ゆるし)” の例文
私は雪籠ゆきごもりのゆるしを受けようとして、たどたどと近づきましたが、扉のしまった中の様子を、硝子窓越がらすまどごしに、ふと見て茫然ぼうぜんと立ちました。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
谷中へ越した時は、もはや娘は十四、五歳で、師匠は、まだ肩上げも取れぬけれども、絵の技倆うでは技倆だからといってゆるしをくれました。
「気の早いことぢや。わしは逃げもかくれもせぬ。明日も明後日もここにゐるから、両親のゆるしを得てから来なさい。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
燿子はお母様からおゆるしを受けると、丁度空いていた父親の自動車に乗って鎌倉停車場へ、綾子の後を追いました。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しそうなればもう叔母のゆるしを受けたも同前……チョッいっ打附うちつけに……」ト思ッた事は屡々しばしば有ッたが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
二月の末になって、病室前の梅がちらほら咲き出す頃、余は医師のゆるしを得て、再び広い世界の人となった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平太郎には当時十七歳の、求馬もとめと云う嫡子ちゃくしがあった。求馬は早速おおやけゆるしを得て、江越喜三郎えごしきさぶろうと云う若党と共に、当時の武士の習慣通り、敵打かたきうちの旅にのぼる事になった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
正月は奴婢しもべどもゝすこしはゆるして遊をなさしむるゆゑ、羽子はごつかんとて、まづ其処を見たてゝ雪をふみかためて角力場すまうばのごとくになし、羽子は溲疏うつぎを一寸ほど筒切になし
われその年の秋母のゆるしを得て始めて八重を迎へいえを修めしめしが、それとてもわずか半歳はんさいの夢なりけり。その人去りて庭のまがきには摘むものもなくて矢筈草いたずらひはびこりぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
重々恐入った次第で何分にもおゆるしを願います、主家しゅか改易の後、心得違いを致して賊のかしらとなり、二百人からの同類を集めて豪家ごうか大寺おおでらへ押入り、数多あまたの金を奪い、あるい追剥おいはぎを致し
それから藤沢古実君が土を用意して来て居り、息のあるうち恩師の顔をかたにとりたいといふので、夫人不二子さんのゆるしを得て、写真も撮り、面塑も出来た。そして廿六日は暮れた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
少年たち三人だけで遊びに行ってもいいというおゆるしが出ていましたので、夕方から、子供ばかりで散歩に出たのですが、三人の足はいつとはなく、海岸の桟橋さんばしの方へ向いていました。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
心持こゝろもちになつて、自分じぶん暫時しばらくぢつとしてたが、突然とつぜん、さうだ自分じぶんもチヨークでいてやう、さうだといふ一ねんたれたので、其儘そのまゝいそいでうちへり、ちゝゆるし
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼のゆるしを得んまでは席に着くをだにはばかる如く、満枝はただよはしげになほ立てるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
恩師の秘密にしている部屋を、そのゆるしもなくて、ぬすんだ鍵であけてはいるなんて、けっしていいことではなかった。しかし、ぜひともそれをしなければ、気のすまない新田先生であった。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
由緒ゆいしょのあることであろうから、追っておゆるしを願うことも出来ようといった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ドメニカこれを見つけて、そは目をそこなふわざぞとて日の見えぬやうに戸をさしつ。われ無事に苦みて、外に出でゝ遊ばんことをひ、ゆるしをえたる嬉しさに、門のかたへ走りゆき、戸を推し開きつ。
菊江の両親のゆるしを得て初めて菊江の家を訪問したわかい会社員は、己の下宿の近くの雑貨店の二階を借りていた男が、女の怪異を見て発狂したと云う話をしたので、菊江は褐腐こんにゃく奇計きけいを話して笑った。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「若先生のおゆるしが出たのだから、さあ、さあ、踊ったり、踊ったり」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
御膳部の用意をいたすことをおゆるし下さいまし。10880
わたし雪籠ゆきごもりのゆるしけようとして、たど/\とちかづきましたが、とびらのしまつたなか樣子やうすを、硝子窓越がらすまどごしに、ふと茫然ばうぜんちました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山田泰雲君は元篆刻てんこく師の弟子であったが、芦野楠山先生の世話で師のゆるしを得て私の門下となった。大分出来て来て、これからという処で病歿しました。
笹野新三郎のゆるしを受けると、平次は竹の市の後へ廻りました。繩を解いてやる積りだつたのです。
正月は奴婢しもべどもゝすこしはゆるして遊をなさしむるゆゑ、羽子はごつかんとて、まづ其処を見たてゝ雪をふみかためて角力場すまうばのごとくになし、羽子は溲疏うつぎを一寸ほど筒切になし
い心持になって、自分は暫時しばらくじっとしていたが、突然、そうだ自分もチョークで画いて見よう、そうだという一念に打たれたので、そのまま飛び起き急いでうちに帰えり、父のゆるしを得て
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
幕いよいよ明かんとする時畠山古瓶以前は髯むぢやの男なりしを綺麗に剃りて羽織袴はおりはかまの様子よく幕外に出でうやうやしく伊井一座この度鴎外先生の新作狂言上場じょうじょうゆるしを得たる光栄を述べき。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ドレスデンにゆきて、画堂のがくうつすべきゆるしを得て、ヱヌス、レダ、マドンナ、ヘレナ、いづれの図に向ひても、不思議や、すみれ売のかほばせ霧のごとく、われと画額との間に立ちて障礙しょうげをなしつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ゆるし下さい。そしてお傍へお引上ひきあげなさる9360
ふさいで考えますと、おゆるしがないのに錠前を開けるのは、どうも心が済みません。神様、仏様に、誓文せいもんして、悪い心でなくっても、よくない事だと存じます。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は丹後守のゆるしを受けて、屋敷中の者に一應逢つて見ました。奧方、三人の子供達、用人の内儀とその娘、下女二人、若黨、門番、下男まで、ざつと十二三人の大世帶です。
あの方におおしえ申すことをおゆるし下さいまし。
「あれは、父上のおゆるしが無ければ、誰も入ることが出来ないことになって居るのだよ」
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
其方そなたの言分承知したれど、親のゆるしのなくてはならず、母上だに引承ひきうけたまわば何時なんどきにても妻とならん、去ってまず母上に請来こいきたれ)と、かように貴娘あなたが仰せられし、とわたくしより申さむか
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
淺五郎はお町に逢つたのは眞當ほんたうで御座いますが、それからズーツと、寺島新田の叔母の家に居りました。長命寺境内と申したのは遠方へ行くのはおゆるしがむづかしいと思つたからで御座いませう。