しまい)” の例文
そうしてしまいには店が引けると直ぐに帰って参るようになりました。お蔭で意見一つ申上げないのに主人の身持が直ったのでございます
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
で、しまいには、親の世話になるのも自由を拘束されるんだというので、全く其の手を離れて独立独行で勉強しようというつもりになった。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこをヘツリながら登るので、ヘエヅル山の称が起り、しまいに景鶴山となったのであるというのが臆測をたくましうして到達した私の結論である。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しまいには御不興を受けたようであったが、どうぞすべての失礼を許してくれ、母としての自分の切な心をんでくれ、と書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しまいには歯をきしるようなお調子で「お許し下さい! お許し下さい!」と叫ぶのがいかにも異常なので、ツイお傍へ飛んでまいりました。
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
旦那もう帰国けえりますか。この二人は主従と見えたり。「ああしてしまえば東京に用事は無いのだ。今日のしまい汽車で帰国かえるとしようよ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
滅多に手荒なことをしたことのなかった父親をして、しまいにお島の頭髪たぶさつかんで、彼女をそこに捻伏ねじふせてぶちのめすような憤怒を激発せしめた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私も「どうして斯様な女が、そう好いのだろう?」と少し自分でも不思議になって、しまいには浅間しく思うことさえもあった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
春の水に浮んでいる一そうの舟が水上をいで行くと、その水面に起った波動がしまいに岸まで及んで、その岸根をちゃぶちゃぶと打つというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その喰うや喰わずの生活も出来なくなってしまいにまる一日、何も口にしないような日が続いた、そのある日のこと……。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
刻々に黄色な空が減じてしまいには一直線となって、はっきりと地平線から此方こちらを覗き込んでいる。それが厭らしい細長い眼付で笑っているように思われた。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
スヰントンの万国史ばんこくしは中学などで使っているが、あれさえはじめからしまいまでスッカリ分る中学の教師はないと思う。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なんてごまかし込み、い程に挨拶を致し、しまいには何かお遣物つかいものをしよう、何を遣ったら宜かろう、八崎はっさきから幸いい鮎が来たから贈りたいものだと云うので
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こういうことがたびたびあって、しまいには字を書いてくれという人さえ無くなった。そこで日々の暮しにも差支え、ある場合には盗みをしないではいられなくなった。
孔乙己 (新字新仮名) / 魯迅(著)
泣いている内に、頭が熱して来て、しまいには、悲しさも口惜しさもなく、ただ無暗むやみと涙が出て来た。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それを石でコツーンと力に任せて打ちひょろひょろと転げてはまた起ち上って打つ事は幾度か知れません、打ち付けて、しまいに石を投げ附けて、ひょろひょろと元の処へ戻ってきて
おれはちな性分だから、こんな長くて、分りにくい手紙は、五円やるから読んでくれと頼まれても断わるのだが、この時ばかりは真面目まじめになって、はじめからしまいまで読み通した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クシベシは心のうちで、ここへ六俵積んで、それからあそこへ又十俵ばかり積んで、それからどこへ積むのか知らと見ておりますと、俵は六俵積み上げられただけで、それでしまいと見えまして
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
深沢深は幾度かそれを迎え討つように、気違い染みた演奏を続けましたが、しまいには朗々と場内一パイに響き渡るバッハの音楽に圧倒されて、指を休めたままっと聴き入る外はなかったのです。
後の一週間は、子供の側に居るのもこれぎりか、なんと思って復た起きてる……しまいには、半分眠りながら看護をしていましたよ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
後は御存じの通り、空を飛ぶような心持で、足も地につかず、夢中で手を曳合ひきあって駈出かけだした処を、あっと云う間もなく、しまい汽車で刎飛はねとばされた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しまいに工賃の滞っているために、身動きもできなくなって来た職人と、店頭みせさきへ将棋盤などを持出していた小野田の、それにも気乗がしなくなって来ると
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雨が降って外へ出られないから、乃公達おれたちはお父さんの書斎で五目ならべや挾み将棋をして音なしく遊んだ。しまいに清が財産差押ごっこをしようといい出した。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と云われるのが嬉しく思いまして、しげ/\通いましたが、又市も馬鹿でない男でございますから、しまいには癇癪をおこして、藤助とうすけという若者わかいものを呼んで居ります。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
若い者と違って、別段に冷かすなどという風もなく、そういうことにも言い馴れた、という風に、初めからしまいまで同じような句調で、落着き払って、柔らかに言う。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
我より先きにこの道に遊んでいたものは子供で、それは五形花をんで束にして遊んでいたのが、しまいいてかく地上に棄てて去ってしまったものであろうというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
このお温習さらい程私の嫌いな事はなかったが、之をしないと、じきポチをすてると言われるのが辛いので、渋々内へ入って、かたの如く本を取出し、少しばかりおんにょごおんにょごとる。それでおしまいだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しまいには外界の刺戟は鋭く感覚に上って来なくなるのは明かな事実である。
絶望より生ずる文芸 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しまいには子供を召使いに預けて、自分一人で毎日のように出かけて行くようになりました。そうなって来ると、今までは何とも思わなかった自分の美しいと云う評判が、うれしく思われて来たのです。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しまいにはコロボックンクルは泣き出しました。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
そして自らあざけるように笑って、しまいにはもう腹をかかえてころげるほど笑ったかと思うと、悲しげな涙がその後からさめざめと流れた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
乃公がしまいに小刀をほうり出して、つうつうと血のつばきを吐いたら、二人は「ざまあ見やがれ」と言って逃げ出した。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また小児こどもたちも、手毬が下手になったので、しまいまで突き得ないから、自然長いのは半分ほどで消えています。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
作は親のことを言出されると、時々ぽろぽろ涙を流していたものだが、しまいにはえへへと笑って聞いていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
抵当に入れた田地家蔵でんじいえくらは人に取られ、身代限りをして江戸へ来ても馴染がねえから、何をしても損をしたんだよ、貧乏の苦労をするせいか、とうとうしまいに眼はつぶ
と、しまいに怪しんで問うまで、長い間、黙って凝視みつめていた。それ故文句も、一字一句覚えている。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
一つは夜涼みなどをしてしまいに人の寝る位までの間、即ち夕暮から十時乃至ないし十二時位までの間をいうので、次はどことなく白みかけて早や明けかけたという時分、即ち三時から四、五時頃の間
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しまいには盗賊どろぼうだって関わないとまで思った。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
次第に掻口説かきくどくような調子を帯びた。お倉の癖で、枝に枝がさして、しまいには肝心の言おうとすることが対手あいてに分らないほど混雑こんがらかって来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三時少し過ぎなれば、しまい汽車にはまだ時間ひまあり。一度ひとたび病院へ取って返して、病人本間の様子を見舞い、身支度して出直さんと本郷に帰りけるに、早警官等は引取りつ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れは三浦三崎の百姓を斬ると申すので、わたくしも仲へ這入って事柄を聞きますると、斬る程のことでもないゆえ、お色々と扱いますると、しまいにはわたくしをも斬ると申すので
もうきに暑中休暇になる。忠公は夏中は避暑に行くんだそうだ。休暇やすみになって毎日乃公と遊ぶとしまいには何んな怪我をするかも知れないから成る丈け早く海岸へ行くんだと言った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しゅうとめと嫁とが一緒に成って、国の方の話を始めると、きっしまいには両方で泣いて了う。二人は互に顔を合せているのもくるしかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼是あれこれと考えると蝋燭のしんのたつ様で、しまいにゃア桂庵婆けいあんばゞあ追遣おいつかわれるように成るだろうと大抵てえ/\心配さ、愚痴をいうようだがおまえの身がさだまらないではときまりを付けようと思っても
しまいにゃ、き様、お伴をするだろう、かかりつけの医師いしゃはどこだ、とお尋ねなさいましたっけ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日も、親指を出したり、小指を出したり、しまいに額のところへ角をはやす真似をしたりして、世間話を伝えながら笑った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
相応そうおう流行はやって、薬取くすりとりも多いから、手間取てまどるのがじれったさに、始終くので見覚えて、私がその抽斗ひきだしを抜いて五つも六つも薬局の机に並べてる、しまいには、先方さきの手を待たないで
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冗談は大概におしよと云って居りましたら、しまいにはひどく酔って来まして、短かいのを抜いて、いう事を聞かなければ是だとおどし始めましたから、私も勃然むっとして、大概におしなさい
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何とも物は仰いませんでしたけれど、御顔を見ているうちに、美しい朱唇くちびるゆがんで来て、しまい微笑にっこりわらいになって了いました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しまいには増長して家の金を持出して遊びに出て、小瀧に入上いれあげて仕舞いますので、追々借財が出来ましたが、親父は八ヶましいから女房のおくのが内々で亭主の借金の尻をつぐのって置きます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)