遮二無二しゃにむに)” の例文
諸将僚もこれにうなずいた。全軍の将卒に各二升のほしいいと一個の冰片ひょうへんとがわかたれ、遮二無二しゃにむに遮虜鄣しゃりょしょうに向かって走るべき旨がふくめられた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お葉は覚悟をめた。𤢖わろ見たような奴等の玩弄おもちゃになる位ならば、いっそ死んだ方がましである。彼女かれは足の向く方へと遮二無二しゃにむにと進んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
遮二無二しゃにむにここまで走っては来たが、お粂が敵に取りこめられて、乱闘の場に残っていることを、フッとこの時思い出したのであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
押し通すまでのことだ。間違うたにもせよ、そこ此処に、二百余りの兵はある。遮二無二しゃにむに、かねての手筈をたがえず事を運んでくれい
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遮二無二しゃにむに、木蓮の枝にしがみついて、木のたわむのも、枝の折れるのも頓着なく、凧を引っぱずしにかかるものだから、神尾主膳が
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
許生員は、はっとなったが、とうとう我慢がならず、みるみる眉をひきつらすと、むちをふりあげ遮二無二しゃにむに小僧をおっかけた。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
そういう少女のお涌が持って歩き出したあの黄昏時たそがれどきの蝙蝠が、何故ともなく遮二無二しゃにむに皆三には欲しくて堪らなくなったのだ。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すなわち吉田は首を動かしてその夜着の隙間をふさいだ。すると猫は大胆にも枕の上へあがって来てまた別の隙間へ遮二無二しゃにむに首を突っ込もうとした。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
掛りの男にこうことわると、例の氷包こおりづゝみを額へあてながら、私は遮二無二しゃにむに人ごみの流れに逆って、周章狼狽しゅうしょうろうばいして、悪魔に追わるゝ如く構外へ逃げ延びた。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
近松少佐は思うままにすべての部下を威嚇いかくした。兵卒は無い力まで搾って遮二無二しゃにむににロシア人をめがけて突撃した。
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「俺まで倒れたら大変だ!」フッとそんな気が起ってくると、鷲尾は眠ってる上の男の子を揺すぶり起して、遮二無二しゃにむに赤ン坊を背に結びつけてやった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
叫びながら、人をかきわけて飛びこんできたお兼婆さん、いきなり泰軒先生の手をとって、遮二無二しゃにむに引きたてた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私は腹の中で凱歌がいかをあげた。ここでこの刑事をおこらして、遮二無二しゃにむに私を捕縛さしてしまえばいよいよ満点である。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの物凄じい黒死館の底流——些細な犯罪現象の個々一つ一つにさえ、影を絶たないあの大魔力に、事件の動向は遮二無二しゃにむに傾注されてゆくのではないか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それに長い時間をたった一人で遮二無二しゃにむに押しとおすその単調さに、ぼつぼつと、ああああと欠伸あくびし出して来た。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
遮二無二しゃにむにかじり付いてくる少年の前額おでこをかけて、力任せに押除おしのけようともがいているうちに、浅田の夢は破れて、蚊帳かやを外した八畳の間にぽっかりと目をさました。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
肉体はややともすると後ろに引き倒されそうになりながら、心は遮二無二しゃにむに前の方に押し進もうとした。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼らは忠義の前提よりして遮二無二しゃにむに、論理的必然の結論たる尊王賤覇せんぱに到着せずんば、休せざるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
味方は満を持して放たず、敵は遮二無二しゃにむに突き進んで腰が伸び切っている状態を国民はよく知っていた。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
道を外れて藪ヶ丘を遮二無二しゃにむに乗り越え、檜の植林地を横断して吉井村と椙原村をつなぐ街道へ出た、——それを更に南へ十丁あまり、馬を煽り煽り行くと、向うから
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから僕は三十分ばかり、熊笹くまざさを突きぬけ、岩を飛び越え、遮二無二しゃにむに河童を追いつづけました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしそのためにかえって非常な恐怖に襲われて、後をも見ずに遮二無二しゃにむに、駆け出してしまった。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
黒人遮二無二しゃにむに豕無数を殺した後、神の怒り最早安まっただろとて豕を赦免の令が出た。
相手の気持も何も考えず、子供可愛さのエゴイズムから遮二無二しゃにむに押しつけてしまったのだ。俺はすぐ後で、それがあの女の本意でないことを知ったのだが、本人は何もいわなかった。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
にんじんは、苦情もいわず、遮二無二しゃにむにがんばってあとをついて行く。靴で怪我けがをする。そんなことは噯気おくびにも出さない。手の指がじ切れそうだ。足の爪先つまさきふくれて、小槌こづちの形になる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
猛烈の雨中突進、遮二無二しゃにむに登りつめれば中禅寺の八丁平なり。ここから華巖けごんの滝壺を見に行った。この滝壺道というのは、五郎平じいが十三年の日子にっしを費やして独力造り上げた道である。
鬱蒼うっそうたる木立の中に迷い込み、眺望どころでなくなって、あわてて遮二無二しゃにむに木立を通り抜け、見ると、私は山の裏側に出てしまったらしく、眼下の風景は、へんてつも無い田畑である。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
委員G「遮二無二しゃにむに、マライ半島へ突入とつにゅうするんだ。そしてゴムをあつめる」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遮二無二しゃにむに、切ッ払って逃げる外はない——ここで、縄目にかかれば、どうせ、二度と、娑婆しゃばの、明るい日の目を見られぬからだだ——恋も、色も、それどころか、明日のいのちが、それっきりだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ほとんどすべての文士の多分にれず、彼もかなり冷たい人間だったが、それでいて自分がジナイーダを崇拝しているものと、遮二無二しゃにむに相手に思い込ませようとしていたのみか、どうやら自分でも
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
遮二無二しゃにむに津田を突き破ろうとしたお延は立ちどまった。夫がそれほど自分をごまかしていたのでないと考える拍子ひょうしに気が抜けたので、一息ひといきに進むつもりの彼女は進めなくなった。津田はそこをねらった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
遮二無二しゃにむに男子と同じからんと騒ぐものであっては致方いたしかたない。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
遮二無二しゃにむに飛込むガラッ八。
けれども、ハッキリした返事を与えないことが、同意の表示であるように、お雪をして遮二無二しゃにむに、思い進ませた結果になりました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一途いちずに、真っ暗に、捨身に、願うらくはいさぎよく——とばかり、この暁から今、の中天の頃まで、遮二無二しゃにむに来はしたが、ふとここで
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さういふ少女のお涌が持つて歩き出したあの黄昏時たそがれどきの蝙蝠が、何故なぜともなく遮二無二しゃにむに皆三には欲しくてたまらなくなつたのだ。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
何でも本道から西へ入ると聞き伝えているので、心のく彼は遮二無二しゃにむに西へと進んだ。昨日のお葉が踏んだみちである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
手っとり早くしずめるために、遮二無二しゃにむにこの群集の中へ馬を乗り入れて、蹴散らそうとかかっている。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
するとある農家の前に栗毛くりげの馬が一匹つないである。それを見た半之丞はあとことわればいとでも思ったのでしょう。いきなりその馬にまたがって遮二無二しゃにむに街道を走り出しました。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
三日つと平地に出た。平地戦になると倍加される騎馬隊の威力にものを言わせ匈奴きょうどらは遮二無二しゃにむに漢軍を圧倒しようとかかったが、結局またも二千の屍体したいのこして退いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
数人の者が引きたおされた。が、団体は崩れなかった。遮二無二しゃにむに戸口の方へ走って行った。三頭の熊が飛び掛かった。二頭の豹と力を合わせ、信者達を背中から引き仆した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今、私の愛児は、幼年紳士は、急斜面の弧状の、白い石の太鼓橋を欄干らんかんにつかまり遮二無二しゃにむにはい登ろうとしている。一行の誰彼たれかれ哄笑こうしょうして、やんややんやと背後うしろから押しあげている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
偶〻たまたまこいさんが洋裁学院に来たはることを思い出したので、これは万難を排しても救助に行って上げなければならん、と心づき、遮二無二しゃにむに濁流の中を駈け付けた、と云うのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼の喚き叫ぶ咽喉をハタと閉ざしてしまおうとして、宿命的な敵弾がもうヒューンと唸り声を立てながらこちらへ飛んで来つつあることも、てんで考えようとはしないで、遮二無二しゃにむに突進しながら
岩が落ちて来るような勢いでそのひとの顔が近づき、遮二無二しゃにむに私はキスされた。性慾せいよくのにおいのするキスだった。私はそれを受けながら、涙を流した。屈辱の、くやし涙に似ているにがい涙であった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こうして、委細のことは役所へまかり出でて申せとばかりで、遮二無二しゃにむにこの新婿様にいむこさまを駕籠に乗せて引張って行ってしまいました。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さても、信長めの兵ははやい。どう知ったのか、手薄の留守城へ、一千余りの兵がふいに殺到して、遮二無二しゃにむに攻めたてられましたので無念ながら!」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、私は、そうなると、かえって猛勇を奮い起し、遮二無二しゃにむに翼を早めて、太陽を目がけて、飛びつこうとしました。
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
源兵衛も今まではさすがに躊躇していたのであるが、きょうはなんと思ったか、遮二無二しゃにむにその冒険を実行しようと主張して、とうとう自分のからだに藤蔓を巻いた。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雌の河童はこれぞという雄の河童を見つけるが早いか、雄の河童をとらえるのにいかなる手段も顧みません、一番正直な雌の河童は遮二無二しゃにむに雄の河童を追いかけるのです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)