はしご)” の例文
ローマにキリストの臍帯さいたいおよび陰前皮まえのかわと、キリストがカタリン女尊者に忍び通うた窓附の一室、またアレキシス尊者登天のはしごあり。
再び高いはしごに昇って元気よく仕事をしていた。松の枝が時々にみしりみしりとたわんだ。その音をきくごとに、私は不安にたえなかった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕は先に立ちて暗きはしごを登りゆくに、我は詞もあらでその後に隨ひぬ。僕は戸外の鈴索れいさくいたり。内よりぞやといふは女の聲なり。
彼ははしごを隔てゝ大天地を望めり。されば個想は絶對結象の想にあらざるゆゑに分想パルチヤアルイデエなれども、又小天地の完想として見らるべし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
別荘造りのような構えで、真ん中に広い階段があって、右の隅に寄せて勝手口のはしごが設けてある。家番やばんに問えば、目指す家は奥の住いだと云った。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
ところが、それを聞いた江南のある人が、自分は度々土地の人が橄欖の実を採るのを見たことがあるが、みんなはしごに登るか、竿で打つかしてゐる。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
隣の男は帰って往ったが、その夜友達と相談してげいしゃれて往って、垣にはしごをかけて門の中に入れて扉をことことと叩かした。桑はちょっとのぞいて
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
葱嶺そうれいゆるに毒風肌を切り、飛砂みちふさぐ、渓間けいかん懸絶けんぜつするにへば、なわを以てはしとなし、空にはしごして進む」
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
村瀬が子供つぽい仕草で彼女にかくしてゐたものはこれだつた。彼はこの本の数行の活字をはしごにして、三人の伝説にぢ登らうと一生懸命になつてゐたのだ。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
古関、飯田、はしご、新屋、点々と小さな部落があった。彼は部落を故意わざと避け、先へ先へと進んで行った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
吾人の家屋は新なりと雖、吾人の成心せいしんは古しと。吾人はこの語の猶事実に合せざるを遺憾とす。なんとなれば吾人の家屋はそのはしごを新にしたるのみにて実は古きなり。
或は父母の呪咀と悲哀と隣人の道徳的弁明等を後にしてはしごと縄とによる月夜の出奔を讚美したい。
婦人解放の悲劇 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
主人は己をいて、はしごを一つ登つた。その着てゐる長い上衣の裾が、大理石の階段の上を曳いて、微かな、鈍い音をさせる。己の靴の踵がその階段を踏んで反響を起す。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
音でも高い音、低い音と一般にいうけれども、別に音の世界に空間的なはしごがあるわけではない。
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
「親類の家は、すぐ目と鼻の間ですから、はしごをかけてかきねを越さしてくださればいいのです。」
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
つまりはその天地にはしごを架ける一本の蔓草つるくさの、非凡な発育を念じたものに過ぎなかった。ただ後者はその瓜と青竹とが、もう離れ離れのものになろうとしていただけである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
きしにたちてこれをみれば、かのはしご石壇いしだんのごとくふみくだり、橋をゆく事平地のごとく、そのなかばにいたれば橋揺々えう/\としてあやふき事いはんかたなく、見るにさへ身の毛いよだつばかり也。
小舟船梯せんていの底に入り、浪と共に上下し、激して声を成す、船員驚き怒り、棍を携え、梯子に立ち、二人の船を衝きしりぞけんとす。松陰はしごおどってその梯に在り、金子を顧みてともづならしむ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
所がわたしの心持は、あの火見ひのみはしごの下から、3655
險しきはしごを登りて、烟突の傍なる小部屋に入り、こゝにて食を饗せられき。我心にては、國王のうたげに召されたるかとおぼえつ。
「まあ、様子次第だ」こう云って、座敷の真中を通って、廊下に出て、はしごを降りた。実際目立たないように帰られたら帰ろう位の考であった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
宝生太夫は可笑をかしくなつたが、笑ふ訳にもかなかつた。すると給仕の女が、黒塗に金蒔絵をした七つはしごをかけて、蒲団の山へあがつて往つた。そして宝生が暑さ見舞に来た由を申し上げた。
そのとき一人の悪漢があって、呉侍御の女の美しいのを見て、そっと所を聞いておいて、夜になってはしごをかけて忍びこんだ。そして寝室に穴を開けて入り、一人の婢を榻の下で殺して女にせまった。
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
軍人も、はしごや、刀や
その時戸口をふさぎたるは、血ばしるまなこを我等に注ぎたる、水牛の頭なりき。ドメニカはあと叫びて、我手を握り、上の間にゆくはしごを二足三足のぼりぬ。
さきからはまたどう言ふつもりか、所詮内気うちきなこの身には過ぎた相手ととつおいつ、思案もまだ極まらぬ時、ばたばたとはしご降り来し梅子文子は息を切らせて
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
人の見るが厭はしさに、早足に行く少女の跡に附きて、寺の筋向ひなる大戸を入れば、缺け損じたる石のはしごあり。これを上ぼりて、四階目に腰を折りて潜るべき程の戸あり。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
女中に「お二階へ」と云われて、はしごを登り掛かると、上から降りて来る女が「お暑うございますことね」と声を掛けた。見れば、柳橋で私の唯一人識っている年増芸者であった。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
まことは藤井屋なり。主人驚きて簷端のきは傾きたる家の一間払いて居らす。家のつくり、中庭をかこみて四方に低き楼あり。中庭より直に楼に上るべきはしごかけたるなど西洋の裏屋うらやの如し。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人の見るがいとわしさに、早足に行く少女のあとにつきて、寺の筋向かいなる大戸おおとれば、欠け損じたる石のはしごあり。これをぼりて、四階目に腰を折りてくぐるべきほどの戸あり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
梅子は枝豆の甘皮あまかわ酸漿ほおずきのやうにこしらへ、口の所を指尖ゆびさきつまみ、ぬかに当ててぱちぱちと鳴らしてゐる、そこへ下より清さんがおいでですとの知らせと共に、はしごを上り来る清二郎が拵は細上布ほそじょうふ帷子かたびら
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
余は彼の燈火ともしびの海を渡り来て、この狭く薄暗きこうぢに入り、楼上の木欄おばしまに干したる敷布、襦袢はだぎなどまだ取入れぬ人家、頬髭長き猶太ユダヤ教徒のおきな戸前こぜんたゝずみたる居酒屋、一つのはしごは直ちにたかどのに達し
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
金のある人は何も出来ない。富人が金を得れば、悪業あくぎょうが増長する。貧人が金を得れば堕落のはしごくだってく。金が集まって資本になると、個人をわざわいするものが一変して人類を禍するものになる。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
樓上の木欄おばしまに干したる敷布、襦袢はだぎなどまだ取入れぬ人家、頬髭長き猶太ユダヤ教徒の翁が戸前に佇みたる居酒屋、一つのはしごは直ちにたかどのに達し、他の梯はあなぐら住まひの鍛冶が家に通じたる貸家などに向ひて
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
馭丁ぎょていに「カバン」持たせてはしごを登らんとするほどに、エリスの梯をおりるにいぬ。彼が一声叫びてわがうなじいだきしを見て馭丁はあきれたる面もちにて、なにやらんひげのうちにて言いしが聞こえず。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
戸口に入りしより疲れを覚えて、身の節の痛み堪えがたければ、うごとくにはしごを登りつ。庖廚ほうちゅうを過ぎ、へやの戸を開きて入りしに、机に倚りて襁褓むつき縫いたりしエリスは振り返りて、「あ」と叫びぬ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)