極彩色ごくさいしき)” の例文
にごれるみづいろへて極彩色ごくさいしき金屏風きんびやうぶわたるがごとく、秋草模樣あきくさもやうつゆそでは、たか紫苑しをんこずゑりて、おどろてふとともにたゞよへり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
床には、彼の風雅癖を思わせて、明人みんびと仇英きゅうえいの、豊麗ほうれい孔雀くじゃくの、極彩色ごくさいしき大幅が掛けられ、わざと花を生けない花瓶は、そう代の磁だった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
白粉つ氣がないと矢張り元の三十前後の大年増ですが、その物淋しい美しさは、極彩色ごくさいしきのお勢よりは却つて清らかで魅力的であります。
ルールドの聖母やパドヴァの聖アントニオなどの像を壁にかけていた。ガラスのおおいをした極彩色ごくさいしきの小さな像で暖炉を飾っていた。
胡粉ごふんの雪の積つた柳、銀泥ぎんでいの黒く焼けた水、その上に浮んでゐる極彩色ごくさいしきのお前たち夫婦、——お前たちの画工は伊藤若冲いとうぢやくちうだ。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
文明人の思及しきゅうだも許されない怖愕テロリズムの極点に達して、犯人が手を使用して引き出したらしい腹部の内部諸器官が、鮮血のたまりと一緒に極彩色ごくさいしきの画面のように
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
坂東米八の掛け小屋が、旗やのぼりで飾られて、素晴らしい景気を呼んでいたが、そこに懸けられた、絵看板に、宿場女郎らしい美女の姿が、極彩色ごくさいしきで描かれていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
五角、軍配、奴、切抜き……極彩色ごくさいしきの凧ばかりのなかで、黒一色の顎十郎のからす凧がひどく目立つ。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
初々うい/\しき大島田おほしまだわたのやうにしぼりばなしふさ/\とかけて、鼈甲べつかうのさしこみふさつきのはなかんざしひらめかし、何時いつよりは極彩色ごくさいしきのたゞ京人形きようにんげうるやうにおもはれて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのつづきには満洲にありしといふ曼陀羅まんだら一幅極彩色ごくさいしきにて青き仏赤き仏様々の仏たちを画がきしを掛け、ガラス戸の外は雨後の空心よく晴れて庭の緑したたらんとす。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
明智の雄弁な話しぶりを聞いていますと、それらの犯罪物語は、まるで、けばけばしい極彩色ごくさいしきの絵巻物の様に、底知れぬ魅力をもって、三郎の眼前にまざまざと浮んで来るのでした。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
上は大穹窿おおまるがた天井てんじょう極彩色ごくさいしきの濃く眼にこたえる中に、あざやかな金箔きんぱくが、胸をおどらすほどに、さんとして輝いた。自分は前を見た。前は手欄てすりで尽きている。手欄の外にはにもない。大きな穴である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三光稲荷の夏祭は津島祭の逆鉾さかほこ舟——一年十二ヶ月は三百六十五の提灯ちょうちんを山と飾った華麗と涼味とを極めた囃子はやし舟である——にならって、これもおなじく水の祭が極彩色ごくさいしきでと町長の話であった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
これすなわち国貞風の極彩色ごくさいしきにして当時の人目じんもくを驚かしたるものなり。余はこの濃厚なる国貞の『田舎源氏』に対して国芳の得意とせる武者合戦の錦絵を以て流行の両極端を窺ふに足るものとなす。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その紙には一脚の厨子ずしの絵が、極彩色ごくさいしきで描いてあった。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
厚化粧に笹紅ささべに極彩色ごくさいしきをして、精いっぱいの媚と、踊りで鍛えた若々しい身のこなしを見ると、二十二三より上ではありません。
世話好せわずきなのが、二人ふたりつて、これかたはらかべけると、つばめでもがんでもなかつた。するところ樓臺亭館ろうだいていくわん重疊ちようでふとしてゆる𢌞めぐる、御殿造ごてんづくりの極彩色ごくさいしき
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大きな如輪じょりん長火鉢ながひばちそばにはきまって猫が寝ている。ふすまを越した次の座敷には薄暗い上にも更に薄暗いとこに、極彩色ごくさいしき豊国とよくにの女姿が、石州流せきしゅうりゅう生花いけばなのかげから、過ぎた時代の風俗を見せている。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ことごと肯綮こうけいに当るばかりでなく、最も侯爵を喜ばせたのは、幾百万の金銭にも換え難き名宝として珍蔵せる、藤原ふじわら時代の極彩色ごくさいしき仏画「閻魔天像えんまてんぞう」と、同時代の作、木造塗箔の阿弥陀如来あみだにょらい坐像との前に
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
(「美しさ」は極彩色ごくさいしきの中にあるばかりではない。)
厚化粧に笹紅さゝべに極彩色ごくさいしきをして、精一杯の媚と、踊できたへた若々しい身のこなしを見ると二十二三より上ではありません。
死んだ阿母おふくろが大事にしていた、絵も、歌の文字も、つい歌留多かるたが別にあってね、極彩色ごくさいしきの口絵の八九枚入った、綺麗きれいな本の小倉百人一首おぐらひゃくにんいっしゅというのが一冊あった。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胡粉ごふんを塗って極彩色ごくさいしきをして、ニンマリと笑っているんだが、そのあだっぽいことと言ったら——
年紀としわかい、十三四か、それとも五六、七八か、めじりべにれたらしいまで極彩色ごくさいしき化粧けしやうしたが、はげしくつかれたとえて、恍惚うつとりとしてほゝ蒼味あをみがさして、透通すきとほるほどいろしろい。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ヘエ。——昨夜までそこに置いたのは、極彩色ごくさいしきの普賢菩薩様でございました」
というが早いか、まばゆいばかり目の前へ、かすみを抜けた極彩色ごくさいしき
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)