しべ)” の例文
はたを離れて、彼はひとり、裏の桃林を逍遥していた。はや晩春なので、桃の花はみな散り尽して黒い花のしべを梢に見るだけであった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは徑一寸二三分の眞鍮板で、形は四つべんの梅の花、しべのところの模樣は、まん字になつて居るといふ、世にも變つた品でした。
みち近い農家の背戸に牡丹の緋に咲いてしべの香に黄色い雲の色をたたえたのに、舞う蝶のはね袖のびの影が、仏前に捧ぐるたえなる白い手に見える。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お由羅は、濃い青磁色に、紅梅模様を染めて、しべに金銀糸の縫いのした被布を被ていた。堆朱の台に、古金襴をつけた脇息に、片肱をつかせて
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
と短く折った蓮のしべを抱えて、売ってくれる子とも馴染なじみになって、蓮の実の味も知った。そんな事は日本橋油町あたりの子供の誰一人知ってはいなかった。
その花が育って来ますと、あの長くてもじょ/\したしべが位を張ってまいります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
仄暗ほのぐらしべの処に、むらむらと雲のように、動くものがある。黄金の蕋をふりわける。其は黄金の髪である。髪の中から匂い出た荘厳な顔。閉じた目が、憂いを持って、見おろして居る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
前達まへたちはそこいらにはちにはなぞへんではなしべたりはいつたりするのをかけるでせう。それからあの黄色きいろふたのしてあるはち見事みごと出來できたのをかけることもるでせう。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
花に見ませわうのごとくもただなかにをつつむうるはしきしべ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
落ちつばき外方そつぽ向きつつしべわかし落つるただちを坐りたらしも
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
花のしべより湧き出でて二人の身をば囲みたり。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
しべの朱が花弁にしみて孔雀草くじゃくそう
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
しべの細きを拔かんとて
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
そのしべをか
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
あらためて、心着くと、ああ、夫人の像の片手が、手首から裂けて、中指、薬指が細々と、白く、しべのように落ちていた。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大日輪の光りの中から聖帝がお生まれになったのならば、天地馥郁てんちふくいくとして、花の咲きみちこぼれたる匂いのしべのうちに、麗しきこの女君めぎみは御誕生なされたのである。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
黄のしべのいとど目にたつ白菊は花みな小さし咲き乱れつつ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しべは黄に
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
る、まへへ、黄色きいろ提灯ちやうちんながれて、がたりとあをつた函車はこぐるま曳出ひきだすものあり。提灯ちやうちんにはあかしべで、くるまにはしろもんで、菊屋きくやみせ相違さうゐない。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しべつつむ幾重花びら内紅うちあかき朝の牡丹はままくやは
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
せきくと、そでからつたか、あのえだからこぼれたか、なべふたに、さつはなかゝつてて、華奢きやしやほそしべが、したのぬくもりに、う、ゆきけるやうなうすいきそよがせる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日おもての庭の此面このもの白つつじしべながなれや春たけなは
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
背後うしろかこつた、若草わかくさ薄紫うすむらさき山懐やまふところに、黄金こがねあみさつげた、ひかり赫耀かくやくとしてかゞやくが、ひとるほどではなく、太陽たいやうときに、かすかとほ連山れんざんゆきかついだ白蓮びやくれんしべごとくにえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なにか知らねど、しべ赤きかの草花のかばいろは
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
立寄りて草を分けて見れば、形すみれよりはおほいならず、六べんにして、其薄紫の花片はなびらに濃き紫の筋あり、しべの色黄に、茎は糸より細く、葉は水仙に似て浅緑柔かう、手にせば消えなむばかりなり。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いつか毛ばだつしべのつや。
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もう一度、以前、日比谷の興行で綺麗な鸚鵡おうむが引金を口で切って、黄薔薇きばらしべを射て当てて、花弁を円く輪に散らしたのを見て覚えている。——扱いは、たしか葡萄牙ポルトガル人であったと思う。
しべのにほひも張りつめる。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蓮の実のしべ
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)