はら)” の例文
敷島しきしまやバットやキャラメルなどの箱が積み重ねてあって、それをコルクの弾丸たまで打ち落としているのです。私ははらの中で考えました。
悪魔の聖壇 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
昌平はつい知らず機嫌のいい返辞をして、いそいそと立ってから、そんな自分のだらしなさにはらが立って「ちぇっ」と舌打ちをした。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「アッハハハ、思った通りだ。アッハハハ、お手の筋だ。はらの皮のよじれる話、飛んだ浮世は猿芝居だ。アッハハハ、こりゃたまらぬ」
村井長庵記名の傘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「なんとか、あきらめさせましょう」と、ぜひなく答えたものの、いつか板挟みになっている万吉、はらの底では、密かに弱りぬいている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家康に従ってはいるが、もし家康が信長へ加勢として上方かみがたにでも遠征したら、その明巣あきすに遠州を掠取かすめとらんと云うはらもないではない。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
認めあれはと問えば今が若手の売出し秋子とあるをさりげなくはらにたたみすぐその翌晩月の出際でぎわすみ武蔵野むさしのから名も因縁づくの秋子を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それが女の声であるので、半七ははらのなかでほほえんだ。かれは葭簀よしずのかげに忍んで、隣りの茶店の奥の密談を一々ぬすみ聴いていた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は、こんな聞き分けを忘れた畜生に、以前の親愛を持って、追憶の歌を鞭にしていたことなどを思い出すと無性にはらが立って
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
痩せるほど思っているカテリーナ・イワーノヴナも手にはいれば、六万ルーブルというあの女の持参金もたぐり寄せられようというはらだ。
人からよくいろんなことを訊かれるが、大体、それらの人は、既にほかから聞いたことを、もう一度たしかめようといふはらでかゝつてゐる。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
泉先生の藝は弴さんの所謂はらの藝である。斷つて置くが、茲に肚の藝とは、確固たる自己の世界を把持して動かない人の藝を謂ふのである。
「そうしたら」玄竜はじいっと彼女の笑顔を見つめていたが瞬間、そうだ今晩は久し振りにこの女を連れて帰るんだとひとりはらで定め込み
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
帰るも帰らないも私のはら一つだというんだから、わざわざお母さんまで来たのに、追い返すのもどうかと思って、一緒に帰ってしまったの。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
Explanationエキスプラネーション示談はなしあい)、とはらを極めてみると、大きに胸が透いた。己れの打解けた心で推測おしはかるゆえ、さほどに難事とも思えない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その君があっと驚いてる隙に乗じてこの事実奇談これだけはほんとを運んで行こうというはらなんだが、ここに困ったことが出来たというのは
「なんでも、あなたがたがお忍びで、目立たぬようにというはらだ。ね、それ、まん中の水ぎわが立ってたろう。いま一人が影武者というのだ」
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うむ! きゃつら十七人がはらを合わせ、一人の拙者をなぶりになぶり、拙者もついに勘忍かんにんぶくろのを切って、事こんにちに到ったのだッ!」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
はらの子にかれて、このままここに居坐りでもしたら、それこそ庄左衛門と選ぶところはない。俺も小山田といっしょにだけはなりたくない!
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
富岡は、はらの中で、自分をにやりと笑つてゐた。ゆき子が、女を梯子にすると云つたが、或ひはさうかも知れないと思へた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
はらに思案の吉蔵が、表面うはべばかりの喜び顔『それ程までに吉蔵を、思召して下さるからは、滅多に置かぬ、狂言ながら、かうも致してみましうか』
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
自分は駄目だが、周囲の奴は、しっかりさせよう、そんなはらでやってるんじゃない。たとえばネ、ここに悪事をたくらんでいる奴がいるとしまさア。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
お前のはらがきまらないかぎり、道江本人には絶対秘密にするように、双方で固く申合わせてある、と書いてあったからだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼の持ちかけた若干の質問から、このお客のはらには単なる好奇心ではなく、何か下心があるのだということがうなずかれた。
さうだ、私はこの人を斬るのを止さう、と武士ははらの中でいつた。そして気取られないやう、そつと庭から出ていつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
おそらく税関吏と組んで一芝居打つであろうから、その税関吏の様子を見守っていた上で、一網打尽に逮捕してしまおうとはらを決めたのであった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
肚でさとれ ただ頭で学ぶだけで、はらさとらないからです。学者であって、覚者でないからです。とかく学者は学んだ智慧に囚われやすいのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
つりこまれて一緒に笑い出した友だちが、しまいにはおなかを痛くして、わけもなしにはらを立てて、こううらみがましく福子を責めることさえあった。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
見どころがあると思ったこの子も、四十二三歳で底が知れてしまったと思い、又、くどくど口説かれるのもはらが立つ。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
私のはらの中では、この男に逢って雛形を見せたら、恐らくこれは物になりません、というだろうと思っておりました。
公然と出入りしようという図太ずぶとはらで来たのか、それとも本当に一言謝るつもりで来たのか、それは伊助の妾だった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
さはいえ阿Qは承知せず、一途に彼を「偽毛唐けとう」「外国人の犬」と思い込み、彼を見るたんびにはらの中でののしにくんだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
それでも予定よてい場所ばしょころまでには、すこしはわたくしはらすはってまいりました。『縦令たとえ何事なにごとありともなみだすまい。』——わたくしかたくそう決心けっしんしました。
小田原評定をつづけていた世界連合の臨時緊急会議もようやはらが決まったらしく、テレビジョン偵察の快挙を支持し
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
と、はらの中で叫ぶと——今まで、自分の部屋を出た時から、音を立てぬように、出来ぬ辛抱を、気長にしてきたのが、もう、耐えられなくなってきた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それはもうお前の言ふのはもつともだけれど、お前と阿父おとつさんとはまる気合きあひが違ふのだから、万事考量かんがへが別々で、お前の言ふ事は阿父さんのはらには入らず、ね
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ロパーヒン 最後のはらをきめて頂きたいですな、——時は待っちゃくれません。問題はなんにもありゃしない。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ああとてもあの山は越えられぬとはらの中で悲しみかえっていたが、一度そのこころを起したので日数ひかずの立つうちにはだんだんと人の談話はなしや何かが耳に止まるため
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
米公使デ・ロングのはらとしては、薩長をバックする英公使パークスの鼻をあかすつもりだったには違いない。
黒田清隆の方針 (新字新仮名) / 服部之総(著)
はらの底では、本当に何かの悪事を企らみ、その準備にとりかかっているのだと考えることも不可能ではない。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
すると半之丞は大真面目おおまじめに「あれは今おらが口から出て行っただ」と言ったそうです。自殺と言うことはこの時にもう半之丞のはらにあったのかも知れません。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
馬鹿にして笑っているより、正直にはらを割って相談するほうが、話がはかどる。家屋引渡しの日の、お前たちのうわずったような眼の色をみて、どんなことを
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これは悪くすると、滞在中ずっと降り通すかも知れない、然しその時には又その時のこととはらをきめると、雨の音は落ち着かぬ旅の心をなごやかに静めてくれる。
雨の宿 (新字新仮名) / 岩本素白(著)
口の先では強いことをいっているものの、町役人達も、さすがにはらの中の不安は隠せなかったのであろう。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かれは柳にはらの中を見みすかされたのがはずかしかったのである。だがこのくらいの侮辱はかれに取っては耳なれている。かれはぬすむように柳の顔を見やって
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それであるから、はらでは賭け事をやりたいと思っても、彼はけっして一枚の骨牌をも手にしなかった。
こうして、一夜ばかりでなく、マタ・アリを殿下に付けておいて、ドイツに好感を持たせるように仕向け、その間に、側面から運動しようというドイツのはらだった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
鄭重ていちょうにしてくれるのに気がついたので、寿命のあらん限りは自分の仲間のうちにいようとはらをきめた。
一見、供出するものに同情ある様子ながらも、悪狡わるずるく逃げるものは逃がして置き、その後で絞め上げて見せようというはらも見え、なかなか油断のならぬ方法である。
麦僊氏は割高についただけは、気持で取りかへしたいものだと、精々手足を踏みのばして、乾章魚ほしだこのやうな恰好をして寝台に寝そべつた。そしてはらのなかで思つた。
実際この言葉によって代表される最も適切な意味が彼のはらにあった事はたしかであった。明敏なお延の眼にそれが映った時、彼女の昂奮こうふんはようやくいとめられた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)