筮竹ぜいちく)” の例文
どうせこゝまで来たことだからと、筮竹ぜいちくと天眼鏡を荷厄介にしながら、駿府すんぷまでして見たのだったが、これが少しも商売にならず。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
筮竹ぜいちく算木さんきをつまぐりはじいていましたが、やがて勿体らしく書きしたためた筆答が、また少なからず人を喰ったものばかりでした。
算木さんぎ筮竹ぜいちく、天眼鏡、そうして二、三冊のえきの書物——それらを載せた脚高あしだか見台けんだい、これが店の一切であった。葦簾よしずも天幕も張ってない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
変らないのは、かのしょうづかの婆さんの木像のみで、書棚もしまいこまれてしまったし、算木さんぎ筮竹ぜいちくも取りのけられて見えない。
「べらぼうめ、筮竹ぜいちくなんか背負しょってあるかなくっても、金と米ッ粒はおいらの足のふむところに付いて廻っているじゃねえか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高島呑象どんしょう翁は、筮竹ぜいちくによって財産ができたというのが、大いに人の注意を引いておる。ゆえに家相家も、まず己を富まして後に人に及ぼすべし
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
老人は私の顔を天眼鏡でのぞいて見たり、筮竹ぜいちくをがちゃがちゃいわして見たり、まるで人相見と八卦見はっけみと一しょにやっていましたが、やがてのことに
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その向うには何でも適中あたるという評判の足和尚おしょうさんが、丸々と肥った身体からだに、浴衣がけの大胡座おおあぐら筮竹ぜいちくしゃに構えて、大きな眼玉をいていた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「子の五月三日。さようですか。」と易者はすぐに筮竹ぜいちくって口の中で何かつぶやきながらデスクの上に算木さんぎを並べ、「お年廻りは離中断りちゅうだんの卦に当ります。 ...
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
侍が、去ってしまうと、手を延して、床の間から、算木さんぎの入った、白緞子で包んだ小函と、筮竹ぜいちくの包とを取った。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そこには、小さい組み立ての机、筮竹ぜいちく算木さんぎで暮す、編笠あみがさの下から、白いひげだけ見せた老人が、これから、商売道具を並べ立てようとしているのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
学生時代にすっかりH先生に傾倒してしまったのだ。そこで易などに凝り初めて算木さんぎを寄せたり筮竹ぜいちくなどをジャラジャラやり出した。や、なかなか当るよ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
はい、卜をいたしますが、旦那様、あの筮竹ぜいちくを読んで算木を並べます、ああいうのではございません。二三度何とかいう新聞にも大騒ぎを遣って書きました。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
易者えきしや大道だいだうみせして、徃來わうらいひとうへ一二錢いちにせんうらなふひとと、すこしもちがつた樣子やうすもなく、算木さんぎ色々いろ/\ならべてたり、筮竹ぜいちくんだりかぞへたりしたあと
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
公は不吉なものを見たように眉をしかめ、再び室に入って、気になるままに灯の下で自ら筮竹ぜいちくを取った。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
古い袋から筮竹ぜいちくを取り出して押しいただくこと、法のごとくにそれを数えること、残った数から陰陽を割り出して算木さんぎをならべること、すべて型どおりに行なったあとで
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
易者は筮竹ぜいちくを襟にさし、手に天眼鏡を持ってなにか勿体らしい講釈をしていると、その前にうつむいて熱心に耳を傾けているのは、十八九ぐらいの小綺麗な女であった。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「見てくれ、俺はもうさじを投げたよ。十手捕繩を返上して、筮竹ぜいちくでも買つて來るとしようか」
草履取ぞうりとり木下藤吉郎の人相を占って、の者天下を取ると出たのにおどろき、占いの術のインチキなるにあきれ、その場で筮竹ぜいちくをへし折り算木さんぎを河中に捨て、廃業を宣言したそうであるが
第四次元の男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
其の上に易書えきしょを五六冊積上げ、かたえ筆立ふでたてには短かき筮竹ぜいちくを立て、其の前に丸い小さなすゞりを置き、勇齋はぼんやりと机の前に座しましたさまは、名人かは知らないが、少しも山も飾りもない。
そういうある日、由良はいつものように湯へいくと、いままでそこで一度もみたことのない五十過ぎのまるまると頭を剃ってはいるが、立派な紳士が一人、筮竹ぜいちくを持って岩の上に坐っていた。
馬車 (新字新仮名) / 横光利一(著)
易者、筮竹ぜいちくをひねりて鑑定して曰く、「この子息の病は地主荒神こうじんたたりなり。よろしく宅地を清浄にし、ほこらを建ててまつるべし」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ごぼごぼと、せきの声がする。うどん屋へはずしていた易者の梅掌軒がもどって来て、もう筮竹ぜいちくを鳴らしているのだ。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れ立ったお銀様は、もう経机の前に経かたびらを装うて、算木さんぎ筮竹ぜいちくろうしている女易者の自分でなく、深々と旅寝の夜具に埋もれて所在のない寝姿を
筮竹ぜいちくの長袋をまえ半じゃ、小刀のように挟んで、馬乗提灯うまのりぢょうちんの古びたのに算木をあらわしましたので、黒雲のおっかぶさった、蒸暑いあぜてらし、大手をって参ります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこの和尚おしょうは内職に身の上判断をやるので、薄暗い玄関の次の間に、算木さんぎ筮竹ぜいちくを見るのが常であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これでも堂々とえきの看板をかけておるで、金、銀、米、そのほか、相場の高低を争う、はしッこい町人たちが、慾に瞳が暗んだ折に、よりよりわしの筮竹ぜいちくをたのみにして駆けつけてまいるが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
今度もその白雲堂へ駈けつけて、植疱瘡の一件を占ってもらうと、幸斎という奴が仔細らしく筮竹ぜいちくをひねって、これはまさにいけない。この植疱瘡をすれば、牛になるの、ならないの論ではない。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その左の目の瞳に近く、ポッツリ星がはいっていた。それが変に気味悪かった。黒塗りの見台が置いてあった。算木さんぎ筮竹ぜいちくが載せてあった。その人物が左伝次であった。茶無地の被布を纏っていた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
元来易筮の用は、その右をとるべきか左をとるべきか猶予して決せざる場合に、その判断を天に聴く心得にて、筮竹ぜいちくの上に考うるにあるのじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
父はと見ると、もう一週間ほど前に床を払った一室に机をかまえて、算木さんぎ筮竹ぜいちくをおき、易書などをわきに積んで、その晩も頻りに漢書を読み耽っていた。
あの算木さんぎ筮竹ぜいちくで易を立てて、噛んで含めるように、ていねいにおさとしをしておやりになりましたものですから、それがために救われたものも多分にございました
往来の人の身の上を一二銭でうらなう人と、少しも違った様子もなく、算木さんぎをいろいろに並べて見たり、筮竹ぜいちくんだり数えたりした後で、仔細しさいらしくあごの下のひげを握って何か考えたが
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
元来易筮の用は、その右をとるべきか左をとるべきか猶予して決せざる場合に、その判断を天に聴く心得にて、筮竹ぜいちくの上に考うるにあるのじゃ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
どうせ捨てて行っても、至って惜しくもないガラクタばかり、算木と筮竹ぜいちくさえ風呂敷にして首へ巻いていれば、行く先々に渡世の名目はあろうというもの。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竜之助一行を送り出しておいて、しきりに胸さわぎがしたので、読みかけた本をふせて、丹後守は座右の筮竹ぜいちく算木さんぎとを取ってえきを立ててみました。そうして
もっとも金を払って筮竹ぜいちくの音を聞くほどの熱心はなかったが、散歩のついでに、寒い顔を提灯の光に映した女などが、悄然しょんぼりそこに立っているのを見かけると、この暗い影を未来に投げて
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竹の柱に、八卦はっけ乾坤けんこんを書いた布の囲い、暗い川風にうごいていた。筮竹ぜいちくの前に、易者の姿は見えなかった。——のぞき込んで、ちょっと清吉がぼんやりしていると
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上彼はこの婦人の机の上に、筮竹ぜいちく算木さんぎ天眼鏡てんがんきょうもないのを不思議にながめた。婆さんは机の上に乗っている細長い袋の中からちゃらちゃらと音をさせて、穴のいたぜにを九つ出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竜之助は老人の面を見て頼むとばかりうなずくと、老人は筮竹ぜいちくを取り上げて
そして筮竹ぜいちくをひたいにあてて、祈念三らい、息をつめて、無想境に入ったと思うと、その相貌はまったく人間の肉臭を払って、みるみる聖者のごとき澄みきったものに変った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
机の右にいる男が、右の手に筮竹ぜいちくのような物を持って、時々机の上をたたくと同時に左のてのひら八橋やつはしと云う菓子に似た竹のきれを二つ入れて、それをかちかちと打合せながら、歌の調子を取る。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するうちに、ばしッと筮竹ぜいちくを割り、算木さんぎの表裏をかえして、を現わすやいな
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
エエ、すっかり神易しんえきてました。筮竹ぜいちくはないが宅助の眼易がんえきというやつで。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その判断なら筮竹ぜいちくはいらない。梅花堂流の心易しんえきで、ちょッとこう胸に算木を置いてみるならば……ウムと……山天大畜さんてんたいちくの二爻変こうへん、浅き水に舟をやるのかたち——君子徳を養うのこころというところだ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、筮竹ぜいちくを袋に入れかけた時である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)