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醗酵
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はっこう
ふりがな文庫
“
醗酵
(
はっこう
)” の例文
悪疾に侵されたかれの頭脳において、一人の罪は全般が背負うべきものという不当の論理が、ごく当然に
醗酵
(
はっこう
)
し生長したかもしれない。
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
一体この部屋は二人で寝てさえ狭苦しい上に、ナオミの肌や着物にこびりついている甘い香と汗の
匂
(
におい
)
とが、
醗酵
(
はっこう
)
したように
籠
(
こも
)
っている。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
プーンと
醗酵
(
はっこう
)
している
花梨
(
かりん
)
の
実
(
み
)
、
熟
(
う
)
れた
柿
(
かき
)
は岩のあいだに落ちて、あまい
酒
(
さけ
)
になっている。鳥も
吸
(
す
)
え、
栗鼠
(
りす
)
ものめ、
蜂
(
はち
)
もはこべと——。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
思いきり酸ぱく、しぶく、しかも度が強くて、のむと腹の中がじりじりと焼け、胃の中でまだ
醗酵
(
はっこう
)
をやめないのでさかんにおくびが出る。
山の秋
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
という『
続猿蓑
(
ぞくさるみの
)
』の句などもあって、またこの頃までは甘酒の
醗酵
(
はっこう
)
して酒になる日を、楽しみにして待っている人も多かった。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
▼ もっと見る
それは最初拵えたものへ少しずつ拵え足して行って段々古くなるほどよく
醗酵
(
はっこう
)
して来ると申しますからちょうど
鰻屋
(
うなぎや
)
のタレのようなものです。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
からだのなかが
醗酵
(
はっこう
)
したようになる。どうも気味がわるい。そこで林を出て、
鋳型
(
いがた
)
作りの職人たちが村へ帰って行く、その後ろを遠くからつける。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
彼はまた時勢の児なり、日本国に
醞醸
(
うんじょう
)
醗酵
(
はっこう
)
したる大気は、遂に彼が如き人物を生じて、彼が如き事業を行わしめたり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
こんな風にして罪悪というものが
醗酵
(
はっこう
)
するのではないかと思われるばかり、実に陰気で、物悲しい光景なのです。
モノグラム
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
これらの研究で腐敗とか
醗酵
(
はっこう
)
とかのはたらきがすべて微生物によって起されることが確かになったので、これは学問の上で大きな功績の一つであります。
ルイ・パストゥール
(新字新仮名)
/
石原純
(著)
その一つとして、「形の物理学」などは大分先生の頭の中で
醗酵
(
はっこう
)
して来ていたのではないかと思われるのである。
指導者としての寺田先生
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
彼女の心の中は不安な脅えがやや情緒的に
醗酵
(
はっこう
)
して寂しさの
微醺
(
ほろよい
)
のようなものになって、精神を活溌にしていた。
老妓抄
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
奴隷をもって甘んずるのみならず、争って奴隷たらんとするものに何らの理想が
脳裏
(
のうり
)
に
醗酵
(
はっこう
)
し得る道理があろう。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
粕谷
(
かすや
)
の夫妻は彼女を慰めて、葛城が此等の動揺は
当
(
まさ
)
に来る可き
醗酵
(
はっこう
)
で、少しも懸念す可きでないと
諭
(
さと
)
した。然しお
馨
(
けい
)
さんの渡米には、二念なく賛同した。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
そこは一面、
細茅
(
サベジニヨス
)
、といっても腕ほどもあるのが
疎生
(
そせい
)
していて、ところどころに
大蕨
(
フェート・ジガンデ
)
がぬっと拳をあげている。そして、下は腐敗と
醗酵
(
はっこう
)
のどろどろの沼土。
人外魔境:05 水棲人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
これももとは芋ねりの
醗酵
(
はっこう
)
したものを、そのまま使って大成功したことから考えついたというからおもしろい。
江戸前の釣り
(新字新仮名)
/
三遊亭金馬
(著)
ここまで来ると基経は二人を引きはなして見ることはできず、そして二人の妙な宿命的な感じは二人の若者に父親としての愛情をしだいに
醗酵
(
はっこう
)
させて行った。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
それと同時に房内の
一隅
(
いちぐう
)
の
排泄物
(
はいせつぶつ
)
が
醗酵
(
はっこう
)
しきって、
饐
(
す
)
えたような汗の
臭
(
にお
)
いにまじり合ってムッとした悪臭を放つ時など、太田は時折封筒を張る作業の手をとどめ
癩
(新字新仮名)
/
島木健作
(著)
瓶を横ざまに抱えて震動を与え、酒と水、両者の化合
醗酵
(
はっこう
)
を企てるなど、まことに失笑を禁じ得ない。
禁酒の心
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
たとえ、衝動は、外部からとしても、創造は、すべからく内部の
醗酵
(
はっこう
)
に待たなければならない。
時代・児童・作品
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
どう整理してよいか、まだ、そのわけが
分明
(
はっきり
)
としないものが
醗酵
(
はっこう
)
しかけてくるのだ。だから彼女は、うっとりとしたような、不機嫌のような、押だまったままでいるのだ。
田沢稲船
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
われわれロシヤ人はいっさいの活動から遠ざかって、仕事を忘れてしまってから、もうかれこれ二百年もたつんだからね……もっとも、思想は
醗酵
(
はっこう
)
しているかもしれません
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
司馬遷
(
しばせん
)
個人としては、父の
遺嘱
(
いしょく
)
による感激が学殖・観察眼・筆力の充実を伴ってようやく
渾然
(
こんぜん
)
たるものを生み出すべく
醗酵
(
はっこう
)
しかけてきていた。彼の仕事は実に気持よく進んだ。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
舞台のうえに
灼熱的
(
しゃくねつてき
)
な演技となって
醗酵
(
はっこう
)
するのであったが、銀子も大阪から帰りたての、明治座の沢正を見ており、腐っていたその劇場で見た
志賀
(
しが
)
の
家
(
や
)
淡海くらいのものかと思っていたので
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
鮓は、それの
醋
(
す
)
が
醗酵
(
はっこう
)
するまで、静かに冷却して、暗所に
慣
(
な
)
らさねばならないのである。寂寞たる夏の
白昼
(
まひる
)
。万象の死んでる
沈黙
(
しじま
)
の中で、暗い台所の一隅に、こうした鮓がならされているのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
いくら
旋毛曲
(
つむじまが
)
りの井口君でもそれに反対はないさ。しかしあの男は犯罪を専門に研究しているんだから、
頭脳
(
あたま
)
の中に石川五右衛門以来の知識が
醗酵
(
はっこう
)
している。彼奴ぐらい
巧者
(
こうしゃ
)
な泥棒はまず絶無の筈だ。
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
「それは
醗酵
(
はっこう
)
し易い麦飯を食って、運動が不足だからですよ。」
独房
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
雑詠の中には常に新しい句が
醗酵
(
はっこう
)
しつつある。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
元来、女に
飢
(
う
)
えていた
奔放
(
ほんぽう
)
な野獣武士の本能と
相俟
(
あいま
)
って、そこには想像外な性社会の
醗酵
(
はっこう
)
が都の夜の底をびらんさせていたのではあるまいか。
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
多分は食料摂取法の理学的影響、例えば暖かいものの食い方とか、
醗酵
(
はっこう
)
順序とかいうことに関係があるのであろう。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
彼女の心の中は不安な脅えがやや情緒的に
醗酵
(
はっこう
)
して寂しさの
微醺
(
ほろよい
)
のようなものになって、精神を活溌にしていた。
老妓抄
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
醗酵
(
はっこう
)
させる事の社会的危険を承知していた。天意には
叶
(
かな
)
うが、人の
掟
(
おきて
)
に
背
(
そむ
)
く恋は、その恋の主の死によって、始めて社会から認められるのが常であった。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
というのは、先方のからだを見ると、
疣
(
いぼ
)
がみんな
潰
(
つぶ
)
れて、
醗酵
(
はっこう
)
したようにぬらぬらしていた。そこで、私は——
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
なおパストゥールは、このような
醗酵
(
はっこう
)
がいつもある温度の範囲のなかでのみ起ることを示したので、実用の上に意外に大きな効果を挙げるようになったのでした。
ルイ・パストゥール
(新字新仮名)
/
石原純
(著)
研究の方も同様であって、三年間かの病床
及
(
および
)
療養の間に先生の頭の中で
醗酵
(
はっこう
)
した色々の創意が、
生
(
き
)
のままの姿でいくらでも
後
(
あと
)
から後からとわれわれの前に並べられた。
寺田先生の追憶:――大学卒業前後の思い出――
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
それが、うつらうつらと妄想の翼を拡げて居ります内に、いつの間にやら、その日頃私の頭に
醗酵
(
はっこう
)
して居りました、ある恐ろしい考えと、結びついて了ったのでございます。
人間椅子
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
主人が渋い顔をして居るので、丸髷の婦人は急いで風呂敷包の
土産物
(
みやげもの
)
を取出し
主人夫妻
(
しゅじんふさい
)
の前にならべた。葡萄液
一瓶
(
ひとびん
)
、「
醗酵
(
はっこう
)
しない真の
葡萄汁
(
ぶどうしる
)
です」と男が註を入れた。
杏
(
あんず
)
の缶詰が二個。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
則ちこの尊王思想は、
兼
(
かね
)
て
醗酵
(
はっこう
)
したる液体が
一度
(
ひとた
)
び外気に接して沸騰するが如く、嘉永、安政以来外交の刺激によりて、始めて天下の人心を
奔競
(
ほんきょう
)
顛倒
(
てんとう
)
せしむる活力ある警句となりしなり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
此の間、森の中で思い付いた例の物語、どうやら頭の中で大分
醗酵
(
はっこう
)
して来たようだ。題は、「ウルファヌアの高原林」とつけようかと思う。ウルは森。ファヌアは土地。美しいサモア語だ。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
ひどく酒の
醗酵
(
はっこう
)
する
香
(
におい
)
がすると思うと、そこは山役人の食料や調度の物を入れておく納屋らしく、裏の土間に、
咽
(
む
)
せるばかりな
酒樽
(
さかだる
)
が積んである。
鳴門秘帖:03 木曾の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ドワ 穀粉などの
醗酵
(
はっこう
)
して固まることを、出雲大原郡ではドワニナルという。標準語にはこれに該当するものがない。ママコというのはただ水にゆるめた場合だけの名のようである。
食料名彙
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
自然と内に
醗酵
(
はっこう
)
して
醸
(
かも
)
された礼式でないから取ってつけたようではなはだ見苦しい。
現代日本の開化
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
またこの実験に続いて、酒類を
醗酵
(
はっこう
)
させる働きがすべて微生物に依ること、しかもその際にも微生物にいろいろの種類があって、その働きのめいめいちがうことなどを明らかにしました。
ルイ・パストゥール
(新字新仮名)
/
石原純
(著)
もっとも、ほかの世間は、余りにも
紛
(
まぎ
)
れるものが多すぎた。
寛永
(
かんえい
)
元和
(
げんな
)
の戦国期にわかれを告げて六十年余、江戸の文化は、
芳醇
(
ほうじゅん
)
な
新酒
(
しんしゅ
)
のように
醗酵
(
はっこう
)
して来た。
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
神を
祀
(
まつ
)
るための酒だけは、なお若い
綺麗
(
きれい
)
な娘たちによく歯を清めさせ、米を
嚼
(
か
)
んでは器の中に吐き出させて、それを
蓋
(
ふた
)
しておいて
醗酵
(
はっこう
)
させたものが用いられており、カミザケという語も残っていた。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
と
蕩
(
とろ
)
けるほどな
年増
(
としま
)
の
肌目
(
きめ
)
を、怖ろしいほど見せつけて、これでもかこれでもかと
蠱惑
(
こわく
)
な匂いをむしむしと
醗酵
(
はっこう
)
させながら、精根の深い瞳の中へ年下の男のなめらかな悶えを
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、いう程度の考えは、もう少年孔明の胸に、人知れず
醗酵
(
はっこう
)
していたにちがいない。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
やがては、いま安土に
醗酵
(
はっこう
)
しつつある生気
溌剌
(
はつらつ
)
たる新文化が、東国をも
陸奥
(
みちのく
)
の果てをも、また北陸や中国九州までも、
満潮
(
みちしお
)
の
干潟
(
ひがた
)
を
浸
(
ひた
)
してゆくように、余すところなく
漲
(
みなぎ
)
ってゆくであろう。
新書太閤記:05 第五分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
醗
漢検準1級
部首:⾣
16画
酵
常用漢字
中学
部首:⾣
14画
“醗酵”で始まる語句
醗酵性
醗酵菌
醗酵素
醗酵分子