とっ)” の例文
「何か書いてごらんなさるがいい。紙や筆ぐらいは入れてあげますよ。おとっさんの気が晴れるようになさるのが何よりですからね。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これを見ても彼のおとっつあんが彼を十分に可愛がっていることはわかるのだが、彼が死なないようにというので、神や仏にがんをかけて
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「おまえのこころざしは、よくおとっさんにとどいたとおもいます。もうろうそくがなくなったから、さあやすみましょう。」と、母親ははおやはいいました。
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
「坊様。あんたあおとっさまとおっさまと夜何をするか知っておりんさるかあ。あんたあ寐坊ねぼうじゃけえ知りんさるまあ。あははは」
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして私と清ちゃんが年も背丈も誰よりも小さかった。柳屋の姉弟きょうだいにはおっかさんがなく病身のおとっさんが、いつでも奥でせきをしていた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「子供の時から知ってる人で、前からあたいを貰いたいッて言ってたの——月給は四十円でも、おとっさんの家がいいんだから——」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
あの時お前のおとっさんは、お前の遣場やりばに困って、阿母おっかさんへのつらあてに川へでも棄ててしまおうかと思ったくらいだったと云う話だよ。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
というのは、ラ・フーイエットおとっつあん(たるのお父つあん)はその綽名あだなにしごく相当していて、月に二、三回は酔っ払っていた。
政「長さん、珍しく今夜は御機嫌だねえ…お前さんの居る所が知れないと云って、おとっさんやみんな何様どんなに心配をしていたか知れないよ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「じゃあおめえは、両親ふたおやを持っているかね。——ほんとのとっつァんを知ってるけえ? おめえを生んだおッさんはどこにいる?」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門附けをやめてしまった人々の名をあげてしまいに「いつまででも芸だの胡弓だのいってるのはおとっつあん一人だよ。人が馬鹿だというよ」
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
一生に一度という約束を果してしまったから、おとっさんも二度とおまえを救っては下さるまい。これからはそのつもりで用心しろと言った。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とっさんはあの通りのきかん気で、身体からだが言うことをきかないくせに、八丁堀の旦那方に小言を言われると、ツイ請合って帰ったのだそうです。
「鍛冶屋さんは知るまいが、わしは昔この辺に来たことがあるから、お前さんの家も好く知っておる、おとっさんもおっかさんも、まだに達者かな」
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「おッとッとッと。とっつぁん、そいつァいけねえ。おいらがわるいようにしねえから、おめえはそっちにんでるがいい」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ない、にんじん? うちのおとっつぁんが川へ網をかけてるんだ。手伝いに行こう。そいで、僕たちは笊でオタマジャクシをしゃくおうよ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「ハイ、おとっさんが川から助けてきて、それからずっと、わたしの家の裏座敷に、寝たり起きたりしていらっしゃいます」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とっちゃん! なんとかして医者を呼ぼうかね? なんならだれかに頼んで、いっそのこと避病院ひびょういんにでも入るようにしてもらったらどんなものかね?」
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「入院したのは、はじめのことじゃ。もう退院たいいんしたんど。うちのおとっつぁん、昨日きのう道で先生にうたいよったもん」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
……その時にウチはメチャクチャに泣き出して、とっさんの頸にカジリ付いて、イクラ叱られても離れなかった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
柴山運八といって、近常さんと同業、錺屋さんだけれども、これは美術家で、そのおとっさんというのが以前後藤彫で、近常さんのお師匠さんなんですって。
「お照、ここがおとっさんのいる処だ。お父さんも随分変ったろう。」と兼太郎は火鉢の火を掻き立てながら、「ぬがないでもいいよ。寒いから着ておいで。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お前さんが、あの人を堕落させて、そのうえ、罪でも犯させてわらってやろうという魂胆こんたんは、そりゃおとっつぁんのことを考えりゃ、けっして無理とはいわないよ。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「手白、われぁ困りもんのことをしてくれたなあ、いまにおとっさんが帰ってらば、どんないによまアれる(叱られる)か知れんから、さアちゃっと山へ逃げろ」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
機械場のおとっつぁん、一つ景気よく馬を廻しておくんなさい。俺あ一度こいつに乗って見たくなった。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「アイ妾は一人娘さ、大事な子だということだよ、とっちゃんの名は彦兵衛さ、母ちゃんの名はおかやてんだ、浜路姉さんはいい人で、そりゃあ本当に可愛がってくれるよ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたしのおとっさんがよくそういましたっけ。思いかけずに死ぬるのが一番美しい死ですって。
『なんだろう、とっさん、あんな鳥がいるというが、鳥なら人が行けば逃げそうなもんだね。』
惨事のあと (新字新仮名) / 素木しづ(著)
「それがお前、おとっつぁんが今夜お帰りになるからって今知らせに寄って下さったんだよ」
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「君、鋳物いものをやる気はないんかね。おとっさんの伝でやって行きゃ、たちまち日本一だが。」
しねえように、お不動様へお願いしてるぜ。なあに中風だって治るんだ手当さえ早きゃ。とっさんが……父さんがきっと早くよくなるようにほんとにお不動様へお願い申して……
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
おふくろはとっつぁんを、婆さんは爺さまを、鶏は牛を、犬は馬を、みんながみんなを呼び出して来て、隣異と讃嘆をもって遠くから研究的に見物するんだから、こっちで私たちが
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
って用があるのならようござんす、お君ちゃん、おとっさんのお位牌もっといで。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「どうするの、おとっつぁん、夜釣りにゆくんならお弁当のしたくをするけれど」
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
叔父は鑵詰の口を開けながら風呂ふろへ入れてやろうかといった。米は「やめや。」といった。すると叔父は突然、「どうや米、お前先生とおとっつァんとどっちが好きや、うん。」といた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
とっさんの考えるような出世は、今の世の中で出来ようはずはないわ。大学を
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「早く早く、とっさん」母親はわめき立てた。「駆けて行くんだよ、駆けて」
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「おおおとっつぁん。な、なんでこのような姿になってやったん」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「わが石山丸の船長さ。おとっつぁんはまだかってんだよ」
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
「自分のおとっつぁんは支那浪人だと言ってたんだ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「おとっつぁんかねおッさんかね、———」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おとっさん、わたしどうしよう?」
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「どうしたンだい、おとっつぁン?」
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
とっさん、一杯つけてくんな」
撮影所殺人事件 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
「おとっさん。万年屋が……」
どうだった、とっちゃの方は?
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
とっさんはいるのかい。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「おとっさんは?」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
とっさんが死ぬ時に何と云ったえ、短慮功をなさずと云われて、れからはお前も懲りて喧嘩のけの字もしないように成ったが
「馬籠のおとっさんはまだそんなですかい。君も心配ですね。そう言えば、半蔵さん、江戸の方の様子は君もお聞きでしたろう。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)