横着おうちゃく)” の例文
それから、彼女の横着おうちゃくな小さな胸に、どうせ箱の中を見たと疑われるなら、今すぐ見ておいたって同じことだという考えが浮かびました。
返事を出し損なって、その中/\と思いながら、つい/\横着おうちゃくを極めていたら、今日母から少々不機嫌の音信いんしんに接した。けいと妹の件の催促だ。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かく横着おうちゃくにも敢て募集せずなどといふは投書を排斥するの意には非ず。もし募集すといふ以上は検閲の責任重くなりて病身のふる所に非ず。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ねこは、また、ねこで、だんだん横着おうちゃくになってきました。鰹節かつぶしをたくさんかけなければ、ただにおいをいだばかりでべようともいたしません。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
薬局生はりながら、「おおかたお宅からでしょう」と云った。冷笑なこの挨拶あいさつが、つい込み入った話に身を入れ過ぎた津田の心を横着おうちゃくにした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「もう、僕は、君をあきらめているんだ。」三木は、しんからいまいましそうに顔をしかめて、「君には、手のつけられない横着おうちゃくなところがある。 ...
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
捨てて置きながら、げに嫌だったらもう一度帰って来てその子の世話になろうといったような横着おうちゃくな心でのみ子供を愛しているのではないのですか
これらの受け持ちの人は外に幾人もいましたが、その人たちは道具方どうぐかたの男で、みんな意地悪の横着おうちゃくものばかりでした。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
このへんは、大体のところ彼の横着おうちゃくから来ているのであるが、又一つには、初手から私を無駄に心配させまいとしての友情が交っていることも確かだった。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
事態の逼迫ひっぱくを認識せず、物の軽重を穿きちがえた、横着おうちゃくとまではいかなくとも、いささか自己中心にすぎて、かなり滑稽こっけいな弁辞であると断ぜざるを得ない。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
真面目な人が跣足はだしで下りて、あれかこれかと捜しているうちに、無頓着な人は好い加減なのを穿いて行く。中には横着おうちゃくで新しそうなのをって穿く人もある。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
子どもを育てないやつが横着おうちゃく仕得しどくをしてるという法もない。これはどうしても国家が育児に関する何らかの制度を設けて、この不公平をめるのが当然だ。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
さっきは、大丈夫だいじょうぶだと思った。話がうますぎた。昨晩、横着おうちゃくをしたのがわるかったのだ。天罰覿面てんばつてきめんである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「いいや、ああはいっても、そのになると横着おうちゃくをきめててこないかもれません。約束やくそくちがえさせないために、なにか、しちにっておいてはどうでしょう。」
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
薩州と長州との横着おうちゃくがあまりといえば目に余る、どうしてもまず長州から征伐してかからねば、幕府の威信が地に落つるというのが、長州出兵論の根拠であります。
五人の人数にんずを要する上に、一度かいを揃えて漕出せば、疲れたからとて一人勝手にめる訳には行かないので、横着おうちゃく我儘わがまま連中れんじゅうは、ずっと気楽で旧式な荷足舟にたりぶねの方を選んだ。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
真心から熱い慈愛じあいをそそぎこめば、まがれる竹もまっすぐになり、ねじけた心もめなおせると信じているかれだったが、竹童はとにかく、蛾次郎の横着おうちゃく奸智かんち強情ごうじょうには
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叩き起された平次は、はなはだもって不服そうです。横着おうちゃくをきめているようですが、実は十手捕縄とりなわを預かっている八五郎に、たまにはひとり立ちの仕事をさせてみたかったのでしょう。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
平林という奴は誠に横着おうちゃくな奴で、平生罪人の内女の眉目みめき者がありますと、役柄をもはゞからずしょうにするという、現に只今でも一人ひとり囲い者にして男児を設けたということでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お前見たような横着おうちゃくな児は死んでしまうがよい」とさえ言うようになりました。
安死術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「これ、なにをする……横着おうちゃくなまねをするな……寄ってはならんともうすに」
わけをしなさんな。規則きそくは知っているだろう。着物をぬぎなさい。きのうの分が二つ、きょうの分が二つ。合わせて四つ。それから横着おうちゃくばつに夕食のいもはやらない。リカルド、いい子や。
もちろん酒はセラの寺内では非常に厳格に禁ぜられて居りますから決して飲むことは出来ないけれど、ラサ府に行けば壮士坊主の中には随分酒を飲んで横着おうちゃくな事をやる奴が沢山あるそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
近頃は爺婆じじばばの方が横着おうちゃくで、嫁をいじめる口叱言くちこごとを、お念仏で句読くとうを切ったり、膚脱はだぬぎうなぎくし横銜よこぐわえで題目をとなえたり、……昔からもそういうのもなかったんじゃないが、まだまだ胡散うさんながら
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいつは元来がんらい横着おうちゃくだから、川の中へでもいこんでやりましょう
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
中川「今申上げた通りに飼えば滅多めったにというよりほとんど病気になる事はありません。にわとりの病気は多く飼う人の不行届ふゆきとどき横着おうちゃくから起ります」老紳士「私の友人が以前飼った時分はよくノドケとハナゲという病気になったそうです」中川「あれはとり感冒かぜです。 ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「なれなくっても何でも思うんだ。思ってるうちに、世の中が、してくれるようになるんだ」と圭さんは横着おうちゃくを云う。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いもうとは、ずいぶん横着おうちゃくなおばあさんだとこころおもいました。また自分じぶんがおぶっては、あぶなくてわたられないからでした。
一本の銀の針 (新字新仮名) / 小川未明(著)
中には鉤があるのを承知で、餌丈け取りに来る横着おうちゃくな魚もいますよ。此方は万物の霊長れいちょうですもの。ういうずるい奴に制裁を加えるのは当り前のことです
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あれは人交ひとまじわりのできぬ素性の者であるに拘らず、能登守をあざむいて、その寵愛ちょうあいをほしいままにしているけがらわしい女、横着おうちゃくな女という評判が立っていることであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
横着おうちゃくなやつめ。小幡民部こばたみんぶどのからの大切なご書面、もしうしのうたらどうするつもりじゃ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
横着おうちゃくものめ、ぐずぐずしていると、たたきのめすぞ。」とどなりつけました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
それでは、と膝を崩して、やや顔を上げ、少し笑って見せると、こんどは、横着おうちゃくな奴だと言って叱られる。これはならぬと、あわてて膝を固くして、うなだれると、意気地が無いと言って叱られる。
一灯 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ある人諸官省の門番の横着おうちゃくなるを説く。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「関さんは華族だってなんだって堪忍かんにんしない。このクラスのものが一番横着おうちゃくでいけないっておこっているから、花岡がいってとっつかまれば早速教員室だよ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この軽便だってそうでしょう、あなた、なまじいあの仮橋で用が足りてるもんだから、会社の方で、いつまでも横着おうちゃくをきめ込みやがって、けかえねえんでさあ
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なんで、きよが、たこの善悪よしあしなんかるものですか。自分じぶんいにいくべきものを、横着おうちゃくをするから、そんなことになったのです。もう、あんたには、たこをってあげません。」
北風にたこは上がる (新字新仮名) / 小川未明(著)
横着おうちゃく和子わこではある。わしのいう叱言こごとを、みんなさきにじぶんからいってしまう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小林のような横着おうちゃくな男に金銭を恵むのはおろか、ちゃんとした証書を入れさせて、一時の用を足してやる好意すら、彼女の胸のどのすみからも出るはずはなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お父さんは僕のことを横着おうちゃくものだといってけなしても、自分もこの通り瓢箪鯰ひょうたんなまずである。都合の悪いことは努めて聞き流そうとする。腹がへっていなくても、これが癖だ。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その内で区別して見れば、横着おうちゃくな奴と、横着でない奴と、横着でないけれども分らないから横着をやって、まあ朝八時に起きる所を自然天然の傾向で十時頃まで寐ている。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
横着おうちゃくだね」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
夫婦ものに自分のような横着おうちゃくな泊り客は、こっちにも多少の窮屈きゅうくつまぬかれなかった。自分は電報のように簡単な端書はがきを書いたぎり何の音沙汰おとさたもない三沢がにくらしくなった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼らは自分の好きな時、自分の好きなものでなければ、書きもしなければこしらえもしない。至って横着おうちゃくな道楽者であるがすでに性質上道楽本位の職業をしているのだからやむをえないのです。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不完全なのは、我々の心掛が至らぬからの横着おうちゃくに起因するのだからして、もう少し修養して黒砂糖を白砂糖に精製するような具合に向上しなければならんという考で一生懸命に努力したのである。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)