みだ)” の例文
と、いろいろな話題を持ち出すのをきっかけに、——礼儀こそみださないが——家長を囲む一家族のように、むつみ合うのが例であった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中世騎士の時代となって各個戦闘となり、戦術はみだれて軍事的にも暗黒時代となった。ルネッサンスは軍事的にも大革命を招来した。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
そのときつぎはぎだらけの垢染あかじみたあわせがぶざまにみだれて、びっくりするほど白いやわらかな内腿うちももしりのほうまでむきだしになった。
お繁 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれども、静かに思いめぐらした時、これらの復員軍人が秩序をみだす行動をする、その奥の奥の原因は果して何処にあるだろうか。
私たちの建設 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
うい傷じゃ、その傷もって天上御政道をみだやからあらば心行くまで打ちらせ、とまでは仰せないが、上将軍家御声がかりの直参傷じきさんきずじゃ。
社会の秩序がみだれた平安朝の中頃以降では、源平武士の棟梁たる程の豪傑が、自ら摂政関白などの家人となって、自家の勢力を扶植する。
分を越えて親を祭るのは、親の靈をして非礼をけしめることになるのじゃ。のみならず、大丈夫の非礼はやがて天下をみだるもとになる。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
独り満州のみならず、全支那もまた同様で、今日の如く秩序がみだれておっては、隣国の災いは直ちに引いて日本に及ぶのである。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
一個々玉をあざむこいしの上を琴の相の手弾く様な音立てゝ、金糸と閃めく日影ひかげみだしてはしり行く水の清さは、まさしく溶けて流るゝ水晶である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
如何いかんとなれば、夫婦すでに配偶の大倫をみだりて先ず不徳の家を成すときは、この家に他の徳義の発生すべき道理あらざればなり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
また逐次投ぜられる資本の諸部分の生産力の間の差違をみだすことなくして、同一の生産物を獲得し得るならば、私は地代を低めるであろう。
かうして見ると、平安宮廷の女房生活を、其等の人の歌詞から推して、みだれきつてゐた様に言ふのは間違ひである。万葉さへさうであつた。
財政のみだれたるは救う日もあるべし。国民の気質が崩れては収拾し得べからず。われ貴国のために深くこれを惜しむ、とあり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
軽蔑が起るのですから、人世と人とを推進せんがため、賞というものがかえって世道人心をみだるの結果ともなるのであります。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
学者といわれて平生へいぜいむつかしい顔をして居る人も、その時はほとんど酒の飲み続けで酔潰れたかのように精神がみだれてしまう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
地方の秩序はみだれに紊れているのだぞ! 都の連中が「あなめでたや、この世のめでたき事には」などとうそぶいて、栄華えいがふけっている間に
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
だから、臣、連など云はれる勢力のある氏の長は、土地人民を私有し、勢力を養ひ、遂に蘇我氏の如く国政をみだすものが生ずるに至つたのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
されども、暗中あんちゅうながら、綸をみだすことも無く、力に従いて相闘いしかば、三十分許りの後には、船頭の助けを得て、沈を手元に引き留むるを得たり。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
畢竟ひっきょう山岳地に於ける森林の美観は、少くとも外見上からは、闊葉針葉の樹帯が整然としてみだれざることを必要とする。
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
さていよいよその庭に至れば甚だ清閑せいかんで従者僕僮ぼくどう一人としてめいたがう者が無い。治者の言、明察にして断なるが故に、その政がみだれないからである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼らは貞操のよく保護される状態で暮しており、挑撥的な観せ物や享楽の魅惑でみだされることはない。姦通は極度に稀であり、売淫に耽るものはない。
彼手燭を持って立ち上がらんとし其のまま取り落したのです、或いは其のとき彼のみだれて居る神経へお紺婆の死に際の顔でも浮かんだかも知れません
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ゆえに目めているとき、つねに高きよいことを思うものは、夢にもまた下品げひんな、みだれたことを見ぬものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
遠くの父母や兄弟の顔が、これまでになくいまわしい陰を帯びて、彼の心をみだした。電報配達夫が恐ろしかった。
過古 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
上中下各階級の人々は互にその同階級の人々と風儀をみだし合っている。同時に上流は下層に、下層は上流に対して、ますますその自由行動の範囲を広めつつある。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
その趣意は、あんな消極的思想は安寧秩序をみだる、あんな衝動生活の叙述は風俗を壊乱するというのであった。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
君臣の別をみだることは、加藤家の問題ではなく、公儀自身に影響する問題であるとともに、黒書院くろしょいんに居流れた人々の、立場は、加藤明成と皆同じであった。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
小菊は心のみだれも見せず、素直に答えた。二人は暗礁に乗りあげたような気持でしばらく相対していた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
解釈に法創造性を認めることは三権分立の政治原則をみだるものだと言うのであるが、かくのごときは
「奥勤めの御女中の右の小指に撥胝ばちだこがあるようでは、御奥も定めてみだれて居りましょうと存じまして」
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
財をみだり民を殺し、法を破り、そうして亡びないというものは、未だ嘗て、私は聞かざるところでございます。自分が知っておってなさるのではなかろうかと思う。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
尤もそれは鼠が風俗をみだすとか、または象に貸金かしきんがあるからといふ為めではなく、鼠の恰好が chacanas といふ小さな動物によくてゐるからださうだ。
彼の生活は急激にみだれて行つた。甘党をもつて任じてゐた彼が、一変して強飲者になつた。奇行が多くなつた。繁夫の耳にとどいただけでも、次のやうなものがあつた。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
それで威張られては農村のしきたりをみだすだけだと、暗に憤りを私の妻にほのめかすことがある。
然りといえども相互に於ける身分の貴賤、貧富の隔壁を超越仕り真に朋友としての交誼を親密ならしめ、しかも起居の礼を失わず談話の節をみださず、質素を旨とし驕奢きょうしゃを排し
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かみとしてもっといましむべきは怠慢たいまん仕打しうち同時どうじもっとつつしむべきは偏頗不正へんばふせい処置しょちである。怠慢たいまんながるるときはしばしば大事だいじをあやまり、不正ふせいながるるときはややもすれば神律しんりつみだす。
天保改革の綱紀も漸くみだれて、当時はもうこんな事をやかましく言う人も無かったのです。
国法をみだすものなりとして、桂昌院は我が子綱吉を殺し、その後自らも害して果てた。
増上寺物語 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
しかるに不起の病にかかって、最早余命いくばくもないのを知りつつも少しもみだれないで
しかりといえども天明年間における田沼意次おきつぐの執政に際しては、幕綱ばっこうちゅうを解き、官紀かんきみだれ、濁政だくせい民を悩ます。加うるに浅間岳の大噴火、諸国大風雨、大飢饉ききんを以てし、庶民生をやすんぜず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
と、当代の男性にとっての理想の女性は脚部の肉色のデコルテをみだして云った。
職業婦人気質 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
かならずしもつとむるとにはあらねど、夫の前にはおのづから気の張ありて、とにかくにさるべくは振舞へどほしいままなる身一箇みひとつとなれば、にはかものう打労うちつかれて、心は整へんすべも知らずみだれに乱るるが常なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
が、なにしろ、いまもお話ししたようなわけで、主義者かぶれで始末に負えない上に、内心、西村さんを快く思ってないもので、なにかにつけて工場の空気をみだして仕方がなかったのです。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
明日をも知れぬ、今のやうな淺ましい身體になつて、自分のきまつた世界といふもののない、みだもつれた神經にでも、昔の折の鮮かな花嫁姿の誇りは、ハツキリと刻み込まれてゐるであらうか。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
社会秩序をみだる何ものかゞひそかに含まれていないでもない。
この握りめし (新字新仮名) / 岸田国士(著)
「軍規をみだり国法を犯した罪も考えねばなりません」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
だがまた秩序のみだれぬ用心に
高札の表に掲げてある一条を犯した以上は、たとえ同郷の者たりとも法をみだすわけにゆかん。首にして街へけるから観念するがよい
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八年まえ、藩主和泉守いずみのかみ信容の叔父に当る丹後信温のぶやすという人が、江戸家老と組んで藩の政治をみだし、危うく幕府の譴責けんせきをかいそうになった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
道徳論も起った。しかし道徳論が起ると、よほど方角の違った論が起る。こういう次第で、今日紀綱がみだれて少しも振わない。
政治趣味の涵養 (新字新仮名) / 大隈重信(著)