ため)” の例文
旧字:
「まだためしてみないので、それは何とも申し上げられません。」と船長は言った。「結構な船のようです。それ以上は言えません。」
すると、二本の腕が静にそっと、まるで参木の力をためすがように、後から彼の脇腹へ廻って来た。彼の身体は欄干の上へ浮き上った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
うずうずと、われとわが身を危地にさらして、も一度おのれの何ものであるかを、ぎりぎりの所でためしてみたい欲望に燃えたのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
金儲けと同時に、玉井金五郎という男をためす、少からぬ好奇心もあった。そうして、あの、公会堂裏の道化芝居になったのである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
広く世間を見た人である。主人は一面剛毅な人で、一面又温和な人であつたから、随分種々の女をも愛した。国々の女を一々ためしてゐる。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
これは一遍自分がためしてみると分ります。シャツでも三円のシャツを買って暖かいと思っても、今度十円のやつを買うとまたそれだけよい。
「いや、どうも失礼しました。これからお願いする仕事に関して、あらかじめ貴女の処女性反撥力しょじょせいはんぱつりょくといったようなものをためしておきたかったのです」
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで商人の娘に逢ひたく思ふのは、こゝで又奇蹟の力をためして、今一度名誉を博する機会を得ようと思ふのである。
ふたつながら予その場に臨んでためしたが波風が呼声を聞いて停止するでなく、人が風波のやむまで呼び続けるのだった。
第一大分古い物だ。木肌にあぶらが沁み込んで鼈甲べっこうのように光っている。俺は来る道々ためして見たが、百発百中はずれた事がない。嘘だと思うなら見るがよい
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
五百が鍛冶橋内かじばしうちの上屋敷へ連れられて行くと、外の家と同じような考試に逢った。それは手跡、和歌、音曲おんぎょくたしなみためされるのである。試官は老女である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
集めた土を分析ぶんせきしたり、また火にかけたりしてためすことに、ほとんど寝食を忘れるくらいの熱心でありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
親の、人の、友だちの目を借りて、尾のない鱗のない私の身がためしたい。遣って下さい。故郷くにへ帰して下さい。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「場所のせゐぢやないかしら?」などゝ竹下は云つたが私には、おそらくそんなためしはない。そんな見境ひがなさ過ぎて屡々酷い失敗を繰り返した私である。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「チョーセイ、チョーセイの手のうちをためしてみよ。目録十名の使い手にとりまかれて、赤子のようにねじふせる手のうちであるから、その方も油断いたすな」
つまり母や私の返事にあらはれる心の波立ちをためさうとするのであるが、それらの呼掛けには贋ひ物ならぬ人懐こさが溢れてゐた。それは天才の仕業に近かつた。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
よこすようになるよ。それは現金なもので、これまでもたびたびためされたことなんだから
人間のあらゆる智慧をふりしぼって、破壊の為の武器が作られその効果がためされた。
新世界の富 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
禁厭同様の積りでためしに雪の処を仮に離縁として、禁厭に遣って御覧なさいませんか
『胸算用』には日蝕で暦をためすこと、油の凍結を防ぐ法など、『桜陰比事』には地下水脈験出法、血液検査に関する記事、脈搏で罪人を検出する法、烏賊墨いかずみの証文、橙汁だいだいじるのあぶり出しなどがある。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それはブロッケンの趣向に、随分ためしていのも6970
「今晩ためしてみたら判りますよ」
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ここでためものになるべき犬に対しても、多少の同情を持ったものがこのなかに無いとは申されません。しかし、集まっているものはみな武士さむらいでありました。
大尉は、私をためしているのだ。大尉は、私から、モール博士のことを、もっといろいろ知りたいのであろう。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
周子に限らず彼が怒つてその威厳の通つたためしは一度もなかつたが、この時は一層周子は平気だつた。
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
浮浪人はそのひっこんだ戸口へのそりのそりと入り込んで戸の鏡板でマッチを擦り、子供たちは踏段の上で店を張って遊び、学校の生徒は繰形くりがたでナイフの切味をためしたりした。
「お前をちょっとためしたところよ。おい、風呂敷ふろしきを解いてくんな、あつらえ物を見てえからの」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時の感じは、好い気味だと思って見たいと云う、自分で自分をためして見るような感じである。この頃は夜も吹抜亭ふきぬきていへ、円朝の話や、駒之助こまのすけ義太夫ぎだゆうを聞きに行くことがある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
大海蒼溟そうめいやかたを造る、跋難佗ばつなんだ竜王、娑伽羅しゃがら竜王、摩那斯まなし竜王。竜神、竜女も、色には迷うためし候。外海小湖に泥土の鬼畜、怯弱きょうじゃくの微輩。馬蛤まての穴へ落ちたりとも、空をけるは、まだ自在。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし全くの虚譚でもないらしく思わるるは予闇室に猫を閉じめて毎度ためすと、こちらの見ようと、またあちらの向きようで一目強く光を放ち、他の目はなきがごとく暗い事がしばしばあった。
おお勢いますから、ためして御覧なさいな。7760
道夫がどの位勉強したかをためすのは、あたしが道夫以上に、何でも覚えてなくちゃいけないんだわ、一人子ひとりっこの母親って、誰でもこんなにやきもきするものかしら。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
斯んな風であつたから、泊り客などが多くて屡々彼女と二人りの部屋にやすむやうなこともあつたが彼は、全く、意を用ひては手を触れ合つたためしもないのである。
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「そうじゃ、近いうちおのおの方はじめ有志のお方に、躑躅ヶ崎の拙者屋敷へお集まりを願おう、その庭前にわさきにおいて右の犬をためさせて御覧に入れたい、これも一つの学問じゃ」
さあ捕らえるなら捕らえてごらん、わたし倶係震卦教ぐけいしんけきょうの道士、先刻までは自信がなかったが、遠観術をためして見て、それが当たったたった今、すっかり自信を持つことが出来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一家秘法の銀流ぎんながし、はい、やい、お立合のお方は御遠慮なく、お持合せのお煙管なり、おかんざしなり、これへ出しておためしなさいまし、目の前で銀にしておなぐさみに見せましょう、御遠慮には及びません。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ためすために、すぐその尊い場所を見せてくれ。
私は難なく忘れて口にしたためしもなかったのに、ツマラヌ連想から不意とその時、人の名前というほどの意味もなく、その文字面を思い浮べたらしかったのである。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
まだ唖者おしかな、石仏いしぼとけかな、無言の行者でござんすかな! では止むを得ぬ、俺の口から、今夜の企て話してやろう! 実はな、お前の天文の才、どのくらいあるかためして見よう
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかも値段のやすいこと世界一。さあいらっしゃい。早くいらっしゃっておためしなさい
絶えず熊と角力すもうをとって戯れていたということだから、子熊ではあっても、熊というやつがどのくらいの力を持っているものだか、自分の手でひとつためしてみてやりたいと思うのは山々だが
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
老爺ぢいは、さすがに、まだ気丈きじやうで、対手あひてまでに、口汚くちぎたなののしあざける、新弟子しんでしさく如何いかなるかを、はじめて目前まのあたりためすらしく、よこつてじつて、よわつたとひそかたで、少時しばらくものもはなんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから今度は空中線を受信機の方へ切り換え、それから五分も十分も耳をまして何処からか応答があるだろうと聴いているのですが、いつぞや返事のあったためしがありません。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、生皮剥なまかわはぎの薄刃物の刃を、てのひらにあててためしながら、当惑したように医師は云った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
僕らが大酔のあまりかかる超現実性を帯びた亢奮状態をあらわしたのは、そのおよそ十年近き以前の一夜だけで、今日まで僕たちの間では平調をはずれた音声すら一言だって交されたためしもないのである。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
山手やまてから黒煙くろけぶりを揚げて、羽蟻はありのやうに渦巻いて来た、黒人くろんぼやり石突いしづきで、浜に倒れて、呻吟うめき悩む一人々々が、胴、腹、腰、背、コツ/\とつつかれて、生死いきしにためされながら、抵抗てむかいも成らずはだかにされて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
実地にためして御覧あってはいかがでござるな
「それではお前をためすつもりで、少し無理なことを云いつけようかしら」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
景色などにあまり心を奪はれたためしのない僕なのだが、吾家うちに帰つたつてあの騒ぎではたまらないし、まあ、もう暫く散歩でもして行かうか? などゝ思ひながら、ぶら/\と渚近くを歩いていると
センチメンタル・ドライヴ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
嘘だと思ったら、読者は御自分でためしてみられるがよろしかろう。