わらわ)” の例文
それをのぞいてわらわが後ろの建物のほうへ来て、『右近うこんさん、早くのぞいてごらんなさい、中将さんが通りをいらっしゃいます』
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
法皇になろうとは思うが坊主になるのは面白くない、主上になろうと思うがわらわになるのは困る。どうじゃ、それなら関白になろうと思うが
あしたよりゆうべに至るまで、腕車くるま地車じぐるまなど一輌もぎるはあらず。美しきおもいもの、富みたる寡婦やもめ、おとなしきわらわなど、夢おだやかに日を送りぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わらわの小雪というのが眼をさましてかわやへ立った。彼女は紙燭しそくをともして長い廊下を伝ってゆくと、紙燭の火は風もないのにふっと消えた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わらわかとすれば年老いてそのかおにあらず、法師かと思えばまた髪はそらざまにあがりて白髪はくはつ多し。よろずのちり藻屑もくずのつきたれども打ち払わず。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ゲンゲンの花太きたばにこしらえて自ら手に持ちたらんも、何となくめめしく恥かしくてちひさき女のわらわにやりたるも嬉し。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
食べ物を野天でこしらえるということは、大人でも興味を持つほどの珍しい事件なのに、ましてやこれに携わった者がいつの世からともなくわらわであった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして、その物語では女は二階堂左衛門尉政宣にかいどうさえもんのじょうまさのぶ息女そくじょ弥子いやことなり、政宣が京都の乱に打死うちじにして家が衰えたので、わらわ万寿寺ばんじゅじほとりに住んでいると荻原に云った。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この時、わらわふすまを引かせて、茶碗を目八分に捧げて入って来たのは、峠宗寿軒の娘お小夜です。
女のわらわさえ、黄金瓶きんびんに、銀の盃を二つ添えたのを、そこに差し置いたまま去ってしまった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
おれは娘の病気の平癒へいゆを祈るために、ゆうべここに参籠さんろうした。すると夢にお告げがあった。左の格子こうしに寝ているわらわがよい守本尊を持っている。それを借りて拝ませいということじゃ。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一年ばかりのあとには、女のもとにはもう幼いわらわが一人しか残っていなかった。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「義朝、義平、そのほかを皆斬っていながら、なぜあのわらわ一人を助けたか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長い廊を、数人のわらわが続いて来る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
大将軍範頼が義経にこれを伝えたので、院へ伺いを立てて助命を請われたところ、院の御所の公卿殿上人を始め、局の女房、わらわにいたるまで
とばかりありて、仮花道に乱れ敷き、支え懸けたる、見物の男女なんにょ袖肱そでひじの込合うたる中をば、飛び、飛び、小走こばしりわらわ一人、しのぶと言うなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨年の秋鳥部寺とりべでら賓頭盧びんずるうしろの山に、物詣ものもうでに来たらしい女房が一人、わらわと一しょに殺されていたのは、こいつの仕業しわざだとか申して居りました。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大臣家で生まれた若君は馬に乗せられていて、一班ずつをそろえの衣裳いしょうにした幾班かの馬添いわらわがつけられてある。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
二十ばかりと見える美人が十四五ばかりのわらわに美しき牡丹花ぼたんのはなの燈籠を持たして来たので、魂飛び心浮かれてあとになりさきになりしていて往くと、女の方から声をかけたので
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
木戸のかたわら、竹垣の内に一むらの山吹あり。この山吹もとは隣なるわらわの四、五年前に一寸ばかりの苗を持ち来て戯れに植ゑ置きしものなるが今ははや縄もてつがぬるほどになりぬ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「なお不審なのは、うまやに馬もいず、女房方やわらわまで見えません」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「買うて来た子供はそれか。いつも買うやっこと違うて、何に使うてよいかわからぬ、珍らしい子供じゃというから、わざわざ連れて来させてみれば、色のあおざめた、か細いわらわどもじゃ。何に使うてよいかは、わしにもわからぬ」
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
作者は、くわしく知らないが、これは事実ださうである。わらわの影もない。比野卿の御館みたちうちに、此の時卿を迎ふるのは、ただ此のかたたちのみであつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
向こうでは上手じょうずに隠せていると思いまして私が訪ねて行ってる時などに、女のわらわなどがうっかり言葉をすべらしたりいたしますと、いろいろに言い紛らしまして
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そのえんなのが、わらわを従えた風で、やっこたたずむ。……汀に寄って……流木ながれぎめいた板が一枚、ぶくぶくと浮いて、苔塗こけまみれに生簀いけすふたのように見えるのがあった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左大臣の七男がわらわの姿でしょうの笛を吹いたのが珍しくおもしろかったので帝から御衣を賜わった。大臣は階下で舞踏の礼をした。もう夜明け近くなってから帝は常の御殿へお帰りになった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
雪洞ぼんぼり真中まんなかを、蝶々のようにと抜けて、切禿きりかむろうさぎの顔した、わらわが、袖にせて捧げて来た。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みだれし風采とりなり恥かしや、早これまでと思うらん。落した手毬を、わらわの、拾って抱くのも顧みず、よろよろとたちかかった、蚊帳に姿を引寄せられ、つまのこぼれた立姿。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立花がいたずらに、黒白あやめも分かず焦りもだえた時にあらしめば、たちまち驚いて倒れたであろう、一間ばかり前途ゆくての路に、たもといて、厚いふきかかとにかさねた、二人、同一おなじ扮装いでたちわらわ
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何、牛に乗らないだけの仙家せんかわらわ指示しめしである……もっと山高く、草深く分入わけいればだけれども、それにはこの陽気だ、蛇体じゃたいという障碍しょうげがあって、望むものの方に、苦行くぎょうが足りない。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時打向うた卓子テエブルの上へ、わらわは、そっくだんの将棋盤を据えて、そのまま、陽炎かげろうもつるるよりも、身軽に前後して樹の蔭にかくれたが、枝折戸しおりどを開いた侍女こしもとは、二人とも立花の背後うしろ
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人を先に、亀姫、薄とわらわ等、皆行く。五人の侍女と朱の盤あり。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)