洒落しゃれ)” の例文
甲高いよくとおる声で早口にものをいい、かならず人先に発言し、真面目まじめな話にも洒落しゃれや地口をまぜ、嘲弄ちょうろうするような言いかたをする。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「ほんとうに悪い洒落しゃれだ。この寒空につめてえ真似をするもんじゃあねえ。早く行かねえと、引き摺って行って、橋番に引き渡すぜ」
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
舞台ではお綱が人の妻君になってせいぜい甘ったれている芝居だから、さだめしよだれも流れましょうというあくどい洒落しゃれであった。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ああまでにしないと表わすことが出来ないような感情なら、東京人はむしろそんなものは表わさないで、あっさり洒落しゃれにしてしまう。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分は長身ながみの見物と洒落しゃれのめそうとしてみたかも知れないが、やっぱりキザなのは、それらの挙動の間、少しも眼を開かないのです。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
智深は洒落しゃれのつもりらしい。だが彼はがっかりした。気がついてみると、あたりのチンピラは、烏の群れよりはやく、逃げ散っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こん看板に梵天帯ぼんてんおび真鍮しんちゅう巻きの木刀を差した仲間奴ちゅうげんやっこ、お供先からぐれ出して抜け遊びとでも洒落しゃれたらしいのが、人浪ひとなみを分けて追いついた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
部屋の調度はなかなか洒落しゃれたもので、窓掛も、椅子いすも、卓子テーブルも、飾電灯シャンデリヤも存分に贅沢な趣味と、無法な浪費とを物語って居ります。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「とんでもないやつだ、ここで本当に裸になるということがあるか、洒落しゃれのわからねえ女は始末にいかねえ、おめえ屋島とかいったな」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どうしても妾は、静枝の云うように、彼女と産褥さんじょくにある母とを加えて、父が三人の双生児と洒落しゃれらしいことを云ったなどとは考えない。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一夜道心の俄坊主にわかぼうずが殊勝な顔をして、ムニャムニャとお経をんでお蝋を上げたは山門に住んだと同じ心の洒落しゃれから思立ったので
「うまい、まずいを言うのじゃない。いつの幾日いくかにも何時なんどきにも、洒落しゃれにもな、生れてからまだ一度も按摩さんの味を知らないんだよ。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一番槍いちばんやりはお手柄てがらだがゴルキじゃ、と野だがまた生意気を云うと、ゴルキと云うと露西亜ロシアの文学者みたような名だねと赤シャツが洒落しゃれた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
饂飩うどん素麺そうめんの湯煮たのを二、三十本混ぜて蒸しても洒落しゃれていますし、米の粉を大匙二杯ばかり入れて蒸しても美味しいものが出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ピータ なんぢゃ、けんしまうて洒落しゃれけ? よし! すれば、名劍めいけんしまうて名洒落めいじゃれ打挫うちひしいでくれう。さ、をとこらしう試合しあうてい。
そう思うと——若い女というものはおかしなものですねえ。——そう思うと自惚うぬぼれるんです。その時分は、私はそりゃお洒落しゃれでしたから。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
夜がけるにしたがって彼はますます空想に夢中になってゆき、私がどんな洒落しゃれを言ってもそれから覚ますことができなかった。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
ベルリンでは例のお洒落しゃれな皇太子を筆頭ひっとうに政府のお歴々、フランスでは陸軍大臣が、それぞれ彼女の愛を求めて、そして当分に得ている。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「先生のお洒落しゃれ! パパは、もうお支度が出来ているのに……」小太郎は、新子の部屋の扉を開けて、足踏みをしながら叫んだ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
甚だしいのになると、雨晴れてみのを脱ぎ、水尽きて舟を棄つるような気分で女に別れて、ああせいせいしたなどと洒落しゃれれているのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
で、夢の象徴化変形化のことは御承知でしょうが、また、一つの言語一つの思想が、まるで洒落しゃれのような形で現われることもあるのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
でも、あたしはこんな不器量な子だから、お洒落しゃれをすると笑われるかと思って、わざと男の子みたいな事ばかり言っていたのよ。ごめんね。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
サア気をもんで私に武者振付むしゃぶりつくように腹を立てたが、私もあとになって余り洒落しゃれに念が入過いりすぎたと思て心配した。随分間違まちがいの生じやすい話だから。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時には昨年の日記帳をひもといて読んでみることなどもあるが、そこには諧謔かいぎゃくもあれば洒落しゃれもある。笑いの影がいたるところに認められる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
篠原梅甫が今の妻女の小芳を吉原から身請みうけしたとき、場所が閑静なのと、構えの洒落しゃれている割に値が安かったところから買い取ったものだが
いずれ僕もあと三十年もしたら浴衣ゆかたがけで芸談一席と洒落しゃれる気になるかも知れないが、今のところはこの不細工な割烹着かっぽうぎを脱ぐつもりはない。
翻訳のむずかしさ (新字新仮名) / 神西清(著)
何かの突飛とっぴ洒落しゃれのように、夫人の言葉が聴えたからだ。すぐに人々は、前の話の続きにもどり、元気よくしゃべり出した。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
大阪人は、二輪加にわか、万歳、喜劇などを、随分生んでいるが、滑稽の才能は、確に、江戸の洒落しゃれよりも、優れているとおもう。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
田舎いなか風に洒落しゃれたところができていて、品悪く蓮葉はすっぱであれば、人型ひとがたもまた無用とするかもしれないのであると思い直しもした。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大きい洋風の建物が目についたり、東京にもみられないような奥行の深そうな美しい店屋や、洒落しゃれかまえの料理屋なども、物珍しくながめられた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お洒落しゃれしゃれても惚れ手がないよ。なんだい、いゝ着物を貰って着て、おいらの旦那を惚れかそうなんて、——てめえは、いろ気狂いだぞ」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こゝで名乗って置くが、僕は姓は橘高きったか、名は庄三しょうぞうである。新年会の折、専務の名倉氏なぐらしが僕の姓名を利用して洒落しゃれを言った。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
夫は、五十四という年齢に似合わぬ調和のとれた、器用な柔和な男で、気の利いた洒落しゃれも飛ばせば、ジプシイの唄に合わせて口吟くちずさんだりもした。
水商売の女性たちの参詣が盛んであるようですが、これは御鎮護様おちんごさまをオチンボサマに懸けた洒落しゃれ参りなのかも知れません。
寺内の奇人団 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
僕は君に一つきゃ出さない! さあ、もっと洒落しゃれのめしてみたまえ! ザミョートフはまだ小僧っ子だから、僕はやつを少々いじめてやるんだ。
広島県の漁村などには、夕食に近い間食を、孫茶まごちゃという言葉もある。もちろん小茶よりも小さいものという洒落しゃれであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
叶えてもらわねばならぬ。ど、どうせ、河原者風情に、汚されてしまうみさおだ! 浪路どの、拙者、洒落しゃれに、物をいっているのではござらぬぞ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
昔の和歌に巧妙な古歌の引用をもって賞讃を博したものがあるが、この種の絵もそういう技巧上の洒落しゃれえらぶ所がない。
院展日本画所感 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
マーシャルの島民は、殊にその女は、非常にお洒落しゃれである。日曜の朝は、てんでに色あざやかに着飾って教会へと出掛ける。
洒落しゃれまじりのいやに学者ぶった気障きざな文章だった。彼は学生監みたいな心をもっていた。時とすると、ごくまれに無惨な反駁はんばくを招くこともあった。
白いエプロンをかけて、長いひもを蝶々のように背中で結んで、ビールの栓抜きに鈴をつけた洒落しゃれた女給さんが眼に浮ぶ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
洒落しゃれかい、それとも無駄なのか」伊右衛門には興味も無さそうであった。「洒落にしちゃあ恐ろしい不味まずい。無駄にしちゃあ……いかにも無駄だ」
隠亡堀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし生活改善、簡易生活等の流行語と、実際的な必要とから洋服通勤諸子の家庭について、パンという物は決して洒落しゃれ見得みえではなくなって来た。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
足ですか、足は大丈夫ですヨ。すこし屠蘇に酔ってるんでしょう。時にきょうの飾りはひどく洒落しゃれていますな。この朝日は探幽たんゆうですか。炭取りに枯枝を
初夢 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「あら! それを出張っていうの? なかなか洒落しゃれているのね。——でも、小母さん、掏摸すりなんかには、なんかそんなところがあるそうじゃないの?」
街底の熔鉱炉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
日頃真面目な陸軍大臣の口から、思わず吹き出すような洒落しゃれが飛び出すのは、必ずそういう場面においてであった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
身装みなりはさほどよくなかったが、お金のことには至って無頓着だった。一体に無口の方だったが、時々とってつけたように、上手な皮肉や洒落しゃれを云った。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
くだんの鰭を頭巾に巻き付けたていが馬鹿に鶏冠に似ているので、洒落しゃれた風をする男をコックス・コームと称えたそうだ。
是真さんとは往来があったかどうか私は記憶にないが、父は是真さんの絵を殊にその意匠をひどく買っていた。洒落しゃれのうまいところなど好きなのである。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
あなた様はちっとも外出そとでをなさいませんな、此の二月でしたっけナ、山本さんと御一緒に梅見にお出掛けに成って、何か洒落しゃれをおっしゃいましたっけナ