しづ)” の例文
旧字:
其処にある花は花片はなびらも花も、不運にも皆むしばんで居る。完全なものは一つもなかつた。それが少ししづまりかかつた彼の心を掻き乱した。
一旦しづまりかゝつた嘔気はきけは又激しく催して来た。お末が枕に顔を伏せて深い呼吸をして居るのを見ると、鶴吉は居ても立つても居られなかつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
独りで寂しい昼飯をすませた彼は、やうやく書斎へひきとると、何となく落着がない、不快な心もちをしづめる為に、久しぶりで水滸伝すゐこでんを開いて見た。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぢつとしてゐても動悸どうきがひどく感じられてしづめようとすると、ほ襲はれたやうに激しくなつて行くのであつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
新室にひむろしづ手玉ただまらすもたまごとりたるきみうちへとまをせ 〔巻十一・二三五二〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
決して殺すには及ばない。唯ほんの微傷かすりきずでも付けてくれればい。そうして、お前も喉を突く真似をしろ。そこへ誰かが飛び込んで取しづめるから案じることはない。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その中で、一番脊の高い木村きむら君が、みんなのしづまるのを待つて、突つ立つたまま、かう云ひました。
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
もうあらかた神経の方はしづまつたやうだが、人気ひとけのない医局に今夜寝かすのもどうかと思ふんだ。さうかと云つて、なほつたとも云へない者を普通に扱ふのも心配でね。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
頼母木、三木両派が握手して演説会場をしづまらせぬうちは、総理大臣を案内することはできません
春宵因縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
聴衆ききては声をたてて笑ひ出した。だが、音楽家がきゆうを取ると、すぐにしづまりかへつて耳をすました。
神業かむわざぞ雪祭、鬼の子の出でて遊ぶは、ひたぶるぞ雪の上の田楽でんがくしづみこそ四方よもに響くに、まことのみぞ神と遊ぶに、おもしろとこれをや聴く、をかしとよそをやららぐ。
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼は声をげてせまれり。されども父は他を顧て何等の答をも与へざりければ、再び声をしづめて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
奥方の心では二人の子を持戒堅固ぢかいけんご清僧せいそうに仕上げたならば、大昔おほむかしの願泉寺時代のたヽりが除かれやう、ぬまぬししづまるであらうと思つたので、開基かいきと同じ宗旨しうし真言寺しんごんでらと聞いて
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
さうして、かみさんを引つぱつてれて行つた。やつと事はしづまつた。私はどうしてよいか分らなかつた。しかし善作さんは私に対して何にも云はなかつた、かへつてやさしい調子で
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「それ王党だ。それ間牒まはしものだ。落人おちふどだ。捕へて仕舞へ。いや逐出して仕舞へ。」このさま/″\の声をしづめた、例のふちひつくりかへつた帽をかぶつて居る老先生の骨折は、大抵ではありませなんだ。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
燃えるやうな私の情を押ししづめるには冷かな理性の力が余りに微弱であつた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
川島先生が息をむ一瞬のあひだ身動きの音さへたゝずしづまつた中に、突然佐伯の激しいすゝきが起つた。と、他人ひとごとでも見聞きするやうにぽツんとしてゐた私の名が、霹靂へきれきの如くに呼ばれた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
この宏壮限りもなき活劇詩の主人公や誰。乃ち我等日本民族にあらずや。躍る心を推ししづめて今しばし五大洲上を見渡せ。無数の蠢々しゆんしゆんたる生物ありて我等の胸間より発する燦爛さんらんの光に仰ぎ入れるあらむ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
心をおししづめて問ひ返す。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
世界はひややかにしづまる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼女かれは心押ししづめつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼はどういふわけか時計の振子の動くのを見つづけながら、離魂病に就てのさまざまな文学的の記録や、或は犬のことなどを考へつづけて、心臓のしづまる時間を待つた。
ただうはべわづかあかみて天鵞絨びろうどの焦茶いろすれ、ふかぶかと黒くか青く、常久に古びしづもる。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
現在の自分の心の迷ひを今一度しづめてよく反省して見ないわけには行かなんだ。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
それから感情がしづまると、「これも皆お前が可愛かはいいからだ」といふやうな愚痴を、わたしはしきりと説いた。酔醒ゑひざめの風が冷いやうに、娘の心の離反に対する不安がわたしには冷かつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「君がに送り行かんに、づ心をしづめ玉へ。声をな人に聞かせ玉ひそ。こゝは往来なるに。」彼は物語するうちに、覚えず我肩に倚りしが、この時ふとかしらもたげ、又始てわれを見たるが如く
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
裂けもしぬべき無念の胸をやうやうしづめて、くるし笑顔ゑがほを作りてゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しばうなりをしづめよ。万軍の
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この朝明あさけしぐるる見れば、霧ふかく時雨るる見れば、うち霧らひ、霧立つ空にいや黒くそのうかび、いや重く下べしづもり、いや古く並び鎮もる、なべてこれ墨の絵の杉、見るからに寒しいつかし
この朝明あさけしぐるる見れば、霧ふかく時雨るる見れば、うち霧らひ、霧立つ空に、いや黒くそのうかび、いや重く下べしづもり、いや古く並び鎮もる、なべてこれ墨の絵の杉、見るからに寒しいつかし
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
羽ばたき頻りにしてしづもらぬかなや立つ波を北へかける鴨南へる鴨
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
めづらかに夕光ゆうかげしづむ不二ヶ嶺のおのづから保つ明日のよき凪
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
生くらくは鯉市にしもしかもなほ青淵のしづみ鯉たもちたり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
天の月川の瀬照らす更闌かうたけてここにしぞ思ふ四方のしづもり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
墨の香のながれてしづむ青若葉誰に書けとふ紙かのべたる
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
女男めをの峰ひとつ筑波の頂にうべしづもらすこの夜いみじく
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふかぶかと黒くか青く、常久に古びしづもる。
うづの、をを、うづの幣帛みてぐらの緒のしづもる
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しづまらせ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すゑしづ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)