書物かきもの)” の例文
近所への人づきあいもせずに、夜遅くまで書物かきものをしていた蕪村。冬の寒夜に火桶ひおけを抱えて、人生の寂寥せきりょうと貧困とを悲しんでいた蕪村。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
明けられる「まど」は少し位無理をしたって開けっぱなして客があったらすっかりなかが見える様にしたまんま書物かきものをして居た。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
祖父ぢぢはわたくしの申したことが聞こえた顔もせず、筆を筆立へ納めて、大欠伸おほあくびをし、母に命じていた書物かきものを待たせて置いた小僧にやらせました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
吉之助は、何か書物かきものをしていたが、俊斎を、ちらっと、上眼で見て、又、書きつづけていた。有村は、縁側から上って、机の側へ坐った。そして
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「幸と硫黄はなんともなかった。書物かきものをすこしやられたが、それはまた書けば書けるから、どうか御安心ください。」
龍介はへやへ入った。事務室に桂河探偵がいた、例によって帽子をかぶったまま大卓子テーブルに向かって何か書物かきものをしていた。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其の文章は四角な文字ばかりでわたくしどもには読めませんが、是もまた名文で、今日こんにちになっては其の書物かきものばかりでも大層な価値ねうちがあると申す事でございます。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なるほど読書は悪い事でありますまいけれども生活問題に必要な書物かきものを読んで食物の事を衛生上から研究するとか
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
初め妾が夢の中で美留女でいる時に、銀杏の根元で拾った書物かきものに、妾が女王になった挿し絵があるのを見ますと、妾は急に女王になりたくなりました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「今晩は駄目だ。僕は書物かきものが忙しいから失敬すると田原に云つてくれたまへ。第一もう十時過ぎだぜ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
あぶも蜂もあるものか、大事な洞白の仮面箱めんばこ——そりゃまあいいとしても、あの夜光の短刀のことが書いてある書物かきものを、こんな所へ落としちまっちゃあ仕様がねえ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このひど當外あてはづれは、私を泣かせて了つた。そして今も机に向つて、印度の書物かきものの難解な文字と複雜な語法をじつと考へつめてゐる内に、私の眼は再び一ぱいになつた。
さて落着て居廻りを視回みまわすと、仔細しさいらしくくびかたぶけて書物かきものをするもの、蚤取眼のみとりまなこになって校合きょうごうをするもの、筆をくわえていそがわし気に帳簿を繰るものと種々さまざま有る中に
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
野本氏の手に残して来たのと寸分違わない、二つの金メダルが、書物かきもの机の抽斗の中に待っていた。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
庄屋の長左衛門も初めて事情が解ったので、早速太郎右衛門のところへ行って、神棚かみだなに入れて置いた書物かきものを出させ、太郎右衛門と朝太郎を同道して、代官様の前に表われました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
書物かきものにも見えますが、三浦郡みうらごおり久能谷くのやでは、この岩殿寺いわとでらが、土地の草分くさわけと申しまする。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だってあなた、本当にしんから健康におなりなすったのではないのですからね」と、微笑ほほえみながら云った。男が持って来た本や書物かきものの積み上げてある小卓こづくえの上に日影が躍っている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
居士は一夕碧梧桐君と余とを携えてそこに別離を叙し別るるに臨んで一封の書物かきものを余らに渡した。それは余らを訓戒するというよりも寧ろ居士自身の抱懐を述ぶる処のものであった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
卓子の上には、シェードを深くおろした台ランプが一つと、マッチをそえた灰皿が一つおいてあるきりだ。通りに面した窓の左寄りに書物かきもの机があって、その上にはインク壺とペンとがのっている。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
私等二人のして来た苦労が今更に哀れなものとも美しいものとも思はれます。この書物かきものが不用になつて、また何年かののちに更に覚書を作るのであつたなら、この感は一層深いであらうと思ひます。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼はふと眼を転じて、あらわな白いかいなの傍に放り出された一束ひとたば書物かきものに気を付けた。それは普通の手紙の重なり合ったものでもなければ、また新らしい印刷物を一纏ひとまとめくくったものとも見えなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
懐中からその書物かきものとそれから私が必要と思う梵語ぼんご文典の目録を
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
書物かきものをしてゐた。一年級は放課後であつた。
(新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それを確めるには書物かきものがいる、印璽いんじがいる。
書物かきものをしてゐた役人はびつくりした。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「まずこれを」と書物かきものを出した。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それはわたしにはわかりませぬ、そんな事が書物かきものにあつたとひますけれども、わたしにはわかりませぬ」「初代しよだい多助たすけといふ人は上州じやうしうの人ださうですが、さうかえ」
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
こゝは祖父ぢぢ書物かきものをする書斎で、母は中に取り散らした紙や本などの片づけに来たのでした。祖父ぢぢは今思つて見れば、此時原稿の校正をして居りましたのでした。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
書物かきものか、器物の調査か、寸暇も、手を、頭を、眼を休めない斉彬であったし——こうした、眼を閉じた斉彬、頬に、眉に、疲れを見せた斉彬は、考えられぬものであった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「……こうして夢中になって書物かきものをしている間が、私には、無上の楽しみでございますから」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも私のへこんだこの眼で、チャンと見て来た事実の話じゃ。今日が封切、お金は要らない。要らぬばかりかその聞き賃には、こんな書物かきものを一冊上げます。私が只今唄うております。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だが、蘭堂は暫くその微粒子を指先でコロコロやっている内に、何を発見したのか、矢庭やにわに立上って、書物かきもの机の抽斗ひきだしから、虫眼鏡を持出して来て、米粒の一つをつまみ上げ、熱心に覗き始めた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
書物かきものまで取るのかい。悪く堅い奴だな。
富五郎は書物かきものが分りませんから眼を通してと、惣次郎へ帳面を見せ、わざと手間取るから遅くなります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
兵太夫は、こういって、片隅の机で、何か書物かきものをしている、袋持へ、話しかけた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
祖父ぢいさまはそれを請取うけとり、銀貨をひつくらかへし、兎見角見とみかくみして、新らしい銀貨だとおつしやつて二ツともそのまゝ私に下すつて、まだ書物かきものがあるからといつて急に私にあちらへ行けとおつしやましたから
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
と河合伝八の言葉は意味ありげでしたが、書物かきものかがんだままの二官は
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この書物かきものは、恋物語を書くのが主眼でもなく、そんなことで暇どるには、余りに書くべき事柄が多いので、それからの、私と木崎初代との恋愛の進行については、ごくかいつまんで記すにとどめるが
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私が茲で助けても親切が届かんでは詰らん、お前さんの言葉の様子では武家に相違ない様だが、私の処は秋口で書物かきものなどが忙がしいが、どうだね、許して上げますが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『いずれ又会おう。急用のできた場合は、毘沙門堂びしゃもんどうの例の額堂がくどう、あそこの北の柱へ、釘で目印をつけておく。書物かきものは、その額堂の絵馬えまのどれかの裏へ隠しておくから、時々、柱の目印を見に来てくれ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
へえ今日こんにちは。先「なんだ、人が書物かきものをしてる所へどうもバタ/″\けちやア困るぢやアないか。小「へえ、うち主人しゆじんが先生へこれげてれろとまうしましたからつてまゐりました。 ...
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
源「へえ、是だけは、それを言えば斬ると仰しゃいました、へえ、何うかまア種々いろ/\そのお書物かきものの中へ、わたくしにその、血で爪印をしろと仰しゃいましたから、少し爪の先を切りました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おまへさんの所になに書物かきものはありませぬかえ——御先祖ごせんぞ塩原多助しほばらたすけ書類しよるゐなにのこつてゐませぬか」「なにりませぬ、少しはのこつてゐた物もりましたが、此前このまへの火事でけましたから、 ...
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
金は沢山たんとじゃアえが、書物かきもの大切だいじだから取って来いよ貴様、へえッてんで此方こっちは取りにけえって、これ/\というと、若衆飛んだ云い掛ったことを云うな、有ればちゃんと取って置くよと云うから