無躾ぶしつけ)” の例文
甚だ当惑している次第ですが、どんなものでしょうか、無躾ぶしつけなお願いですが、この狆を一週間ばかり拝借することは出来ますまいか。
いや、無躾ぶしつけだが心からお礼をいわせて下さい。かまわんでしょうな。だが、あなたはどうしても役者か音楽家にならんけりゃいかん。
道化者 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
官僚式に出来上った彼の眼には、健三の態度が最初からすこぶる横着に見えた。超えてはならない階段を無躾ぶしつけに飛び越すようにも思われた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
筒井はしとやかにこれ以上たずねてくれるなという、柔らかい印象をあたえた。父という人は自らの無躾ぶしつけびるように、やさしくいった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「や、お初めて。」とリンコルンは初めて気がいたやうに会釈をした。「早速ではなは無躾ぶしつけなやうだが、一寸おたづねしたいと思つて……」
先生のお姉さんは、先生に似た顔をしていらっしゃるがどうしても態度が無躾ぶしつけに見える。坂本さん、蜷川さん、安藤さんなどのお話が出る。
こういう私のような者からこんな無躾ぶしつけなことを申し出されて、まことに思いがけなく思し召されたでもありましょうけれど
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
申上げてはかえって御受納くださらぬと存じ、はなはだ無躾ぶしつけながらそっと置いて参ります。お心置きなくお使い捨てください。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このよう無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
無躾ぶしつけにも、ずかずか奥深く参りましたで、黙って出て参るわけにも相成りませず、ほとんど立場をなくしております儀で。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青年は、美奈子の返事が遅いのを、彼女が内心当惑しているためだと思ったのであろう。彼は、自分の突然な申出の無躾ぶしつけさを恥じるように云った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それでもミスラ君は疑わしそうな眼つきを見せましたが、さすがにこの上念を押すのは無躾ぶしつけだとでも思ったのでしょう。やがて大様おおよううなずきながら
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
婆さんに跫音がないよなどとはまこと無礼なる悪表現で僕の無躾ぶしつけなポーズのせいに他ならぬ。要はあの時期が暗いのだ。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
雪子も最初はその無躾ぶしつけな視線を不愉快に感じるのみであったが、やがて、男が何か訳があって自分を視詰みつめているのではないか、と思うようになった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こちらが見てよくわかっているのにと思い、財布の銀貨をたもとの中で出し悩みながら、彼はその無躾ぶしつけに腹が立った。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
待つ気持のつらさというものは、よく判るですよ。……時に、無躾ぶしつけなことをお聞きするが、あんたのお客さんは、どうもまことに、不思議なお客さんばかりですね
三の字旅行会 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「お銭の勘定……人の家へ来て何だって、そんな無躾ぶしつけなことをなさるんです、いったいお前は誰です」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
筆者はいささか意外に思って、事の詳細を今一度同氏に問合わせたところ折返して左の通返事が来たから、無躾ぶしつけながらここに抜き書さしてもらう事にした。(原文のまま)
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
『あのたいそう無躾ぶしつけなことをうかがいますが、あなたさまはよほどながくここにお住居すまいでございますか。』
昨日きのう富家ふうかの門を守りて、くびに真鍮の輪をかけし身の、今日は喪家そうかとなりはてて、いぬるにとやなく食するに肉なく、は辻堂の床下ゆかしたに雨露をしのいで、無躾ぶしつけなる土豚もぐらに驚かされ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「はい、左様でございます。わたくしは、深川仲町裏に住んで居りまする、馬琴ばきんと申します若輩でございますが、少々先生にお願いの筋がございまして、無躾ぶしつけながら、斯様かように早朝からお邪魔に伺いました」
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
忠太郎 (感情をくじかれて)ご免なさい、無躾ぶしつけでござんした。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「では、無躾ぶしつけなようですが連れのご婦人は?」
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私の言葉は無作法で無躾ぶしつけでした。
あなたを怒らすためにわざと無躾ぶしつけな言葉をろうするのではありません。私の本意はあとをご覧になればよくわかる事と信じます。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本当に無躾ぶしつけだとは思いましたけれど、わたくし、先生に御すがりすれば、私がどうすればいいか、御教え下さるでしょうと思いましたものですから
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
肥満女ふとっちょの女中などは、失礼無躾ぶしつけ構っちゃいられん。膚脱はだぬぎの大汗を掻いて冬瓜とうがんの膝で乗上っても、その胸の悪玉に突離つッぱなされて、素転すてんころりと倒れる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一そ「しまった」と思った時に無躾ぶしつけびてしまえばかった。そう云うことにも気づかなかったと云うのは………
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
無躾ぶしつけに話しかける、私はそれを考えるとくすぐったいような、可笑しいような、それかと云って一種ロマンチックな気持にならずには居られませんでした。
たちあな姫 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
無躾ぶしつけな、人の居ない時にでも礼儀と云うものがあることを忘れた、浅ましい考案だと云わなければならない。
「お招き申して粗飯など差上げたいが、さし迫ったとりこみがござってそれもかなわぬ、謝礼と申しては無躾ぶしつけだが、かたち許りの寸志どうぞ御笑納下されたい」
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしてその御物越おんものごしはいたってしとやか、わたくしどもがどんな無躾ぶしつけ事柄ことがら申上もうしあげましても、けっしてイヤないろひとつおせにならず、どこまでも親切しんせつに、いろいろとおしえてくださいます。
突然こちらから訪問するのも無躾ぶしつけではないか——なあに、先方は来る早々から、あんなに親切にしてくれたのだから、その親切に対しても、一応のお礼は述べに行かなけりゃならん。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そばに寄って来た貞時は、いかにも、世なれぬ無躾ぶしつけさで筒井に求めた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
無躾ぶしつけとは重々存じながら、それが承わりてえのでござんす。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「こないにおそう、無躾ぶしつけうかがいまして。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたしは無躾ぶしつけを恥ぢながら、もと通り垂れ布をおろさうとした。が、ふと妙に思つた事には、少女は黙然もくねんと坐つたなり、頭の位置さへも変へようとしない。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そんな際誰も私の無躾ぶしつけをとがめる者はなかった。隠亡が、金火箸かなひばしで乱暴に灰のかたまりをたたき割るのを見た。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
虚心平気に、勝平の云い分を聴けば、無躾ぶしつけなところは、あるにせよ、成金らしい傲岸ごうがんな無遠慮なところはあるにせよ、それほど、悪意のあるものとは思われなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
椽側えんがはつてて、お嬢様ぢやうさま面白おもしろいことをしておけませう、無躾ぶしつけでござりますが、わたしにぎつてくださりますと、はちなか突込つツこんで、はちつかんでせましやう。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すこし無躾ぶしつけなくらいにまじまじと風態ふうていを見すえるとその男はべつにたじろぐ気色けしきもなくよい月でござりますなとさわやかなこえで挨拶あいさつして、いや、御風流なことでござります
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
無躾ぶしつけな来客の、人に迫るような言いぶりのうちに、なんだか、哀れな、いじらしいものがあるような心持に打たれて、米友はおこっていいのだか、同情していいのだか、自分ながらわからない心持で
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そんな事がまさか無躾ぶしつけに聞かれるもんですか」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
外のお邸ならば兎も角も、堀河の大殿樣の御側に仕へてゐるのを、如何に可愛いからと申しまして、かやうに無躾ぶしつけに御暇を願ひますものが、どこの國に居りませう。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それにしても余り無躾ぶしつけな質問ではないか。彼はこれまで一度も辻堂の怨霊について人に話したことはなかった。はずかしくってそんな馬鹿馬鹿しいことが云えなかったのだ。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、あの日私が又々無躾ぶしつけを申して、貴女様から、手酷く拒絶されたことは申上げますまい。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
無躾ぶしつけなことを伺うようでござりますが、もしやお身たちは、治部殿のゆかりのお方では」
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
縁側えんがわへやって来て、お嬢様面白いことをしてお目にけましょう、無躾ぶしつけでござりますが、わたしのこの手をにぎって下さりますと、あの蜂の中へ突込つッこんで、蜂をつかんで見せましょう。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「拙者には兄弟はないが、どうやら死んだ家内にでも会うような……そなた様を見てから、そんな気分も致すのじゃ——これはあまり無躾ぶしつけながら、不思議なめぐり会いが、ただごとでないように思う」
外のお邸ならば兎も角も、堀河の大殿様の御側に仕へてゐるのを、如何に可愛いからと申しまして、かやうに無躾ぶしつけに御暇を願ひますものが、どこの国に居りませう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)