立竦たちすく)” の例文
慌てて羽根布団をマクリ上げて下を覗いて見た私は、アッと叫んで立竦たちすくんだ。羽根布団の下は真赤な血に染ったシーツばかりである。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かれ立竦たちすくみになりてぶるぶると震えたるが、鮮血なまちたらたらと頬に流れつ、いだきたるお藤をどうと投落して、屏風びょうぶのごとく倒れたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と鬼をあざむく文治もそゞろに愛憐あいれんの涙に暮れて、お町をかゝえたまゝ暫く立竦たちすくんで居りまする。お町はようやく気も落着いたと見えまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かく言争ひつつ、行くにもあらねど留るにもあらぬ貫一に引添ひて、不知不識しらずしらず其方そなたに歩ませられし満枝は、やにはに立竦たちすくみて声を揚げつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我家といえども親がかり、毎夜のこととなると、そうそうおおっぴらにたたき起す気力がなくなって、立竦たちすくむことが多かった。
両側の店屋てんやはどこも大戸をおろしているので、いざという場合にも駈け込むところがない。かれはそこに立竦たちすくんでしまった。
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と平野氏は見るなり其場へ立竦たちすくんだが、祐吉はさすが医学生だけに、直ぐ走寄って抱起だきおこした。すると男は、息も絶え絶えに
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
与兵衛はかう言つた後で、思はずも南無阿弥陀仏なむあみだぶつ々々々々々々と言ひました。そして川原に立竦たちすくんだまゝ、ぢつとその樫の木をながめて居ました。
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
こんなに明るい光の下に、ハッキリと彼の姿を見たことは、いまだかつて一度もなかった。突撃隊の勇士の面々もジッとしてその場に立竦たちすくんだ。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしがわが家の門へ一歩入ると、そこへ飛出して来た妻のお艶の顔を見てわたしは立竦たちすくんだ。その顔は狂人のそれのように表情が壊れていた。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は、恐れと意外にガタガタ顫えながら暫く立竦たちすくんでしまったが、必死の思いで気をとり直すと、屈みこんで恐る恐る足元の及川の体に触ってみた。
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
馬上の両人は弾丸に驚いた七兵衛が、立竦たちすくんでしまうだろうと予期していたところを、彼は驚くべき敏捷びんしょうさで林の中へ身を投げ込んでしまったから
而して、物を言わずに其処に立竦たちすくんでしまった。もう、気力が衰えて、がっかりとしてしまったのである。老婆は、怖れと、寒さに自分もふるえていた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
不意のちん入者に彼女は度を失って、少時しばらく言葉もなく立竦たちすくんでいたが、相手の二人が救助に来たのであると知ると
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
彌八がお富に散々うらみを言はれてゐるところへ出つくはし、ハツと驚いて立竦たちすくんだところをお富に見付けられ、いきなり物置の中に押し込められたといふのです。
そのたびに彼は思わず立竦たちすくんだ。如何どうしても落ちずにはまぬらいの鳴り様である。何時落ちるかも知れぬと最初思うた彼は、屹度きっと落ちると覚期かくごせねばならなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私はそんな幻を描いて、脇の下に冷汗を流しながら、立竦たちすくんでいたのだが、意外なことには、丈五郎は、その鬼瓦を抱えたまま、屋根の向側へおりて行ってしまった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
恐怖に満ちて一寸立竦たちすくみ、敷藁をくぐって先達の婦の膝の間を抜けようとしたのだ。婦はアレレと悲鳴を上げた。元三はうふふ、うふふと今度は婦の方へ飛びかかった。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
が、父の顔を一目見たとき、彼女はハッと立竦たちすくんでしまった。容易ならぬ大事が、父の身辺に起ったことが、ぐそれと分った。父の顔は、土のように暗くあおざめていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
浴びた飛沫しぶきに身振いしながら、三名の郷士は、お通を囲んで、浅い河の瀬に立竦たちすくんでしまった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は立ちながら、次のへや浴衣ゆかたを畳んでいた母の方をちょっと顧て、思わず立竦たちすくんだ。母の眼つきは先刻さっきからたった一人でそっと我々を観察していたとしか見えなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
立竦たちすくんで息を殺して聞いて見ました。奥様はこんなことを旦那様に御話しなさるのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
道傍みちばた立竦たちすくんだお島は、悪戯いたずらな男の手を振払って、笑いながら、さっさと歩きだした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「——」望月は眼をぱちくりさせて立竦たちすくんだ。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
兵は丘を降りかけて思わず立竦たちすくんだ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
三好は、あんまり意外千万な人間の姿を見てビックリしたらしく立竦たちすくんだ。……コンナ人間がこの霜朝に汽車に乗ってどこへ行くのだろう。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四万六千日の日で、境内は参詣さんけいの人たちでいっぱいだったが、念仏堂の脇の人混みの中で、二人は真正面から出会い、お互いを認めて立竦たちすくんだ。
若い男は女をみると、一時立竦たちすくむようにとまり、まさ眼には見られないが、しかし身体中から何かを吸出されるように、見ないわけにはゆかないといった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あとは途ぎれてことばなきに、お通はあるにもあられぬ思い、思わずって駈出かけいでしが、肩肱いかめしく構えたる、伝内を一目見て、あおくなりて立竦たちすくみぬ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「………」男は呆気にとられ瞬間黙ったまま立竦たちすくんでいたが、意外にも、すぐに強く首を横に振りながら
石塀幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ひょいと押入から出て来た銭形の平次、何心なく行灯の灯の中に、女と顔を見合せて立竦たちすくみました。
はっ——と立竦たちすくみに、日吉はすぐ、それが弾正と知ったので、日吉でございますと答えた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泉原は唖然として暫時しばらく路傍に立竦たちすくんでいた。V停車場で見かけたのは確かにグヰンである。それにしてもグヰンは何故なにゆえに都の避暑客の集っているこのマーゲートへきたのであろう。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
かわいそうに米友も、畜類を相手にして立竦たちすくんでしまわねばならなくなりました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
にはかきびすかへして急げば、行路ゆくての雲間にふさがりて、咄々とつとつ何等なんらの物か、とまづおどろかさるる異形いぎよう屏風巌びようぶいは、地を抜く何百じよう見挙みあぐる絶頂には、はらはら松もあやふ立竦たちすくみ、幹竹割からたけわり割放さきはなしたる断面は
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
爆弾下の帝都市民は、その場に立竦たちすくんでしまった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
台所にいた召使たちはみな立竦たちすくんで、息をのんだ。この令嬢は怒ると容赦がない、がんがんがんと、それこそ父の右衛門以上に荒れるのである。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は思わず立竦たちすくんだ。そういう正木博士の態度の中には、私を押え付けて動かさない或る力が満ち満ちていた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたくしは立竦たちすくみます。どうしたらいゝでしょう。だが気を静めて聞き澄すと、その声は極めて自然であり、何の底意もあるらしくないのを発見いたします。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
白い長いその布が、暴れながらも段々ほどけて、下から……顎……鼻……頬……眼! と、いままで博士の後ろで立竦たちすくんでいた宇吉が、肝をつぶしたように叫んだ。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ところが、幽霊は大嫌否きらいさ。「弁慶も女は嫌否かッ。「宮本無三四むさしらいに恐れて震えたという。「遠山喜六という先生は、蛙を見ると立竦たちすくみになったとしてある。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひよいと押入から出て來た錢形の平次、何心なく行燈の灯の中に、女と顏を見合せて立竦たちすくみました。
「おお!」人々は、呆然ぼうぜんと、其の場に、立竦たちすくんだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、小屋の戸口へいったとき、その中から異様なうめき声が聞えて来るので、われ知らずぞっとして立竦たちすくんだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
不思議なことにお秀の姿を見ると花田は山椒の葉を毟る手を止めて、そのまゝ固められたかのように立竦たちすくんでしまいました。花田は若い女殊にお秀は苦手です。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
吉三郎はお浜から事件の概略を聞いたらしく、平次の前に立竦たちすくんだ顔は、不安にふるえておりました。
顫える指先で盛んに顳顬こめかみのあたりをトントンと軽く叩きながら、塑像のように立竦たちすくんでしまった。
石塀幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
お春の頬に取着とりつくにぞ、あと叫びて立竦たちすくめる、咽喉のんどを伝ひ胸に入り、腹よりせな這廻はひまはれば、声をも立てず身をもだ虚空こくうつかみてくるしみしが、はたとたふれて前後を失ひけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すると、小屋の戸口へいったとき、その中から異様なうめき声が聞えて来るので、われ知らずぞっとして立竦たちすくんだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
無意志で歩いているかの女も、さすがにときどきは人に肩をかれ、またぱったり出会って同じけ方をして立竦たちすくみ合う逆コースを、だんだん煩わしく感じて来た。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)