真平まっぴら)” の例文
旧字:眞平
……そういう訳で学問は辛いものだという観念があるから、学校を卒業すればもう学問は御免だ、真平まっぴら御免をこうむりたいという考が起る。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「だって、人が折角誘うのに、どうせ何かで時間をつぶすのだからって挨拶があるものですか。時間つぶしの相手なんか真平まっぴらよ。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あんな人と一緒に泊るのは真平まっぴらだわ。あたしも商売で、今まで色々の人にも出逢ったけれど、あんな凄い人をただの一度も見たことがない。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「私は風邪ぐらいなら我慢しますが、それ以上の病気は真平まっぴらです。先生だって同じ事でしょう。試みにやってご覧になるとよくわかります」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
氷砂糖などをしゃぶりつつ、出発の用意全く出来上ったが、ここに困った事には、例の剛力先生、今日のお伴は真平まっぴらだといい出した一件で
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
真平まっぴらですわ——あんな恐ろしい化竜ドラゴンに近づくなんて。だって、お考え遊ばせな。たとえば私が、その人物の名を指摘したといたしましょう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼らは、他人の命の事などさして気にもとめていないが、自分にとっては大切な生命、そうやすやすと殺されるのは真平まっぴらだ。
“これで鉱山主や大佐の金儲けのために、あの子供達を脅して、まだ追い使うつもりなのか? 俺アそんなこたア真平まっぴらだッ”
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「動坂のお母さんみたいに、情熱なんて、私は真平まっぴらごめんだ。こまやかさがなくて、人間、どこにいいところがあるんだ」
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
きん「はーい何卒どうぞ真平まっぴら御免遊ばして、何うぞ御勘弁遊ばして、御新造様がお悪いのではございません、皆きんが悪いのでございますから何うぞ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ええ。あの人このごろますますあれだもんだから、手の美しいのなんか真平まっぴらだというのよ。労働者のようにかたくならなくちゃ駄目なんだって。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「へい、真平まっぴら御免なさい。少々どうぞ。」と豆府屋おずおず、群集を分けてらんとすれば、比々としてならべる車につかえて、台を担うて歩むべからず。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真平まっぴらじゃ。うっかりそちの口車なぞに乗ったら、この兄の身体、骨と皮ばかりになろうわ。さぞかし手きびしく当てつけることであろうからな。わッはは。
これは架空の話だから御差し合いの方には真平まっぴら御免下さいであるが、田中という人物が唾棄すべき悪党であったり、林という美人が自動車にき潰されたり
創作人物の名前について (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうだくたばって了うのだ! ……くたばる! くたばる? へくたばり遊ばすのだ! おお、いやな事だ真平まっぴらだ! ——死ぬのが厭なら食わなけりゃならねえ。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お声をかけましたが、一向ご返事がないので、失礼をわきまえず押して通りました。真平まっぴらご免くださいまし。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
⦅いや、もう真平まっぴらだよ!⦆とチチコフは馬車の中へ乗りこみながら独り呟やいた。⦅死んだ農奴一人に二ルーブリ半ずつもふんだくりやがって、忌々しい握り屋め!⦆
、正直に、や、もう真平まっぴらとでもいおうものなら、それ、また一票フイとなる。ポロリポロリと涙がながれる。そこへもって来て、お隣りへ廻ると、またお砂糖。親父を
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「俺にそんなところへ入れという話なら、真平まっぴら」とまたおげんが言った。「俺はそんな病人ではないで。何だかそんなところへ行くと余計に悪くなるような気がするで」
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
カルーソーは少し歌い過ぎるけれども、「いや道化どうけはもう真平まっぴらだ」などの悲壮味は比類もない。
奉書到来と云う儀式で、夜中やちゅう差紙さしがみが来たが、真平まっぴら御免だ、私は病気で御座ござるといって取合わない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「不承知か、困ッたもんだネ。それじゃ宜ろしい、こうしよう、我輩が謝まろう。全くそうした深いかんがえが有ッて云ッた訳じゃないから、お気に障ッたら真平まっぴら御免下さい。それでよかろう」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
自動車でのり込むと云やあ大層外聞はいゝけれど私なんかまあ真平まっぴらですね。
監獄挿話 面会人控所 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
ともはわざわざ休暇きゅうかって、かく自分じぶんとも出発しゅっぱつしたのではいか。ふか友情ゆうじょうによってではいか、親切しんせつなのではいか。しかしじつにこれほど有難迷惑ありがためいわくのことがまたとあろうか。降参こうさんだ、真平まっぴらだ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
墓地とはまた窮したね。成程あの墓地は気が利いていた。しかし僕はどちらかと云えば、大理石の十字架の下より、土饅頭どまんじゅうの下に横になっていたい。いわんや怪しげな天使なぞの彫刻の下は真平まっぴら御免だ。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
胃吉驚き「オヤオヤ何か来たぜ、妙なものが。ウムお屠蘇とそだ。モミの布片きれへ包んで味淋みりんへ浸してあるからモミの染色そめいろ一所いっしょに流れて来た。腸蔵さんすぐにそっちへ廻してげるよ」腸蔵「イヤ真平まっぴらだ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
日本人の奴隷どれいになって虐待ぎゃくたいされるのは真平まっぴらだが、白人や黒人に使われるなら一向構わない。桑港サンフランシスコあたりのチャブ屋のボーイになるのもいゝ。アフリカの熱帯地へ行って、酋長の娘に仕えるのもいゝ。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「洋楽は真平まっぴら御免だ!」といって応じなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
非常呼集なんて勿体つけるなあ真平まっぴら御免よ
動員令 (新字新仮名) / 波立一(著)
「いやいや、それは真平まっぴらです」
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
真平まっぴらです」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
主人は事もなげに「君に捧げてやろうか」と聴くと迷亭は「真平まっぴらだ」と答えたぎり、先刻さっき細君に見せびらかしたはさみをちょきちょき云わして爪をとっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
△「へえ………誠にどうも、くれえ酔って居まして大きに不調法を致しました、真平まっぴら御免なさいまし」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「造兵のあまっちょの処へ行っちまうがいいや、飲んだくれの間抜けなんか私は真平まっぴらだよ。」
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
真平まっぴら」とお倉は痩細やせほそった身体を震わせた。「宗さんと一緒に住むのは、死んでも御免だ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「……イ……イ……嫌です。……ま……真平まっぴら御免です。……ゼゼ……絶対にお断りします」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
真平まっぴら御免なさい、先方さき小児こどもなんです。ごく内気そうな、半襟の新しいが目立つほど、しみッたれたあわれ服装みなり、高慢にくしをさしてるのがみじめでね、どう見ても女中なんですが。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「じゃ、君一人で飲んで行くさ。僕はいくらおごられても真平まっぴらだ。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、真平まっぴらだ」と云って兄は苦笑いをした。そうして大きな腹にぶら下がっている金鎖を指の先でいじくった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其の方に逢うにも、お前さんがこの迷子札を証拠に云えば知れます、アヽもう何も云う事は有りませんが、たゞ馬鹿野郎などと悪態をきました事は何卒どうぞ真平まっぴら御免なすって
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いえもし二分が一分でも無銭ただろうとおっしゃりましても切符は真平まっぴらでござるよ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「……ヘヘイ。只今はどうも……飛んだ失礼を……真平まっぴら、御免下されまして……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「どっちも真平まっぴらだ。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ことに語学とか文学とか云うものは真平まっぴらめんだ。新体詩などと来ては二十行あるうちで一行も分らない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伴「うたぐるなら明日あしたの晩手前てめえが出て挨拶をしろ、おれ真平まっぴらだ、戸棚にへいって隠れていらア」
ついでにお茶請の御註文が、——栄太楼の金鍔きんつばか、羊羹ようかん真平まっぴらだ。芝の太々餅だいだいもちかんばしくって歯につかず、ちょいといいけれど、みちが遠いから気の毒だ。岡野のもなかにて御不承なさるか。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ブルブル。真平まっぴらだ。危ねえ思いするより、この方が楽だあネエ旦那ア……」
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あるくのは、真平まっぴらだ。これからすぐ電車へ乗って帰えらないと午食ひるめしを食いそくなう」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お嬢さま真平まっぴら御免なすって下さいまし、実は悪い事は出来ないもんでございます、たちまちのうちに悪事が我子わがこに報いました、斯う覿面てきめんばちの当るというのは実に恐ろしい事でございます
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「へい、夫人おくさま真平まっぴら御免下さりまし、へい、唯今ただいまは。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)