茶釜ちゃがま)” の例文
まあ、茶でも一口すすろうではないか。明るい午後の日は竹林にはえ、泉水はうれしげな音をたて、松籟しょうらいはわが茶釜ちゃがまに聞こえている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
児をてる日になりゃア金の茶釜ちゃがまも出て来るてえのが天運だ、大丈夫だいじょうぶ、銭が無くって滅入めいってしまうような伯父おじさんじゃあねえわ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これにゃ、みんな貴僧あなた茶釜ちゃがまの中へ紛れ込んでたたるとか俗に言う、あの蜥蜴とかげ尻尾しっぽの切れたのが、行方知れずになったより余程よっぽど厭な紛失もの。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の通されたのは、炉の切ってある部屋で、無風流な彼にはわからないが、火のない炉に、古ぼけたような茶釜ちゃがまが掛っていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
銭形作品年譜でいうと、第八十七から、第百話までの「金の茶釜ちゃがま」「許婚いいなずけの死」「百四十四夜」などというのがそれである。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
葭簀よしずを立掛けた水茶屋の床几しょうぎにはいたずら磨込すりこんだ真鍮しんちゅう茶釜ちゃがまにばかり梢をもれる初秋の薄日のきらきらと反射するのがいい知れず物淋ものさびしく見えた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
銀ごしらえではあるまいか? そんなようにも思われるほどに、ピカピカ光る大きな茶釜ちゃがまが、店の片隅に置いてある。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お茶番のいる広い土間の入口のくぐり戸をはいってゆくと、平日いつもに増してお茶番の銅壺どうこにえたち、二つの茶釜ちゃがまからは湯気がたってどこもピカピカ光っていた。
からりとした勝手には茶釜ちゃがまばかりが静かに光っている。黒田さんは例のごとく、書生部屋で、坊主頭を腕の中にうずめて、机の上に猫のように寝ているだろう。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
釜右ヱ門かまえもんこたえました。これは昨日きのうまでたびあるきの釜師かましで、かま茶釜ちゃがまをつくっていたのでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
硝子ガラス戸の中は茶釜ちゃがまをかけたかまどの火で暖かく、窓の色硝子の光線をうけて鉢の金魚は鱗を七彩に閃めかしながら泳いでいる。外を覗いてみると比良も比叡も遠く雪雲を冠っている。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
風呂先で囲った茶釜ちゃがまの前に、端麗たんれいに坐っていた。茄子色なすいろ茶帛紗ちゃぶくさに名器をのせ、やがて楚々そそと歩んで、内匠頭の前へ茶わんを置いた。そして彼の視線と共に、廂越ひさしごしのあおい空に見入った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるものは金の茶釜ちゃがまに大判小判ばっかりときたんじゃ、女の子だって熱くなるなああたりめえじゃござんせんか、むろんのこと、だんご屋の娘もぼおっとなっていたお講中なんだからね。
冷泉れいぜんをレンゼイ(後にはさらにレイゼイと訛る)、定考じょうこうをコウジョウ、称唯しょういをイショウ、あらたしいをアタラシイ、身体からだをカダラ、茶釜ちゃがまをチャマガ、寝転ぶをネロコブという類みなこれである。
火鉢ひばちにかかって沸いている茶釜ちゃがまの音には、ゆく夏を惜しみ悲痛な思いを鳴いているせみの声がする。やがて主人が室に入る。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
? 茶釜ちゃがまでなく、這般この文福和尚ぶんぶくおしょう渋茶しぶちゃにあらぬ振舞ふるまい三十棒さんじゅうぼう、思わずしりえ瞠若どうじゃくとして、……ただ苦笑くしょうするある而已のみ……
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
炭火のたっぷりおこった火桶、湯気を立てている、小さな茶釜ちゃがま。——古びてあめ色に光っている柱や、すすけた障子やふすま
「え、え、どうぞ、金の茶釜ちゃがまも錦の小袖もありゃしません。私は家捜しされるのを、指をくわえて見ているのも変ですから、ちょいと遊びに出て来ます」
敷居の外に土竈どべっついが、今しがたの雨に濡れて、半分ほど色が変ってる上に、真黒な茶釜ちゃがまがかけてあるが、土の茶釜か、銀の茶釜かわからない。幸い下はきつけてある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
釜右ヱ門かまえもんきん茶釜ちゃがまのあるいえを五けんとどけますし、海老之丞えびのじょうは、五つの土蔵どぞうじょうをよくしらべて、がったくぎぽんであけられることをたしかめますし、大工だいくのあッしは
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
四畳半の茶の間には一尺二寸位の小炉しょうろが切ってあって、竹の自在鍵じざいすすびたのに小さな茶釜ちゃがまが黒光りしてかかっているのが見えたかと思うと、若僧は身を屈して敬虔の態度にはなったが
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
茶釜ちゃがまがシンシンと沸いている。その前に侍が坐っている。近習らしい若侍、不思議なことには全身を、ワナワナワナワナ顫わせている。ひどく恐怖しているらしい。と、ホーッと溜息をした。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
横手の衝立ついたて稲塚いなづかで、火鉢の茶釜ちゃがまは竹の子笠、と見ると暖麺ぬくめん蚯蚓みみずのごとし。おもんみればくちばしとがった白面のコンコンが、古蓑ふるみの裲襠うちかけで、尻尾のつまを取ってあらわれそう。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おゆきはそ知らぬ顔で立つと、茶釜ちゃがまの側へ行って焚木たきぎをくべながら、静かな美しい声でうたいだした。
峠の手毬唄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
主人は、客が皆着席して部屋へやが静まりきり、茶釜ちゃがまにたぎる湯の音を除いては、何一つ静けさを破るものもないようになって、始めてはいってくる。茶釜は美しい音をたてて鳴る。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
葭簀よしずの影から見ると粘土ねばつちのへっついに、さび茶釜ちゃがまが掛かっている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから、おてらってあったかねも、なかなかおおきなもので、あれをつぶせば、まず茶釜ちゃがまが五十はできます。なあに、あっしのくるいはありません。うそだとおもうなら、あっしがつくってせましょう。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「親分、きん茶釜ちゃがまを拝んだことがありますかい」
荒れたものでありますが、いや、茶釜ちゃがまから尻尾しっぽでも出ましょうなら、また一興いっきょうでござる。はははは
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おゆきは見るより早く、茶釜ちゃがまとならんでいる空の甘酒釜の中へ、その文匣を入れてふたをした。
峠の手毬唄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夏は大榎の樹陰、涼しくなると陽当りの草原へ移るが、地面の上へ古い毛氈もうせんを敷き、小屏風びょうぶをうしろにまわして、土風炉どふろ茶釜ちゃがまをかけて沸かし、野だての茶を客にすすめるのである。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おそらく感情をしずめるためだったのだろう、やがて戻って来て坐り、炉に掛っている茶釜ちゃがまから、湯呑に茶を注いだ。すると、ひなた臭いような枸杞の香が、隼人のところまで匂って来た。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)