くるぶし)” の例文
しかもそれも、ある朝、教会へ出かけて行く途中で、彼のブルテリヤが僕のくるぶしにかじりついてね、そんな偶然な出来事からだったんだ。
ガラッ八のくるぶしの桃などは、あまりケチなんで吹き出させてしまいましたが、不思議なことに銭形平次の文身はちょっと当てました。
院長いんちょう不覚そぞろあわれにも、また不気味ぶきみにもかんじて、猶太人ジウあといて、その禿頭はげあたまだの、あしくるぶしなどをみまわしながら、別室べっしつまでった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
水はやっとくるぶしを隠す程しかなかったけれど、その冷さは氷の様である。横穴は、そうして立った私達の、腰のあたりに開いているのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
我等は皆徒立かちだちとなりて、うさぎうまをば口とりの童にあづけおきぬ。兵卒は松明振りかざして斜に道取りて進めり。灰はくるぶしを沒し又膝を沒す。
鋪石はその道床から弛んでひどくがたがたになり、その間から高い草が生い茂って足やくるぶしの周りに延びていた。崩れた家が往来を塞いでいた。
親指が没する、くるぶしが没する、脚首あしくびが全部没する、ふくらはぎあたりまで没すると、もうなかなかたにの方から流れる水の流れぜいが分明にこたえる。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ミチミの白いすねの上から赤い糸のようなものがスーっと垂れ下ってきて、脛を伝わって、やがてスーっとくるぶしのうしろに隠れてしまった。血、血だ!
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
樹の根に、くるぶしを打ちつけて、青いあざを残したけれど、痛みはその時だけで、手の甲の傷も、ほんのかすり傷だった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
砂や小石は多いが、秋日和あきびよりによく乾いて、しかも粘土がまじっているために、よく固まっていて、海のそばのようにくるぶしを埋めて人を悩ますことはない。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼女ハ足袋ヲ穿イタ時ニくるぶしノ突起ガ目立タナイノガ自慢ナノデアル。多分ソノタメニ和服ヲ着、ソレヲ見セルベク予ノ面前ニ現ワレタノデアル。………
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昼の三時頃には洲の水は浅くなって足のくるぶしほどになりました。漁師たちは手網や手掴みで四斗だるに一ぱい半ほどの魚をり、網を外ずして去りました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
肉感はすべて心の恍惚こうこつの力の下に屏息へいそくしている時において、天使のごとき純潔なマリユスは、コゼットのすそをようやくくるぶしのところまでまくることよりも
夜になるとそのままこおるので、うっかりあるくと踏み返して足を痛める、菊枝は気もあがっていたし、馴れぬ夜道ではげしくつまずき、くるぶしのところを捻挫ねんざした。
日本婦道記:不断草 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
熟練し切った様子で荷でもくくるように詰襟の男が幸雄のくるぶしの上から両脚をぎりぎり白木綿で巻きつけ始めた。
牡丹 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
くるぶしの痛くなった頃、右から落ち合った可なり水量のある沢を越すと、右手に少しの平地が現れた、平地というても唯山裾の傾斜が緩くなったというだけで
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
頸は「頭の根」〔?〕と呼ばれる。くるぶしと手頸とを区別する、明瞭な名は無く、脚と手との「クビ」で、踝の隆起点は「黒い隆起」〔クロブシ〕と呼ばれる。
縫い合わせた痕が醜く幾重にも痙攣ひきつって、ダブダブと皺がより、彎曲わんきょくしたくるぶしから土踏まずはこぶのように隆起して、さながら死んだふかの腹でも眺めているような
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
紫紺しこんのセエタアの胸高いあたりに、あかく、Nippon といとりし、くるぶしまで同じ色のパンツをはいて、足音をきこえぬくらいの速さで、ゴオルに躍りこむ。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それが次第に、骨と皮ばかりに細っていってる先に、くるぶしの骨が腫物のように高まって、そこから、がくりと斜めに折れ曲って、馬鹿に大きな足先きとなっていた。
(新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
つまり、薦骨こしぼねの突起と突起を合わせてみると、双方の肩先やくるぶしにどのくらいの隔たりが出来るか……。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
栗毛の、白い斑点のある肥えた、ふさ/\した豊かな耳と、人間の眼のように表情深い眼をもったポチは、彼の足をなめてはふさ/\した頭を彼のくるぶしにおしつけた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
骨灰の中に、ズブズブとくるぶしまで隠してやって来る小坊主の腰で、その鈴が鳴りつづけているのです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのうちの一回ではくるぶしをくじかれ、また鼻をも傷つけられ、その上に顔じゅう一面「パルプのように」ふくれ上がり、腹や脇腹わきばらにはまっかな衝撃のあとを印していたそうである。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は、しばらくこまめに動く女の小さなくるぶしを見ていた。足首をつかんだ。つよく引いた。
愛のごとく (新字新仮名) / 山川方夫(著)
え、アデェルさまも御一緒ですの。皆さま御食堂にゐらつしやいます。それから、ジョンは外科のお醫者さまへ參りました。旦那さまがお怪我けがをなすつたもので。うまころんでくるぶし
足のくるぶしが、膝のひつかゞみが、腰のつがひが、頸のつけ根が、顳顬が、盆の窪が——と、段々上つて来るひよめきの為に蠢いた。自然に、ほんの偶然強ばつたまゝの膝が、折り屈められた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
そして彼女の膝にはさまれてる皿の中に、丸い小さな豆を入れた。彼は下を見つめていた。ザビーネの黒いくつ下が見えていて、くるぶしや足先の形を示していた。彼は彼女を見上げられなかった。
日本の女はくるぶしから下を除いてことごとく美しいと云ふHの事だから、勿論この芸者も彼の眼には美人として映じたのに相違ない。そこで彼も牛飲馬食ぎういんばしよくするかたはらには時々そつとその女の方を眺めてゐた。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鬼は左の手をもって髪をつかみ、右の手でくるぶしを握って、鼎の中へ投げこんだ。曾の物のかたまりのような小さな体は、油の波の中に浮き沈みした。皮も肉もけただれて、痛みが心にこたえた。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
飛礫はかれのくるぶしにあたった。かれは倒れた。私はかれをそのさきの日のように撲った。沢山の学友らは私らをとり捲いていたが、誰も手出しをしなかった。それほど私はみなから敬遠されていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
くるぶしくらいまでより水の来ない所に立っていても、その水が退いてゆく時にはまるで急な河の流れのようで、足の下の砂がどんどん掘れるものですから、うっかりしていると倒れそうになる位でした。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
森の中の瀝青チャンのような、くろずんだ水溜りは、川流が変って、孤り残された上へ、この頃の雨でにわたずみとなったのであろう、その周囲には、緑の匂いのする、かびの生えた泥土があって、くるぶしまで吸いこまれる
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「そう急がなくても、地下室一杯になるにはたっぷり二時間かかるのだ。今頃はもうくるぶしの所まで来たろう。君のお父さんはさぞかし、生きた空がなくて、冷々ひやひやしているだろうて。だが、そう急ぐ事はないて」
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
焼きがねよはやるひづめに蹄鉄かねうつとくるぶしも火もて焼きそね
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこでは何回もくるぶしの上までもずぶずぶと沈んだ。
鋭き石はくるぶしのほとり右脛を猛に*打つ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
私は彼女の、柔かいくるぶしに接唇した
くるぶしはにじみぬ、あけに。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ガラツ八のくるぶしの桃などは、あまりケチなんで吹き出させてしまひましたが、不思議なことに錢形平次の文身ほりものは一寸當てました。
院長ゐんちやう不覺そゞろあはれにも、また不氣味ぶきみにもかんじて、猶太人ジウあといて、其禿頭そのはげあたまだの、あしくるぶしなどをみまはしながら、別室べつしつまでつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
細クテスッキリシテイルノダケレドモ、膝ノ下カラくるぶしニ至ル線ガ外側ヘ曲ッテイテ、靴ヲ穿イタ足首トすねトノ接合点ガ妙ニレボッタクふくランデイル。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
脚は幾分円っこく、くるぶしもそうだが、美しい緑色の靴下をはいている。靴——桃色の鞣革なめしがわの——はキャベツの形にひだを取った黄色のリボンの房で結んである。
鐘塔の悪魔 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
足には太い男のくつをはき、靴から赤いくるぶしの所まで泥をはね上げ、身にはぼろぼろの古いマントを着ていた。
葉はすっかり落ち尽して、地に厚く積み、それに霜の降りたのが程よく溶けて湿気を加えているので、踏んで行くわたくしの靴はくるぶしほども軟かく地にきしみ込みます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
嶺は五六年前に踰えしおりに似ず、泥濘でいねいくるぶしを没す。こは車のゆきき漸く繁くなりていたみたるならん。軌道きどうの二重になりたる処にて、向いよりの車を待合わすこと二度。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
文学はどこかにもっと堅固な骨格やくるぶしをもって、少くとも歩行に耐えるものでなければならないと思っているものだから。ヘミングウェイなんか実に暗示にとんで居ります。
足のくるぶしが、膝のひつかがみが、腰のつがいが、くびのつけ根が、顳顬こめかみが、ぼんの窪が——と、段々上って来るひよめきの為にうごめいた。自然に、ほんの偶然こわばったままの膝が、折りかがめられた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
二人とも肩からくるぶしまでも隠れるくらいの長い外衣を着けて、しかもその外衣の奇妙なこと! 左肩におびただしいひだが付いて、その襞の部分を肩に引っ掛けたような恰好をしているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
然し日本の靴屋さんは、見た所は靴らしく思われる物はつくるが、まだまだくるぶしを固くする技術を呑み込んでいない。靴を見ることは稀であるが、見る靴はたいていかかとのところが曲っている。