蚯蚓みゝず)” の例文
こう云う間も蝋の流れは遠慮なくだら/\と蚯蚓みゝずの這うように額から睫毛へ伝わって来るので、再び仙吉は眼をつぶって固くなった。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
冷静れいせいなる社会的しやくわいてきもつれば、ひとしく之れ土居どきよして土食どしよくする一ツあな蚯蚓みゝず蝤蠐おけらともがらなればいづれをたかしとしいづれをひくしとなさん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
白痴ばかのくせに妹分のお駒に懸想して、蚯蚓みゝずののたくつたやうな手紙を書いて、人の惡いお駒に飜弄ほんろうされて居たことが判つた位のものでした。
垣の上に髑髏どくろありて、一鼷鼠けいそ、一蚯蚓みゝず、一木蝱きあぶこれに集り、石面には「エツト、エゴオ、イン、アルカヂア」と云ふ四つの拉甸ラテン語を書したり。われ。
万物おのづから声あり。万物自から声あれば自から又た楽調あり。蚯蚓みゝずは動物の中に於て醜にして且つ拙なるものなり。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
また、それだけにつりがうまい。素人しろうとにはむづかしいといふ、鰻釣うなぎつり絲捌いとさばきはなかでも得意とくいで、一晩ひとばん出掛でかけると濕地しつち蚯蚓みゝず穿るほどひとかゞりにあげてる。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蚯蚓みゝずが風邪の妙薬だといひ出してから、彼方此方あちらこちらの垣根や塀外へいそと穿ほじくり荒すのを職業しやうばいにする人達が出来て来た。
勝「へー、伴れて来いと仰しゃいますなら伴れてまいりますがね、若し途中でわっちをばかして蚯蚓みゝずのおそばや、肥溜こいだめの行水なんぞつかわされはしますまいか」
事實然うかも知れない。學士は、生物……と謂ツても、上は人間から下は蚯蚓みゝずの類まで、すべての動物に多大の興味を持ツて研究してゐる。彼は單に科學的に實驗するばかりで無い。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
萬能まんのうつてるのはみなをんなで十三四のまじつてるのであつた。人々ひと/″\おこしたあとはたけつち蚯蚓みゝずもたげたやうなかたちに、しめつたすなのうね/\とつらなつてるのがかれうつつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
蚯蚓みゝずやけらが自由に棲んでゐる土地へ、勝手に繩張りをして、これは俺のものぢや、と言つてゐるのも可笑しいが、海の底から拔いて來たものを、こんな玉にして、これは俺のぢや
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
劉は、何とも知れないかたまりが、少しづゝ胸から喉へ這ひ上つて来るのを感じ出した。それが或は蚯蚓みゝずのやうに、蠕動ぜんどうしてゐるかと思ふと、或は守宮やもりのやうに、少しづゝ居ざつてゐるやうでもある。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこへ、するすると意地いぢわる蚯蚓みゝずひだしてきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
お山の熊吉といふ、ノツソリした下つ引が、蚯蚓みゝずをのたくらせた、八五郎の假名文字の手紙を持つて來たのです。
熟々つら/\かんがふるにてんとんびありて油揚あぶらげをさらひ土鼠もぐらもちありて蚯蚓みゝずくら目出度めでたなか人間にんげん一日いちにちあくせくとはたらきてひかぬるが今日けふ此頃このごろ世智辛せちがら生涯しやうがいなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
新田しんでん太郎兵衞たろべゑがうまいことつた。小助こすけふさぐなら蚯蚓みゝずせんじてませろと。なにが、くすりだとすゝめるものも、やれ赤蛙あかがへることの、蚯蚓みゝずことの、生姜しやうがれずの煎法せんぱふで。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
農夫ひやくしやうといふものは、蚯蚓みゝずのやうに土地にこびりついてゐるだけに、得て在所自慢をしたがるもので、この農夫ひやくしやうもかねて顔昵懇かほなじみの英吉利の農夫ひやくしやうを見ると、すぐに生れ故郷の自慢話をもち出したものだ。
馬「それに蚯蚓みゝずなどをいじるのが何うも厭で」
お徳の手から受取ると、成程、書きも書いたり、蚯蚓みゝずと古釘とが滅茶々々に雜居したやうな、素晴しい難文で
もあるべし、たゞたぬきこゑは、老夫をぢみゝ蚯蚓みゝずたりや。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「知りませんよ、でも、野郎は、鎌の使ひ方がからつ下手ですね、三尺柄の草刈鎌を持つてゐて、蚯蚓みゝずばれほどの引つ掻きは、なさけ無いぢやありませんか」
蚯蚓みゝずふやうなこゑきざはしところきこえる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
頭の上でヒラ/\させ乍ら持つて來たのは、何んと、蚯蚓みゝずをのたくらせたやうな、舌つたるい戀文が一通と、娘の持物らしい、小さい可愛らしい物が二つ三つ。
「其處まで判れば、俺が來るまでもないぢやないか。何が不足で明神下まで蚯蚓みゝずをのたくらせたんだ」
「でも、あの人は、どんなに腹を立てても人なんか殺せるわけはありません。崖の下から、蚯蚓みゝずが這ひ出してさへ、高輪中に響くほどの騷ぎをおつ始める人ですから」
「共同井戸の流しの下に投り込んであつた筈だ——蚯蚓みゝずの巣の中に五百何十兩は、變な圖だつたよ」
「だがな、八、下水の中に、蚯蚓みゝずがうんと死んでゐるぜ、——こいつは見て置く値打はあるだらう」
「何を言やがる。切られたのは、お前の帶ぢやねえか。見るが良い、蚯蚓みゝずばれもありやしまい」
私は一生此處の厄介になつて、少しばかりの不自由さへ我慢すれば、蚯蚓みゝずのやうに自分の田地を掘つて居られると思ひましたが、旦那樣が亡くなつては、それも怪しくなりました。
「何を騷ぐんだ、ドブ板の蔭から、でつかい蚯蚓みゝずでも這ひ出したといふのか」
「百兩の茶碗、五十兩の茶入。こいつは何んとか言ふ坊さんがのたくらせた蚯蚓みゝずで、こいつは天竺てんぢくから渡つた水差しだと、獨りでえつに入つて居るうちはよかつたが、——人の怨みは怖いね、親分」
「まア、親分さん、お口の惡い、あり蚯蚓みゝずを運ぶんぢやあるまいし」
顏は絶望と忿怒に藍隈あゐくまいたやう、毒蛇のやうにキラキラと光る眼、膏汗の浮いたこめかみには蚯蚓みゝずのやうな血管がれて、風のやうな呼吸、キリキリと噛む齒、此上もなく念入りに縛られ乍らも
「驚いたのは蚯蚓みゝず