳴いたと思いましたら、お父さまのお出ましがありました」
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その菜園には処々に林檎その他の果樹が植えてあって、それにはかささぎや雀を防ぐための網がかぶせてあるが、殊に雀は、雲でも垂れさがって来るような大群をなして、あちらこちらへ渡り移っていた。
冬楡ふゆにれのしみみかぐろきほづえにはかささぎらしき巣もあらはなり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しら樺の折木をれきを秋の雨うてば山どよみしてかささぎ鳴くも
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さうしてかささぎのやうな黒と白との帽子の下から
ジャム、君の家は (旧字旧仮名) / シャルル・ゲラン(著)
かささぎまれに飛ぶのみ大夏野
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
肥後守は佗助椿のほかにも、肩の羽の真白なかささぎや、虎の毛皮や、いろんな珍らしい物をあちらから持帰つたやうに噂せられてゐる。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
そう言えば、かささぎは、弾機ばね仕掛けのような飛び方をして逃げて行く。七面鳥は生垣のなかに隠れ、初々ういういしい仔馬こうまかしわ木蔭こかげに身を寄せる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いかにも日本古来虎豹なく、羊は後世入ったが、今に多く殖えず、かささぎは両肥両筑に多いと聞けど昔もそうだったか知らぬ。
と思出したことがあって、三造は並木のこずえ——松の裏を高く仰いで見た。かささぎの尾の、しだり尾のなびきはせずや。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして時々、彼は例の四川弓しせんきゅうを持って、かささぎ雉子きじに出かけた。また谷へおりては、川魚や川苔かわのりを採って帰った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
趣向嘘なれば趣も糸瓜へちま有之不申これありもうさず、けだしそれはつまらぬ嘘なるからにつまらぬにて、上手な嘘は面白く候。例へば「かささぎのわたせる橋におく霜の白きを見れば夜ぞけにける」
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
翼の折れた一羽のかささぎが、ぴょこぴょこ人道を飛び歩いて、門番小屋のほうから彼のところへやって来た。そして店の入り口の階段のいちばん上に立ち止まって、古靴屋をながめた。
茶膳房雪ちらつけばかささぎの声うちみだり松にるかに
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鳥の中でも、かささぎとか、かけすとか、つぐみとか、まちょうとか、腕に覚えのある猟師なら相手にしない鳥がある。わたしは腕に覚えがある。
髪はかささぎの尾のごときもののね出でたる都髷みやこまげというに結びて、歯を染めしが、ものいう時、上下うえしたの歯ぐき白く見ゆる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湯殿口のわきに、かけひの水がとうとうと溢れている。かささぎのように行儀わるく辺りへ水を跳ね散らしながら、そこでごしごしと顔を洗っている者が官兵衛であった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
趣向嘘なれば趣も糸瓜へちま有之不申これありもうさず、けだしそれはつまらぬ嘘なるからにつまらぬにて、上手な嘘は面白く候。例えば「かささぎのわたせる橋におく霜の白きを見れば夜ぞ更けにける」
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
鼻は太く、歯並みやいやしく、清楚せいそなところが少なく、ただ眼だけは生き生きとしてかなり敏捷びんしょうで、また仇気あどけない微笑をもっていた。彼女はかささぎのようによくしゃべった。彼も快活に答えをした。
かささぎの声行き向ふ北のはれ北陵ほくりようの空に雲ぞ明れる
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ルピック夫人は、これはまた、食事の時以外はかささぎよりもおしゃべりなのだが、食卓につくと、手真似てまねと顔つきでものをいいつけるのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
門外おもての道は、弓形ゆみなり一条ひとすじ、ほのぼのと白く、比企ひきやつやまから由井ゆいはま磯際いそぎわまで、ななめかささぎの橋を渡したようなり
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鳥の中でも、かささぎとか、樫鳥かけすとか、くろつぐみとか、鶫とか、腕に覚えのある猟師なら相手にしない鳥がある。私は腕に覚えがある。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
(栗の林へかささぎの橋がかかりました。お月様はあれを渡って出なさいます。いまに峰を離れますとね、谷の雲が晃々きらきらと、銀のような波になって、兎の飛ぶのが見えますよ。)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かささぎは、それでも、弾機ばね仕掛けのような飛び方をして逃げて行く。七面鳥は生籬いけがきの中に隠れている。そして、弱々しい仔馬こうまが、柏の木蔭に身を寄せている。
かささぎの橋をすべって銀河あまのがわを渡ったと思った、それからというものは、夜にってこの伊勢路へかかるのが、何か、雲の上の国へでも入るようだったもの、どうして、あの人形に
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と銀河を仰ぎ、佩剣はいけんの秋蕭殺しょうさつとして、かささぎのごとく黒く行く。橋冷やかに、水が白い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生豌豆なまえんどうを一つほうるように、気紛きまぐれにぽいといていたつぐみ、ペンキ塗りののどから、やたらにごろごろという声をしぼり出すところを、にんじんもさっきから見ていた山鳩、それから例のかささぎの尾の
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
しかし、恰好かっこうをいったら、烏が宿ったのと、かささぎの渡したのと、まるで似ていないのはいうまでもない。またまことの月と、年紀としのころを較べたら、そう、千年も二千年も三千年もわかかろう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かささぎLa Pie
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
往年いんぬるとし、雨上りの朝、ちょうどこのあたり通掛とおりかかった時、松のしずくに濡色見せた、紺青こんじょうの尾をゆたかに、の間の蒼空あおぞらくぐり潜り、かささぎが急ぎもせず、翼で真白まっしろな雲を泳いで、すいとし、すいと伸して
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)