あわ)” の例文
言いわすれたのは、電車の中で自分が不用意にも下に落した脱脂綿をあわてて拾いあげるところを園部にみられた位のことだと言った。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
早々蚊帳に逃げ込むと、夜半に雨が降り出して、頭の上に漏つて來るので、あわてゝ床を移すなど、わびしい旅の第一夜であつた。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
早々そうそう蚊帳かやむと、夜半よなかに雨が降り出して、あたまの上にって来るので、あわてゝとこうつすなど、わびしい旅の第一夜であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そこへおともだちがておはなしをしてゐると、どこから這入はいつてたものか、また椽側えんがはた、わたしあわてゝ障子せうじ締切しめきつた。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
「先生、私どもはみんな腰掛からち上ります。そして一先づ廊下に出て、あわてないで順々に外へ逃げ出します。」
蕗屋は早速着物を着換えると、あわてて警察署へ出掛けた。それは彼が昨日財布を届けたのと同じ役所だ。何故財布を届けるのを管轄の違う警察にしなかったか。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
第三版トワジイム硬党新報アントラン夕刊巴里パリソワ」と触れ歩く夕刊売りの声も寒くあわただしく、かてて加えて真北に変った強風は、今や大束なみぞれさえ交えてにわかに吹きつのる様子。
方棟は蘭が好きで、園へいろいろの蘭を植えて日常ひごろ水をけていたが、目が見えなくなってからはそのままにしてあったので、その言葉を聞くとあわてて細君に言った。
瞳人語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小平太は天の与えとばかりに胸をおどらせた。が、あわてるところではないと、前後を見廻して、人目のないのを見定めながら、つとに身を寄せて、その隙間からのぞきこんだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
あわてゝ逃出すから、煙草盆を蹴散けちらかす、土瓶を踏毀ふみこわすものがあり、料理代を払ってく者は一人もありません、中に素早い者は料理番へ駈込んで鰆を三本かつぎ出す奴があります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此の時其の手が丁度怪美人の左の手に障った、読者が御存知の通り左の手は異様な飾りの附いた手袋で隠して居る、怪美人は少しあわてた様で急いで左の手を引きこめ右の手でたすけた
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
既にしかる以上、日本もまた、米国に備えるために、あわてて海軍を拡張するほどの必要もないであろう。ただその勢力の充実を図りて、戦闘に堪うる艦隊を造ればそれでよろしいであろう。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
そのたびにあわてて「いいえ違う、あの方ではない」と心にうち消すことが続いた。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
のちになぞとはヾそのうちにぼくけて、小刀ないふられるからいや、どうぞ是非ぜひいますぐかきれよ、かみふで姉樣ねえさまのをりてべし、と箒木はヽきてヽすに、づおまちなされとあわたヾしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あわたゞしくたゝき起し急用あればこゝあけ給へといふに吉五郎はけながら急用とは如何いかなることにやと申しければ佐兵衞はいきをきりながらいま名主樣なぬしさま玄關げんくわんにて御奉行樣の御調おしらべがあるゆゑ貴樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
新刊書の頁をあわてて切る可らず、と云うような甚だ穏やかな忠告から始まって、頁の上に煙草の灰を墜落せしむる可らず、寧ろ喫煙せざるにかず、煙を透して書を読むは第一、眼に毒なればなり。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
火事では大変だと思いあわてて道路に駈け降りますと、外は烈風に加うるに肉のりとられる様な寒さで、寝巻の上にどてらを羽織った男女が大勢道路の両側に立って居て、火事だ、火事だ、何処だ
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
と言いかくるを、主人あるじ左京はあわただしく眼と手とに一時に制止して
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
正行房があわてて
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
店の前まで来たときに、花川戸はなかわど鼻緒問屋はなおどんやの主人下田長造しもだちょうぞうあわてて駈けだす三男の素六を認めたので、イキナリ声をかけたのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
十時、汽車は隧道とんねるを出て、川を見下ろす高い崖上の停車場にとまつた。神居古潭かむゐこたんである。急に思立つて、手荷物諸共あわてゝ汽車を下りた。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
十時、汽車は隧道とんねるを出て、川を見下ろす高い崖上がいじょうの停車場にとまった。神居古潭かむいこたんである。急に思立って、手荷物諸共もろともあわてゝ汽車を下りた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
若し怪美人が真に古山お酉と云う下女で旨く令嬢姿に化けて居る者とすれば迚も此の言葉に敵する事は出来ぬ、顔を赤めるとかあわててマゴつくとかする筈だ、処が怪美人は少しもマゴつかぬ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ぬくより早くすで自害じがいすべき有樣なるにぞ忠八はあわ押止おしとゞめ御花樣には如何いかなれば御生害ごしやうがいを成れんとは仕給したまふや兄君の御成行なりゆきを御聞成れ御心にても亂れ給ひしかといへばお花は涙をとゞめ是程の大變を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
百姓が金を取りにうちへ帰らうとするのを、玄知はあわてて引きとめた。
そう云っていたとき、廊下の向うにあわただしい跫音あしおとが起り
彩虹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ああ池谷さんのところへ——なるほど」といったが、彼はあわただしく聞き足した。「あのウ、池谷さんには細君があるんでしょうネ」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼はあわてず騒がず悠々と芝生を歩んで、甕の傍に立つ。まず眼鏡めがねをとって、ドウダンの枝にのせる。次ぎにしたおびをとって、春モミジの枝にかける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
折角の赤筋入りたるズボンをあたらだいなしにして呆然ばうぜんとしたまひし此方には、くだん清人しんじんしき事しつと云ひ顔にあわてゝ床のうへなるものをさじもてすくひて皿にかへされたるなど
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
おみねと銀太が一緒に寝ているところに、思いがけなくあのピストルの音がしたので、二人は吃驚びっくりしてあわてだしたのですよ。
ネオン横丁殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人間弱味がなければ滅多めったに恐がるものでない。幸徳らめいすべし。政府が君らを締め殺したその前後のあわてざまに、政府の、いな、君らがいわゆる権力階級のかなえの軽重は分明に暴露されてしもうた。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかも犯人は十分もかかりながらあわてくさってライターを落とし、おみねさんは胡麻化ごまかすにことかいて、ゆかりの寝床を直すことさえ気がつかなかった。
ネオン横丁殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
或る日、僕たちが倶楽部で朝食をりつつあったとき、あわただしくイレネが入ってきた。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこへあわただしく、伝令兵が大股で近よると、司令官の前に挙手きょしゅの礼をした。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ちょいと、待っとくれよ、お前さん」おつるはあわてて、亭主を呼びとめた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこへ、突如として、女の自殺を聞いた。それには旦那どのもあわてた位だ。若い男は、女の飛込んだ熔融炉目懸けて、駈け出して行った。彼も女の跡を追って、この炉の中で死のうと決心した。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
誰かあわてて室外に逃げ出した者のある証拠です。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)