知人しりびと)” の例文
いや、直接じかに会ったのではないようだが、知人しりびとの誰かに似ていたから間違えたんだ。こう決めてしまって、そのことは頭から遠ざけた。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「俺はこちらに縁辺もなし、訪ねてやる知人しりびととてもない。ま、留守は俺がしているから、今夜が最後だ、何方いずかたへなりとも行ってこられい」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
知らず、その老女ろうによは何者、狂か、あらざるか、合力ごうりよくか、物売か、はたあるじ知人しりびとか、正体のあらはるべき時はかかるうちにも一分時毎にちかづくなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ここへ着いてからは父の知人しりびとが手伝いの夫婦をよこしてくれて、自分等は御客さまのようなものであったと書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
知人しりびとひでもすると、あをくなり、あかくなりして、那麼あんな弱者共よわいものどもころすなどと、是程これほどにくむべき罪惡ざいあくいなど、つてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
……でも、先生の知人しりびとのお大尽が、婚礼に使うんだから是非にと、先生も頼まれちゃったというんだよ。弱ッたもんだな
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「奉公しようと思って、家を飛び出してまいりましたが、知人しりびとがありませんから、困っておるところでございます」
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
こっちは八坂寺やさかでらを出ると、町家ちょうかの多い所は、さすがに気がさしたと見えて、五条京極きょうごく辺の知人しりびとの家をたずねました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
知人しりびとでない事は分かつてゐる。ヤクツク人はこんなに遅くなつて村に来る筈がない。よしやそれが来たところで、同じ種族のものの所へ寄るに違ひない。
母親が、二、三日前から余所よそへ手伝いに行っていることが、伯母の話で解った。その家が、近所の知人しりびとのまた知人しりびとの書生の新世帯であることも話された。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
立出し頃は享保十六年十一月なりしが三吉は種々しゆ/″\工夫して本所ほんじよ柳原まちつき屋の權兵衞といふ者あり此者はかね知人しりびとなる故是をたのみて欺かばやと思ひ常盤橋御門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
都会にあこがれて、両親の言うことをきかず、東京市内の知人しりびとをたよって家を飛出とびだし、高輪たかなわある屋敷へ女中奉公に住込すみこんだ。それは年号の変る年の春ごろであった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ようやく人買いの眼をくらませ、夢中でここまで逃げては来ましたが、知人しりびとはなしたくわえもなし、うろうろ徘徊さまよっておりますうちには乞食非人にちようとも知れず
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
知人しりびとにはあらざれど、はじめて逢いし方とは思わず、さりや、誰にかあるらむとつくづくみまもりぬ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今井の宅には洋燈ランプもついてほかに知人しりびともひとりおった。上がってからおよそ十五、六分も過ぎたと思う時分に、あわただしき迎えのものは、長女とお手伝いであった。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
……知人しりびとの家が火元に近いと飛び込んで見舞いの言葉を述べる。一層近ければ手伝いをする。
あんたの知人しりびとでなくするかね——たとへば、あの人をこの世から消してしまふかな?
東京から引越ひっこし当座とうざの彼等がざまは、笑止しょうしなものであった。昨今の知り合いの石山さんをのぞく外知人しりびととてはもとよりなく、何が何処にあるやら、れを如何どうするものやら、何角なにかの様子は一切からず。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
年の暮に弟の友達と自分の知人しりびとを新年の歌留多会へ招待することを姉弟して相談した上で客の顔振かおぶれも確定したのだけ記してあったが、僕は善太郎の学友の名を暗記しておいた、彼女かれは義父の圧迫や
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
「万年橋の水車で……あそこに知人しりびとでもあるのかな」
『それにしては、おかしいじゃないか。飛脚のように、何かお取次へ渡してすぐ行ってしまった。その吉右衛門というのは、斎田さんの知人しりびとかね』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「所が」おきな大仰おおぎょうに首を振って、「その知人しりびとの家に居りますと、急に往来の人通りがはげしくなって、あれを見い、あれを見いと、ののしり合う声が聞えます。 ...
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
若い細君を迎えてかまどを持った人だ。しばらく高瀬は畠側の石に腰掛けて、その知人しりびとの畠を打つのを見ていた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
知人しりびとにはあらざれど、はじめて逢ひしかたとは思はず、さりや、たれにかあるらむとつくづくみまもりぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「玉ちゃん。どうしたえ。」と中島は男の知人しりびとでないところから案外落ちついた調子でその様子を見た。年は二十七、八。既成品らしい紫地のコートにありふれた毛織の肩掛。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「実はわたくしは、この村で知人しりびとに逢つたのです。もう何もかも棄てゝしまひます。御覧なさい。あの青に乗つてゐる韃靼人がそです。『おい/\。アハメツトや。ちよつと来い』。」
わしは三年前に妻室かないに死なれて、親類や知人しりびとから後妻を勧められたが、小供に可哀そうじゃからと、どれもこれもことわって今日まで来たが、お前がわしの家に手伝いに来てくれてから
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
とおりあるきながらもそうおもわれまいと微笑びしょうしながらったり、知人しりびといでもすると、あおくなり、あかくなりして、あんな弱者共よわいものどもころすなどと、これほどにくむべき罪悪ざいあくいなど、っている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「お前は、この御城内に知人しりびとがおありかえ」
ある知人しりびとに頼んで必要な家具は買戻して貰ったこと——執達吏——高利貸——古道具屋——その他生活のみじめさを思わせるような言葉がこの娘の口から出た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いや、もう年を取りました。知人しりびとは皆二代、また孫のじゃ。……しかし立派に御成人じゃな。」
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その、今村要人かなめの子お袖が、五ツの折、大病をわずらい、医者にも見はなされたとき——ある知人しりびとが、そのやまいには、燕の黒焼しかなおす薬はないと、教えられたのです。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうなるからは誰ぞ公辺こうへん知人しりびとを頼り内々ないない事情を聞くにくはないとかね芝居町しばいまちなぞではことほか懇意にした遠山金四郎とおやまきんしろうという旗本の放蕩児ほうとうじが、いつか家督をついで左衛門尉景元さえもんのじょうかげもとと名乗り
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其の日の活計くらしにも困るようになりましたから、私は従来これまでの恩がえしに、身を売りたいと思いましたが、義理堅い伯父故、知らしては許可ゆるしませんから、こっそり知人しりびとに相談しておりますと
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
実際己はワシリといふ男の事を、知人しりびとから少し聞き込んでゐる。ワシリはこの辺に移住してゐる流浪人仲間の一人である。ヤクツク領の内で、大ぶ大きい部落の小家こいへに二年程前から住つてゐる。
「近いところに知人しりびとがあって」
「誰だ? おまえの知人しりびとだろう。あれにいる若衆すがたの武者修行は。……え、誰だ、いったい?」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お雪が持って来た写真の中には、女の友達ばかりでなく、男の知人しりびとから貰ったのも有った。名だけ三吉も聞いたことの有る人のもあり、全く知らない青年の面影おもかげもあった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とてもこの世では添われぬ縁ゆえ一先ひとまずわが親里の知人しりびとをたより其処そこまで落延びてから心安く未来の冥加みょうがを祈り、共々にあの世へ旅立つという事の次第がこまごまと物哀れに書いてあった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのうちに私のような者でも妻室かないにしてくれる者があるなら、縁づきたいと思いまして、昨日江戸へ出て来ましたが、他に知人しりびともないので、困っておりますうちに、持病の眩暈めまいが起りまして
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あたりの知人しりびと、客筋、のきかえりの報謝に活きて、世を終った、手振坊主の次郎庵と、カチン(講釈師の木のうまい処)後にその名を残した、というのと、次男の才子の容体が、妙に似ている。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『とにかく、先程さきほどのお話の件だが……路傍みちばたでは人に怪しまれようし。……そうそう、蒟蒻島こんにゃくじま知人しりびとが、出合茶屋であいぢゃやをかねた船宿をしておるから、そこ迄、お越し下さらぬか』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
森彦にもわせた。三吉は更に、妻の友達にも、と思って、二人の婦人おんな知人しりびとを紹介しようとした。お雪も逢ってみたいと言う。で、順にそういう人達の家を訪問することにした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小梅こうめの里の知人しりびとの家にその日を送っている始末。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「されば、もとよりその夜の意趣遺恨いしゅいこんではなく、拙者の知人しりびとである銀五郎と、ほか一名の者が、故なくして、方々かたがたに捕われたと聞き、お下げ渡しを願いに出たのでござる」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世帯を持って初めての朝、味噌汁みそしるも粗末なわんのんだ。お雪が生家さと知人しりびとから祝ってくれたもので、荷物の中へ入れて持って来た黒塗の箸箱はしばこなどは、この食卓に向きそうも無かった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「やかましくッても、見ちゃいられねえもの。爺さん、鞍馬の知人しりびとへ、竿を届けるのかい」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よしよし、すぐ戻って来るよ。……もし光悦どのが訊ねたら、蓮華王院れんげおういんの近所まで、知人しりびとに会うために中座しましたが、間もなく帰ってくるつもりですといって出たと伝えてくれ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは、驚いた。お菊、その男は、おまえの知人しりびとか」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんじゃ、知人しりびとじゃと」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)