なます)” の例文
「その姉を奪い返そうとして、父は単身行列へ斬り込んで一寸刻み——なますのような屍骸でした。今も、眼のまえに見えるようです。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
し真弓が刃の下をい潜って、千代之助をかばってやらなかったら、た太刀三太刀目にはなますのように刻まれてしまったことでしょう。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
どっさり持ってめえりましたぞい。おなますも持って参りましたぞい。ほれ、これが金平きんぴら……煮染にしめもありますで……ひらべの煮付け……
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
名物お鯉の後日譚ごにちがたりは、なますになっても生作いきづくりのピチピチとしたいきの好いものでなければならないと、わたしはひそかに願っていた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
すわと云えば、八面乱刀、なますに斬って捨て去りそうな勢い。二人の男も背中合せに、大刀の鯉口を握り締め、互いにきっと身を護り合った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しこうしてこれがために教徒を殺すもの前後三十万人。それあつものるものはなますを吹く。この時において鎖国令を布く、また実にむを得ざるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
晩秋の美味のうち、鰍のなますに勝るものは少ないと思う。肌の色はだぼ沙魚はぜに似て黝黒あおぐろのものもあれば、薄茶色の肌に瑤珞ようらくの艶をだしたのもある。
姫柚子の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「今朝のお汁の鳥はものかは」「何処いずこにも飽かぬはかれいなますにて」「これなる皿はめる人なし」とは面白く作ったものだ。
「あの三ピンを、引っくるんでなますに刻んでしまえ! しかし殺しちゃアいけねえ。止どめはお若衆に刺させろ! やれ!」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此家こゝの旦しう、幾つやろな、若いのやら年寄りやら分れへん。」と、なますの大根を刻みながらいふものがあれば
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
旅宿やどやへ踏み込まれて、伯父は二階のひさしから飛び下りる途端、庭石に爪付つまずいて倒れる所を上から、容赦なくられた為に、顔がなますの様になったそうである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
井侯以後、あつものりてなますを吹く国粋主義は代る代るに武士道や報徳講や祖先崇拝や神社崇敬を復興鼓吹した。
尾張の治黙じもく寺に手習にやられたが、勿論手習なんぞ仕様ともしない。川からふなを獲って来てふきの葉でなますを造る位は罪の無い方で、朋輩の弁当を略奪して平げたりした。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その代り足腰が立つようになればすぐにここを立って、遠国へ旅立せえよ! 旅立しなけりゃ今度はなますのように粉微塵に切りきざんでやるからな。そう覚えておれ! 
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
それでも切昆布きりこぶ鹿尾菜ひじき油揚あぶらげ豆腐とうふとのほか百姓ひやくしやうつくつたものばかりで料理れうりされた。さらにはこまかくきざんでしほんだ大根だいこ人參にんじんとのなますがちよつぽりとせられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
吐く奴——もはや、止めませぬ。さ、御存分に、って、蹴って、最後は、なますにしておやり下さい
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それは、島崎の可愛がっていた子分の一人であったが、全身を、なますのように、斬りきざまれていた。俥ひきは、ただ、蛭子えびす神社の裏で、四五人の抜刀した遊人体あそびにんていの男たちから
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「まあいや、……このなますができるとすぐですわ、もうしばらく我慢をあそばせ」
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは今の季節の京都に必ずなくてはならぬひがいの焼いたの、ふなの子なます明石鯛あかしだいのう塩、それから高野こうや豆腐の白醤油煮しろしょうゆにに、柔かい卵色湯葉と真青な莢豌豆さやえんどうの煮しめというような物であった。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
かわらなら焼鮎やきあゆができるが、ここじゃ、なますより他にはできない、膾でやろう」
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
吸物、平、なます煮染にしめ、天麩羅てんぷら等、精進下物の品々を料理し、身一個をふり廻して僕となり婢となり客ともなり主人ともなって働きたり、日暮るれば僧も来たり、父老、女房朋友らのかずも満ち
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
米は精白されたのを好まれ、なますは細切りを好まれる。飯のすえて味の変つたのや、魚のくずれたのや、肉の腐つたのは、決して口にされない。色のわるいもの、匂いのわるいものも口にされない。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
江口えぐちびとやなうちわたせその簗に鮎のかからばなますつくらな
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
牧さえ刺殺さしころせば、全身なますになろうとも、わしは本望じゃ
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
多勢に押っ取り籠められてなますのように斬りきざまれた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
全身なますのごとくに切り刻まれて、子路は死んだ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
なますのようになってこと切れ、照吉はほんの二三ヶ所のかすり傷を受けただけ、その代り見事な袈裟掛けに斬られて死んでおります。
……不忠者というところで、あの好男子いいおとこの幹之介さん、なますのように切られるだろう。……殺生のことをしたものさ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さきほど釣ったカマスは塩焼に、小鰺はたたきなますに。その味いずれも薄にして淡、思わず小杯を過ごした。
夏釣日記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
源三郎は、もたてない。この刀林の下、いかな彼もたまるまい。すでになますにきざまれたに相違ないのだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
全身を、刀と匕首とで、なますのように突かれ、刻まれるのが、もはや、痛みのない麻痺の中で、はっきり、わかった。死という観念も、命という思想も、瀕死の神経には湧いて来ない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼女のほおは、暖炉や飲料のみもののためではなくカッと血の気がさした。それを見ると、わたしは気持ちがすがすがしくなって、お鯉は生ている、生作りのなますだと、急に聞く方も、ぴんとした。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その意気はたのもしいが、この忠房は同意せぬぞ。なぜかと申せば、先には充分な用意もあろうし、そちは足さえままにならぬ体、彼等の乱刃に遭わばなます斬りにされることは余りに明白じゃ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十人は十人の因果いんがを持つ。あつものりてなますを吹くは、しゅを守って兎を待つと、等しく一様の大律たいりつに支配せらる。白日天にちゅうして万戸に午砲のいいかしぐとき、蹠下しょかの民は褥裏じょくり夜半やはん太平のはかりごと熟す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なますのやうになつてこと切れ、照吉はほんの二三ヶ所のかすり傷を受けただけ、その代り見事な袈裟掛けさがけに斬られて死んで居ります。
前後左右からなますに切る。それとも後へお帰りになるか? それもよかろう、お帰りなされ! また追っかけて行くばかりさ! つまり鬼ごっこというやつで。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
殊に爽涼が訪れてきてからは、東京湾口を中心とした釣り場であげた鯛、黒鯛、やがら、中すずきなどのなます、伊豆の海の貝割りのそぎ身と煮つけ、かますの塩焼きなどを飽喫している。
すっぽん (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「あくまでそちは疑い深いな。あつものにりてなますを吹くというやつか」
台察児タイチャル 兄上、嫂上の仇です。畜生! なますに刻んでやる!
顔がなますの様になつたさうである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
北見之守の刃が、お金のふくよかなはぎつんざくのが先か、家来達の刃が、左馬之助をなますにするのが先か。——と思う時。
「それもいい、気に入ったぞ、男はなますに俺が切る! 女は捕えて又助が介抱、すなわちなぐさんで叩き売る! ……前代未聞の返り討ち! 気に入ったぞ、フッフッフッ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なますが、甚だ結構だ。なるべく大形のものを選び、皮と頭と背骨と腸を去り、肉を薄くそいで水で洗い、これを酢味噌で頂戴すると、舌の付け根に痙攣でも起きるのではないかという感を催す。
魔味洗心 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「智恵は手前の方が少しばかり優るだろうが、腕は俺の方が確かだ。来いッ、三人ともなますにしてやる」
拙者は憎い敵の筈じゃ! だから斬れサアサア斬れ! ……が死骸と同様の俺を、なますサイノメに斬ったところで、そうして息の根止めたところで、世間では笑ってクサシこそすれ
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで私は、この丸煮よりも鰍なますの淡白を所望したのであるけれど、生憎あいにくこのごろは漁師が川業を休んでいるために、活き鰍が市場へ現われてこぬとのことであった。残念ながら、いたしかたない。
姫柚子の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「智惠は手前の方が少しばかりまさるだらうが、腕は俺の方が確かだ。來いツ、三人共なますにしてやる」
仲裁役には貫禄が不足、預けられぬと仰言おっしゃるなら、裸体はだかで飛び込んだが何より証拠、とうに体は張って居りやす。切り刻んでなますとし、血祭りの犠に上げてから、喧嘩勝手におやり下せえ。
二人町奴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
糸作りのなますにして黄身酢で食べれば素敵である。
寒鮒 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「首の切り口がなますのやうぢやないか、——ひどい事をしやがる」